« 【喫煙を考える】事業主の受動喫煙対策は「義務」か「努力義務」か 厚労省の「改正安衛法案」 | トップページ | 副流煙の害は臭いでも? »

海外では建物内「全面禁煙」が当たり前? 受動喫煙防止法案を弁護士が批判する理由

海外では建物内「全面禁煙」が当たり前? 受動喫煙防止法案を弁護士が批判する理由

http://blogos.com/article/83117/

喫煙しない人が、タバコの煙を吸わずに暮らせる社会は、いつ実現するのだろうか。

禁煙・分煙が進んできたとはいえ、職場のビルでも飲食店でも、タバコの煙はどこからともなく漂ってくる。煙が苦手なのに、紫煙の中で生活しなければならない、となれば、さながら生き地獄のように感じている人もいるだろう。

そんな状況を改善するため、厚生労働省は3月13日、事業者が職場での受動喫煙を防止するよう努める、とした労働安全衛生法改正案を国会に提出した。

一歩前進にみえるこの法案だが、受動喫煙問題に取り組む岡本光樹弁護士は落胆を隠さない。なぜなのだろうか?

●受動喫煙防止の「義務規定」が後退した

実は、今回提出された改正案は、かつて2011年12月に国会提出され、ねじれ国会で審議されずに廃案となった改正案と比べると、「受動喫煙防止の義務規定が後退している」というのだ。

後退したというのは、どういうことか? 岡本弁護士によると、前回の法案では、事業者が受動喫煙防止のための措置を「講じなければならない」とされていた。ところが、今回の法案では、「措置を講ずるよう努める」(努力義務)と変わったという。

つまり、前回案では事業者に受動喫煙防止措置を講じる「義務」を課してしていたのに、今回はそこまでは踏み込まず、「努力」すればいいとなってしまったのだ。岡本弁護士はこの点を「残念」と言っているわけだ。

●受動喫煙をめぐる対策の動き

では、受動喫煙をめぐる日本の法律は、いま、どんな流れの中にあるのだろうか。

「日本の受動喫煙防止対策は、2003年『健康増進法』施行、2005年『たばこ規制枠組条約』発効と進んできました。さらに、受動喫煙の有害性に関する知識の普及等を踏まえて、従来の『職場を快適に』というレベルから、労働者の『健康障害防止』のために必要だというレベルへ引き上げられてきました。

たとえば、我が国も批准した『たばこ規制枠組条約』のガイドライン(2007年7月採択)では、次のような基準が示されています。

・100%禁煙以外の措置(換気、喫煙区域の使用)は、不完全である。

・立法措置は、責任および罰則を盛り込むべきである。

・条約発効後5年以内(2010年2月27日まで)に実現すべき」

●条約のガイドラインに比べて「大幅後退」

「日本も本来、このような勧告に沿った法律改正をすべきなのです。

しかし、厚労省は喫煙擁護側の反対意見を踏まえて、2011年12月に相当弱めた法案を作ってしまいました。罰則は当面付けず、指導中心とするという内容で、飲食店については当分の間、換気措置も認める、といった妥協法案でした。

これは条約ガイドラインに比べれば大幅に後退しています。しかし、それでも、事業者の受動喫煙防止の義務が明文化され、労基署等が積極的に指導していくことは一歩前進だと考えられていたのですが・・・」

こうした話を踏まえると、今回の法案はどうだろうか。

「今回の法案は、2011年の改正案に比べて、受動喫煙防止の義務規定を、『努力義務』にトーンダウンさせた上で、受動喫煙を防止するための設備の設置を国が促進するという規定を盛り込んだ内容です」

国が喫煙室などの設備を補助してくれるなら、その点については前進と受け止められそうだが・・・。岡本弁護士は首を傾げる。

「喫煙室などの設備は完全な排気が難しく、漏れの問題がつきまといます。

実際、私は弁護士として、(1)喫煙室からタバコの煙が漏れてきて体調不良になった(2)喫煙者が濃厚な喫煙臭を付けて帰ってくるので仕事に集中できない(3)改善してもらえずストレスでうつ病になった、等の相談を多数受けています。

また、いったんコストをかけて喫煙室を設置すると、こうした被害が改善されないまま硬直化してしまうことも問題だと思います」

●「建物内の全面禁煙」が必要

「さきほどの条約ガイドラインも世界保健機関(WHO)も、喫煙室設置では受動喫煙を完全に防ぐことはできないとしています。世界各国で、罰則付きの受動喫煙防止法が実施されています。建物内は全面禁煙で、喫煙するなら屋外で、というのが原則となっているのです。

日本はこうした流れに反する法案を用意したことになります。このような国の姿勢に対しては、2月6日の参議院国会質問でも松沢成文議員から『条約違反』と批判されています」

しかし、建物内の全面禁煙を義務づけるところまでいくのは、少しばかり極端なのでは?

「実は、一般の人々の多くは、全面禁煙の義務付けに賛成しています。

2012年に製薬会社が行った調査では、非喫煙者の78%が、法律や条例によって職場・レストラン・バーを含む建物内を全面禁煙にするよう義務付けることに賛成だとされています。喫煙者も含む全体でみても、64%がこれに賛成だと示されています。

また、屋内労働者の50%が、建物内の全面禁煙か、勤務時間中の全面禁煙を望んでいます。このほか、31%の人は、漏れの無い完全分煙を望んでいました。

今回の法案は、こうした国民の希望を十分に反映していないように感じられます。国は、タバコ産業利権や一部の喫煙擁護派の意見に偏ることなく、国際的な水準や国民の希望を真摯に受け止めた法律を作ってほしいと思います」

岡本弁護士はこのように指摘したうえで、次のように警鐘を鳴らしていた。

「なお、今回、労働安全衛生法の改正がトーンダウンしたからといって、これまで裁判で認められている職場の受動喫煙の安全配慮義務(民事上の損害賠償請求)が後退する訳ではないので、事業者や喫煙者はご注意を・・・」

(弁護士ドットコム トピックス)

 

|

« 【喫煙を考える】事業主の受動喫煙対策は「義務」か「努力義務」か 厚労省の「改正安衛法案」 | トップページ | 副流煙の害は臭いでも? »

受動喫煙対策」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 海外では建物内「全面禁煙」が当たり前? 受動喫煙防止法案を弁護士が批判する理由:

« 【喫煙を考える】事業主の受動喫煙対策は「義務」か「努力義務」か 厚労省の「改正安衛法案」 | トップページ | 副流煙の害は臭いでも? »