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「ニコチン入り電子タバコ」でタバコがやめられる?~アメリカで熱い議論~

「ニコチン入り電子タバコ」でタバコがやめられる?~アメリカで熱い議論~

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38727

現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン vol069より

専門家の間で意見が真っ二つに分かれた

公衆衛生の有能な研究者であるボストン大学のマイケル・シーゲル博士は、電子タバコの登場はアメリカにおいて、タバコが終わる幕開けとなりうると主張する。電子タバコは破壊的なイノベーションであり、コンピューターがタイプライターを駆逐したように、タバコを時代遅れなものとする可能性を秘めていると考えている。

しかし彼の恩師である、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のスタントン・A・グランツ教授は、電子タバコが喫煙者を半世紀かけて減らしてきた努力を台無しにしてしまうかもしれない、という強い懸念を示している。この現代的なアイディア商品が、子どもたちにとっては、古臭く、極めて有害な習慣へ導く入口となり、また喫煙をたしなむ大人にとっては、今後もニコチンにしがみつくことになるだろうと予測している。

現在、電子タバコをめぐり、公衆衛生の専門家の間では闘いが勃発している。ふたりの意見は両陣営を代表している。電子タバコはニコチン中毒を招く危険性をはらんでいるが、従来のタバコとは違い有毒なタールを含んでいない。長い間、喫煙習慣や大手タバコメーカーに対し一丸となって闘ってきた、普段は平穏な公衆衛生学のコミュニティを電子タバコが真っ二つにしてしまったのだ。

彼らの意見は違えどひとつの大きな疑問に辿りつく。それは「はたして電子タバコは喫煙習慣を助長するものだろうか、それとも抑制するものだろうか」という決定的に重要な疑問である。なぜなら現在でも、喫煙はアメリカ国民が回避できる死因の中でも最大で、その死者は年間約48万人にも及んでいるからだ。

シーゲル博士は大学院時代に書いた論文で、電子タバコの悲観論者は、見た目が喫煙に似ているものはすべて悪いものだという考え方にとらわれていると訴えた。当然、グランツ博士はその論文に目を通している。シーゲル博士は「悲観論者は目を曇らされていて、電子タバコを客観的に眺めることができなくなっている」と語る。一方、グランツ博士は「電子タバコは確かに素晴らしいアイディアに見えるが実際はそうではない」と、この意見に反対だ。

科学こそが電子タバコに関するこれらの疑問に答えてくれると期待されているが、いまだ研究段階である。電子タバコを幅広い消費者が長期的に使用した際の効果を、確定的に結論付けるには証拠不十分だと多くの専門家が認めている。

安全性は確認できていない

「知識よりも人気が出てしまった」。こう語るのはラトガーズ大学ロバート・ウッド・ジョンソン・メディカル・スクールの准教授、マイケル・B・スタインバーグ博士である。「電子タバコの安全性の確認には、まだ1、2年はかかるだろう。問題なのは、そのときには、すでに手遅れかもしれないということだ」。

電子タバコは米国4200万人の喫煙者にとってどんな意味を持つのかという、非常に重要なこの論争は、いま重大な局面に至っている。今まで政府からの実質的な監視はなく、爆発的に普及した電子タバコに、ついにFDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局
)が規制をかけると見込まれている。(ボストンやニューヨークなどの一部の都市や、ニュージャージーやユタなどの州は、すでに公共の場での電子タバコの使用を禁じている)。

公衆衛生に対して広い範囲で影響を及ぼす連邦法も、いくつか成立する見通しだ。その法律があまりに厳しければ、小規模な電子タバコ会社の倒産を招き、それが最近参入したばかりの大手タバコ会社に利益をもたらすことになる、と専門家は警鐘を鳴らす。一方、逆に法律が甘ければ、いい加減な会社が不健康な、あるいは人体に害を及ぼすような商品を販売する可能性もある。

喫煙による死亡者数を電子タバコよって効果的に減らすためには、政府の適正な規制が必要だと多くの科学者が指摘している。たとえば、通常のタバコの価格を電子タバコよりも高めに誘導する法律や、あるいは、通常のタバコのニコチン含有量を減らすことで、消費者を電子タバコへ促す法律などによる規制だ。

