注射針が通貨として流通するヘロイン地獄 ミャンマー
注射針が通貨として流通するヘロイン地獄 ミャンマー
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2014/10/post-3442_1.php
ミャンマー北部の中国との国境地帯は今、アジアで最もヘロインが蔓延する無法地帯になっている。清潔な注射針は需要が高いために、商店で小銭代わりに使われる程だ。しかしこうした現状は、世界からほとんど無視されている。
軍事独裁と、政府と少数民族との紛争が長く続いたミャンマーの荒廃ぶりは、アジアの中でも群を抜いている。地元通貨の価値が低いために、商店の店員は5〜10セント相当の紙幣の代わりに、ティッシュペーパーやたばこ、キャンディーを渡す。ヘロイン中毒が多いため、中国との国境の町ミューズで街道沿いの商店で買い物をすると、お釣りに清潔な注射針をくれるほどだ。
タイ在住のカチン族女性が作るグループは、ミャンマー北部のシャン州、カチン州のヘロイン蔓延の実態を報告書『静かな攻撃』で明らかにした。「(ここよりも)ヘロインの主な原料となるアヘンを多く生産している場所はアフガニスタンしかない」
この報告書によると、ガソリンスタンドではボトル入りの滅菌水をお釣り代わりに客に渡す。中毒者が、滅菌水にヘロインの粉末を混ぜて注射器に入れ、体に打つからだ。
ここでは純度の高いヘロインが安く売買され、1回分のヘロインが1ドル程度で手に入る。ミャンマー北部のジャングルでは、ゲリラ勢力が広範な地域を管理下に置いているが、現在は多くのゲリラ勢力が政府と手を組んでいる。いまやミャンマー北部のジャングルは、アジアで消費されるほとんどすべてのヘロインの生産地になっている。
ヘロインはまるで野菜のように公然と売られている。カチン州の州都ミッチーナーでは、使用済みの注射針が街中のあちこちの地面、道路や大学の構内に捨てられている。ネットカフェでは、メールをチェックしながらヘロインを打たないように注意される始末だ。
50万近い信者を抱える地元の有力なキリスト教団体「カチンバプテスト連盟」では、カチン州の若者の80%がドラッグ中毒だというゾッとするような見方も示している。
中毒患者用のリハビリ医療施設では、患者は禁断症状の間、部屋に拘束される。拘束しなければ患者が逃亡してまたヘロインを求めるからだ、と元中毒患者で現在はカチン州のリハビリカウンセラーを務めるジェームズ・ノーは言う。「(禁断症状の間は)世界がぼんやりして、少しの風でも痛みを感じる。何をしてでもヘロインを手にいれたくなる」
北部の国境地帯では約20年に渡って政府と少数民族が紛争を繰り広げてきた。政府がヘロインの蔓延を放置して「実質的に少数民族を虐殺している」と、非難するゲリラ勢力もある。
ここ数年、アメリカの支援のもとで軍事独裁から民主政治へと移行しようとするミャンマーは、そのサクセススト―リーだけが強調されてきた。しかしこうした明るい希望的な側面は、荒廃した国境地帯の現状とは余りにもかけ離れている。
2014年10月29日(水)15時54分
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