禁煙外来で卒煙!? 初めての禁煙治療では何をするのか
禁煙外来で卒煙!? 初めての禁煙治療では何をするのか
http://top.tsite.jp/news/o/22660117/
2015年3月4日 (水) 11:34
●マイナビニュースの営業マンの卒煙体験
ゴフォ、ゴフォ、グォォゥフォォォォ!!
ここ最近、編集部のデスクに座っていると、えげつない咳の声が響いてくることがある。発生源は隣接する営業部に所属するA山だ。
風邪を引いたのかと思いきや、それにしては、あまりにも咳込んでいる期間が長い。「どこか体を悪くしたんじゃないの?」と声をかけてみると、「ここんとこ、タバコを吸うと咳がひどくなっちゃうんだよね」とあっけらかんと返してくる。
幸いにも直近の健康診断では大きな注意点はなかったようだが、大病を患う前にタバコをやめた方がいいのは明白。ただ、禁煙の意志について聞いてみると、「やめた方がいいとは思うんだけどねぇ」と煮え切らない態度。
マイナビニュースでは禁煙をテーマにした記事を継続して特集している。優柔不断なA山にすっぱりタバコを絶たせるのも、編集部としての使命。
「意志が弱いから無理だよ」と否定にかかるA山を尻目に、編集部では「禁煙外来」の専門家に相談することにした。
○禁煙外来のコストは1日230円程度。タバコひと箱よりも安い!
簡単に言えば、禁煙外来とはニコチン依存症を治療するのを目的とする専門外来だ。医師による問診や簡単な検査を経て、その人のライフスタイルに合った禁煙補助薬を提供していくというのが大まかな治療の流れ。
かつては保険外診療だったが、近年は一定の条件が課せられるものの、保険適用となっているとあって、受診して禁煙を開始する喫煙者が増えつつあるという。
「禁煙外来を活用すると、禁煙の成功率は7割に上がります。単に我慢をするだけでは1~2割しか成功しないと言われている中、これだけの効果が発揮できるのは、やはり補助薬の効果が高いということでしょう」
と話すのは、今回お話を伺った東京・人形町にある中央内科クリニックの村松弘康院長。呼吸器内科とアレルギー科の専門医として長きにわたって活躍してきた村松院長は、タバコが原因で重い病気にかかってしまう人の姿を見て、なんとかしなくてはならないと早期に禁煙外来に取り組んできた一人である。
禁煙外来での治療は、約3カ月間のプログラムで、全5回受診する。この間、用いる禁煙補助薬により薬の使用期間は異なるが、全体の治療費が気になるところだ。
「保険診療の認可を受けた施設では、3割負担の方ならば、診察と薬代を含めて最大2万円程度ですよ。1日につき220円から230円。1箱400円のタバコを毎日20本ずつ吸うのであれば、経済性も圧倒的に高いんです」
と村松院長は解説を続ける。思いのほか治療費がかからないという話を聞いて、A山も心が動かされた様子だ。
○“200”の壁が、禁煙治療を受けるための条件
現状ではすべての喫煙者が保険適用診療を受けられるわけではないという。
「1日で吸う本数×喫煙年数の値が“200”以上」が第一の条件。さらに「医師によるニコチン依存症の問診において10の設問のうち5つが“Yes”となること」「文書で患者の同意を得ること」も条件に含まれる。
また、「初めての禁煙外来の利用であること、もしくは前回から1年以上の時間が経っていること」なども忘れてはならない。保険適用の場合は1年に1回しか利用できないのである(*)。
(*)自由診療(保険外診療)という形にすれば1年に何度も受けることが可能。その場合は基本的に10割負担となりますが、費用は各病院で異なります。
この条件の中でハードなのは“200”という数値の達成だろう。1日20本なら喫煙歴10年、40本なら5年という計算だ。この数値は厚生労働省が定めたガイドラインに沿っているが、ちょっとハードルが高い印象だ。喫煙歴が短い若年者でも保険診療にて禁煙治療が受けられるよう、厚生労働省にはこのハードルの見直しをする努力を今後期待したい 。
A山の場合、1日25本を10年間続けてきたから値は250と条件をクリア。これまで禁煙外来の利用もない。めでたくなのか、残念ながら、なのかはわからないが、とにかく治療を受けられる運びとなった。
「A山さん頑張りましょうね」と村松院長の優しい掛け声で治療はスタート。あらかじめ記入した中央内科クリニック独自の問診票を元に、村松院長はA山に質問をかけていく。
喫煙歴、喫煙しやすい環境か否か。家族に喫煙者はいるのか、働く場の喫煙スペースの有無は? ――こうした質問を通して、本人の禁煙に対する本気度を浮き彫りにしていくのが一つの狙いだという。
禁煙補助薬の効果は大きくとも、タバコを止めたい気持ちがなければ、治療がうまくいかないのだ。
●喫煙習慣による悪影響とは?