喫煙に関する調査機関の“レガシー基金・煙草および政策調査シュレーダー国立研究所”のデビッド・B・アブラム常任理事は「電子タバコは奇跡の万能薬ではありません。タバコをやめさせるには、後押しが必要です。タバコほど危険でありながら、人に満足感を与える商品はありません」と述べた。

喫煙がカッコよく見える電子タバコの広告

喫煙はすでに急激な進化の途上にある。強力な刺激剤であるニコチンは、従来のタバコに依存性をもたらしている。父親を肺がんで亡くしたある中国人薬剤師によって作られた電子タバコにとっても、ニコチンは重要な成分だ。電子タバコでは、液体を加熱して作った蒸気を通じてニコチンを吸引する。最新の研究によると、あまり人気のないガムやトローチ式の禁煙促進商品よりも、電子タバコによるほうが速やかにニコチンを摂取することができる。

ウェルズ・ファーゴ証券のアナリストであるボニー・ヘルツォーク氏によれば、電子タバコの売上げは2012年から優に倍増し17億ドルとなった。「今後10年から20年の間で、電子タバコの売上はタバコの売上を上回るかもしれません」とヘルツォーク氏は語る。タバコ産業の業界団体である“スモーク・フリー・オルタナティブ・トレード・アソシエーション”によると、電子タバコの販売店舗数は、昨年1年間で4倍にも増えた。

「電子タバコの利用者は、絶対に財布と相談しているはずだ」。こう語るのは、FDAタバコ製品センターのミッシェル・ゼラー部長だ。

喫煙者はニコチンを欲してタバコを吸い、タールによって命を落とす、と公衆衛生の専門家は言う。電子タバコが世間の関心をこれだけ集める理由は、ニコチンの魅惑に耽溺し、紫煙の雰囲気を楽しみながらも、タールに命を奪われる心配がないからだ。この新しい機器について、すべてが分かっているワケではない。まだアメリカの市場に登場してから7年間しか経っていないのだ。しかし多くの研究者の意見が、従来のタバコをふかすよりも電子タバコを吸う方が、はるかに有害性が低いということで一致している。

しかし、そこからの意見は分かれる。

グランツ博士のような悲観論者は、電子タバコは理論的には善だが、現実的には悪であると主張する。彼は「電子タバコの利用者の大多数は、従来のタバコも吸い続けています。電子タバコに乗り換えた人がたくさんいるという証拠は、ほとんどありません」と述べる。規制上タバコを吸えない場所で、ニコチンを採るために電子タバコを吸えば、喫煙の習慣を長引かせることにもなる、と博士は続ける。

さらに問題なのは、しばらく見ていなかったタバコの看板やテレビ広告が電子タバコで復活し、喫煙にカッコいいイメージを定着させてしまうことだと、反対者は憂慮する。タバコの広告を今までに見たことがある人は、アメリカ全体の人口の半分くらいだろう、とグランツ博士は言う。「まるでタイムマシーンに載って1980年代に舞い戻ったような感覚です」。

ニコチンやその他の含有成分は有害か?

研究者は、若年者にとっては電子タバコが従来のタバコへの橋渡しになってしまうことを恐れている。電子タバコはインターネットで売られており、蒸気の元になる液体には、マンゴーやスイカの香りの成分が入っている。セレブもご愛用だ。ジュリア・ルイス=ドレイファスやレオナルド・ディカプリオは、ゴールデングローブ賞の授賞式で電子タバコをくゆらせていた。

アメリカ疾病管理予防センターの2012年の調査によると、高校生の10%が電子タバコを試したことがあると回答している。2011年は5%だったので確実に増加している。電子タバコを吸ったことがある生徒のうち7%は、従来のタバコを吸ったことがなかった。つまり、電子タバコが従来のタバコへの実際上の橋渡しになることが懸念されるのだ。

「この場合、より安全なのは後悔する前に、予防策を講じることだ」と、アメリカ疾病管理予防センターのトーマス・フリーデン部長は語る。

電子タバコの懐疑論者は、ニコチン中毒への懸念も示している。しかしニコチンそれ自体は、深刻な健康被害をもたらすものではないと、多くの研究者は考えている。タバコの代替物として、ニコチンのトローチやパッチが使われるようになって何年も経っている。気分を高揚させる常習性のある物質という意味で、ニコチンはカフェインのようなものだと主張する研究者さえいる。

「ニコチンは健康に悪影響を与えるかもしれないが、それはあまり深刻ではない」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部のニール・L・ベノウィッツ教授は語る。彼はニコチンを専門に研究する薬理学者だ。

