嗜好品は病気といわれる「ニコチン依存症」
嗜好品は病気といわれる「ニコチン依存症」
2014年6月2日
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20140522/398615/?ST=medical&P=1
黄金の国ジパングをめざして大西洋を横断して着いたところは日本ではなくアメリカだった――というコロンブスの話は誰もが知っています。しかし、彼らはとんでもないものをヨーロッパへ持ち帰りました。ひとつは梅毒、もうひとつはタバコです。
飛行機も鉄道もなかった時代にもかかわらず、梅毒が全ヨーロッパに広がるのに2年かからなかったと言われています。喫煙習慣もアッという間に広がりました。タバコを日本に持ち込んだのは貿易商人のポルトガル人でした。
大人の真似をしたくて始めた喫煙も、ひとたび習慣がついてしまうとなかなかやめられなくなってしまいます。最近はこのやめられなくなった状態を病気としてとらえるようになり、「ニコチン依存症」という病名がつけられています。
依然として高い日本の喫煙率
米国では、喫煙の有害性が周知されている現在、タバコをやめられないほど意思の弱い人は、企業にとっては不必要な人材とみなして雇用契約更新解除の要件にしている企業がたくさんあるそうです。でもなぜか米国はタバコの輸出には熱心でアジアに向けてかなりの量を輸出しています。
日本はまだまだ寛容で、厚生労働省や日本たばこ産業が発表する喫煙率は平成24~25年は男性34.1~32.7%、女性9.0~10.5%でした。多くの先進国では男性喫煙率は30%を切っているのに比べると日本はまだ途上国ですが、昭和41年に男性82.3%、女性15.7%だった頃に比較すると、男性はかなり低くなりました。
1996年のちょっと古い統計ですがタバコのの収支を国家レベルで考えた数字があります。収入が2兆円のタバコ税とタバコ農家収入、タバコ労働者賃金などで、支出は医療費、早死による国民所得の損失、休業による損失、火災などでその合計は5兆6千億円に上りました。はるかに高額です。従って自分は税金を払っているといった言い訳は通用しないのです。
ニコチンガムや貼付剤(テープ)で禁煙にチャレンジ
また、自分の好きなように生きて何が悪い、たばこを止めて長く生きるより、早く死んでもいいからたばこは吸うんだ、といった開き直りともとれる発言をテレビカメラの前で堂々と言う人がいまだにいるのは驚きというより失笑ものです。副流煙が非喫煙者の健康を害することが明らかになっています。火の付いたたばこの先端から立ち上る副流煙は低い温度で不完全燃焼するタバコから発生しているため、喫煙者本人が吸い込む煙よりも有害物質が多く、自らの意思とは関係なく、より有害なタバコの煙を吸わされることになっているのです。従って家庭、職場、公共施設、飲食店さらに路上での受動喫煙には最優先の対策が必要です。
タバコの煙には2000種類くらいの化学物質が含まれていて、その中には20~40種類位の発がん物質があります。タバコによるがんは、肺がんはもちろん舌がん、喉頭がん、食道がん、膀胱がんなどが挙げられています。
しかしニコチン依存症になっていると、がんは怖いがタバコもやめられない状態ですから、禁煙をするのは大変です。今までに何回も禁煙したという人はたくさんいます。要するにやめるには相当の決心が必要なのです。意思の力だけで禁煙できれば一番簡単でよいのですが、なかなか難しいことが多いと思います。
依存症になっている人は血液中に一定以上のニコチンがないと、気分が落ち着かずイライラして仕事もはかどらない、指が震えるなどニコチン禁断症状が現れます。
こんな依存症の治療法としてニコチン置換療法が一般的になっています。禁煙後ひとまずニコチンだけを投与して禁断症状を回避し、その後投与するニコチンの量を少しずつ減らしていき依存症から抜け出す方法です。ガムと貼付剤(テープ)があります。
一定の基準(スクリーニングテストで5点以上の重喫煙者など)を満たした禁煙希望者に対し、同じく一定基準内(敷地内禁煙の病院など)の医療機関が行う治療の場合には、健康保険が適応されます。しかし若年喫煙者の禁煙希望者は基準を満たさない場合があり、基準の見直しを検討されています。
ガムは噛む量を、テープは貼る大きさを少しづつ減らして身体を慣らしていこうとするもので、いずれもかなり意思強固でないと成功しません。禁煙外来を開設している病院なら専門医が面接により様々なサポートをしてくれます。携帯電話のメールに助言や励ましメッセージを送ってくれる会員制のサイトもあります。
外出先にはタバコを吸える場所はほとんどなくしたい
明治33年4月に施行された未成年者喫煙禁止法の第一条には「満二十年に至らざる者は煙草を喫することを得ず」とあります。日本ではもう1世紀以上も前に煙草の有害性を認知していたことになります。
2003年5月に施行された健康増進法の第二五条には受動喫煙の防止に「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」とあります。
さらに「その他の多数の者が利用する施設」とは、平成15年4月30日厚生労働省健康局通知によると、「鉄軌道駅、バスターミナル、航空旅客ターミナル、旅客船ターミナル、金融機関、美術館、博物館、社会福祉施設、商店、ホテル、旅館等の宿泊施設、屋外競技場、遊技場、娯楽施設等多数の者が利用する施設を含むものであり、同条の趣旨に鑑み、鉄軌道車両、バス及びタクシー車両、航空機、旅客船などについても「その他の施設」に含むものである」と記載されています。法文は「・・必要な措置を講ずるように努めなければならない・・」と一応努力義務の表現にはなっていますが、この法律の趣旨は外出先にはタバコを吸える場所はほとんどなくしたいという強い意思がうかがわれます。
一部の地方では条例により、繁華街でのいわゆる歩きタバコを罰金つきで禁止しており、条例制定の区市町村はしだいに拡大しつつあります。また日本も「たばこ規制に関する世界保健機関枠組条約」に批准し、タバコの売り方、広告の仕方も国際標準の方式に習うことになりました。こうなるともはやタバコを吸える場所を捜すのは難しく、喫煙者は非喫煙者の仲間に入った方がよさそうですね。
職場における喫煙対策のためのガイドラインとは
しかし前にも述べました通り、日本ではまだ男性の3分の1近くが喫煙者というのが現状ですから、非喫煙者をタバコの煙から守る対策が必要になります。別の言い方をすれば、よい空気環境を維持するために喫煙者をどのようにして閉じ込めたらいいかの対策とも言えるでしょう。
平成15年5月9日厚生労働省発表の「職場における喫煙対策のためのガイドライン」(新版)でも、全面禁煙が不可能で空間分煙とする場合の設備としては、衝立を形式的に囲っただけの喫煙コーナーのようなイメージのものではなく、非喫煙場所に煙が漏れない“喫煙室”を推奨しています。さらに空気清浄装置はガス状成分を除去できないという問題点があることから、たばこの煙が拡散する前に吸引して屋外へ排出する方式が推奨されています。また喫煙室と非喫煙場所との境界において、喫煙室に向かう風速を0.2m/s以上とするよう具体的な数値も示しています。
このガイドラインでは、経営首脳者は喫煙対策の円滑な推進のために率先して行動することを求めており、管理者は経営首脳者の基本方針の下に対策の円滑な推進のために積極的に取り組み、労働者も自ら喫煙対策を推進することが特に重要であることを認識して喫煙対策について積極的に意見を述べることを求めています。具体策は衛生委員会等で検討し、喫煙対策委員会を設置するなどして、当面の計画や中長期的計画の策定や教育啓蒙、苦情処理などの行動開始が望まれます。さらに喫煙対策の推進状況と効果の評価を行い、その結果に基づく更なる改善を進める必要もあるとしています。
さて読者諸兄姉の勤務先はどうなっているでしょうか。このような煙草の有害性を書くと喫煙者は誰も読んでくれません。有害性を十分承知しているからです。そしてすみずみまで読んでくれるのはなんと非喫煙者です。法律を守るためではなく、自分と子供たちのために非喫煙者の仲間が増えることを期待したいものです。
鷲崎 誠(わしざき まこと)
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