電子タバコの蒸気を放出させる別の含有物にプロピレン・グリコールがある。これはコンサートや芝居のステージで、スモークとして使われている物質で肺を刺激する。これを繰り返し吸引することにベノウィッツ教授は懸念を示す。

喫煙との懸命なバトルに数十年も費やした結果、一部の公衆衛生の専門家は電子タバコに対し頑迷になり過ぎてしまったのではないか、とシーゲル博士らは主張する。タバコによる害を減らすことを目的とすべきであり、電子タバコはその目的にかなっていると博士は訴えている。ドラッグ乱用者に清潔な注射針を与えて、エイズを引き起こすウイルスへの感染の確率を下げる戦略と同じ考えだ。

良し悪しどちらともとれる不確実性

電子タバコについて、明白なことは限られている。今まででもっとも信頼できる研究だと、多くの研究者が認めている臨床試験は、ニュージーランドで行われたものだ。それによると6カ月の試験ののち、電子タバコによって禁煙できた人の割合は7%だった。この数字はパッチによる禁煙の成功率よりも、わずかだが良い。

「この結果は興味深いものだが、まだ大したものではない」。こう語るのは、米国がん協会のトーマス・J・グリン研究員だ。アメリカよりもタバコに関する規制が進んでいるイギリスでは、喫煙習慣は正しい方向に向かっている、と彼は続けた。

ロンドン大学でタバコ研究部門の責任者を務めるロバート・ウエスト氏は「禁煙のモチベーションは上がっており、禁煙に成功した人の数も増えています。喫煙者数の減少はここ6、7年と比べて、加速度を増しています」と語る。さらに「この傾向が、電子タバコによるものかどうかを知るのは不可能です。しかし禁煙の邪魔をしていないことだけは確かだと言えるでしょう」と述べている。

この科学的な不確実性が、公衆衛生学会を2つに分ける戦いに導いてきた。自陣に都合のよいデータばかりを、両者がともに探し出す。

グランツ博士は、ドイツで最近行われた、電子タバコの副流煙についての研究結果に駆り立てられブログに「この研究により、電気タバコが空気を汚染することが、より明らかになった」と投稿した。ところが同じ研究結果もシーゲル博士から見れば「公衆衛生上、明確な危険性の証拠を見つけることはできなかった」となる。

電子タバコは善なのか、悪なのか

専門家や消費者グループの懐疑心は、大手タバコ会社が電子タバコを販売したことによっても助長された。

1920年代に喫煙習慣は広く普及し、1940年代までに、肺がんの発症率は爆発的に増加した。アメリカの現在までの喫煙による死亡者数は、戦争による死亡者の合計数を上回るほどだ。しかし男性の半分、女性の3分の1が煙草を吸っていた1960年代を境に、喫煙率は劇的に減ってきている。ところがこの減少の割合は鈍化しており、現在の喫煙率は約18%というところだ。

「タバコ産業は悪であり彼らが行うことにはすべて反対するべきだ、といった考え方は、意識できないほどに私たちに身についている」と、“英国タバコ及びアルコール研究センター”の部長であり、英ノッティンガム大学の疫学の教授であるジョン・ブリットン氏は語る。さらに「タバコ産業に、公衆衛生を邪魔したいと思う人はいない」と続ける。

シュレーダー国立研究所のアブラム博士は次のように語る。注意深くひねり出された政府の規制は、市場をうまく誘導した。そしてタバコ会社が電子タバコを製造するように、うまく誘い込んだ。その結果、タバコ会社は伝統的なタバコを、自分の手で滅ぼす道に踏み込んでしまったのかもしれない。続けて、「柔術のように敵の体重を使って、相手に制するべきだ」とも述べている。

FDAが従来のタバコに許可しているニコチンの含有量を徐々に減らし、喫煙者を電子タバコに導いていることは明らかだと、ベノウィッツ博士は語る。 

「この実験を続けるために、強硬になり過ぎれば、数百万人の命を実際に救う機会を失う可能性がある」とシーゲル博士は指摘する。

グレンツ博士はこの考えには反対だ。

「率直に言って、この亀裂はあと1年は続くと思われる。そのうち明確な証拠が現れてくるはずだ」。

(文・サブリナ・タベルニス 翻訳・松村保孝)

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