○喫煙習慣は4大疾患のすべてのリスクを高めてしまう
問診が終わると、具体的な治療方法を提示していくのかと思いきや、村松院長はタバコの害悪について詳しく解説していく。
「タバコの煙の中には70種類以上の発がん性物質が含まれていると言われています。細かく分析すればヒ素やダイオキシンなども検出されるんですよ。
たばこが原因の疾患でもっとも多いのが喉のがん。続いて肺がんや食道がんとなります。血液経由で発がん物質が全身に行き渡りますので、あらゆるがんになる可能性が高まっていきます。
他にも心筋梗塞や脳梗塞などを含めた日本人の4大死因すべてのリスクが高まるほか、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や認知症などにもなりやすくなります」
病の前兆は、喫煙者の体には既に表れているかもしれない。わかりやすいのは脳貧血だ。タバコを吸った人なら経験があるだろうが、数時間ぶりにタバコを吸った際、深く吸い込むと頭がクラっと来るはずだ。
それこそが脳貧血と呼ばれる状態であり、そのまま血流に大きな障害が発生すれば、脳梗塞を起こしてしまうことにもなりかねないのだという。
○朝一番のタバコは、ニコチンへの依存度が高まっているサイン。
村松院長は取材用にこうした説明を行ったわけではない。いつも禁煙外来に訪れた患者の前で解説している。喫煙者なら情報内容の程度の差はあれ、どこかで耳にしたことがある話ではある。
しかし、専門家である医師に、体系立てられながら目の前で解説されると、話のリアリティが全く異なってくる。村松院長は続けて話す。
「タバコに含まれるニコチンは交感神経を刺激して、人を覚醒させる機能があります。喫煙者はその状態で体のバランスを取ってしまっているのですが、これは麻薬依存になっている人たちと変わらない状態といっても過言ではありません。
朝、起きてからすぐに一服するという人などは最たる例。睡眠中にニコチンを摂取しなかったので、不足したニコチンをいち早く摂取して体のバランスを取ろうとしているのです」
最初は軽い気分だったA山の表情から笑顔が消えていく。医師の生の声の効果は絶大なのである。
○喫煙者の吐く息には、一酸化炭素が多く含まれる。
説明が終わると呼気に含まれる一酸化炭素(CO)濃度の測定に入る。COは大量に体に取り入れると短時間で死に至る有毒なガスだが、喫煙習慣のある人間は、呼気から日常的にCOを排出しているという。
ノンスモーカーは7ppm以下、ライトスモーカーは8~14ppm、ミドルスモーカは15~24ppm、ヘビースモーカーは25~34ppm以下、それ以上のCOが含まれると超ヘビースモーカーに位置付けられる。
A山の数値は12ppm。実は意外に少ない。
「タバコを吸った時間からどれだけ経ったか、あるいは日常的にどれだけ深く吸い込んでいるかによって数値は変わります。いずれにしても、12ppmなら常習的に喫煙している数値ですね」
試しに大昔は喫煙者だったが、現在はノンスモーカーの村松院長にCO濃度を測ってもらうと0ppmという結果になった。禁煙をすれば如実に変化が表れるのである。
その後はニコチン依存症診断テストに入る。
“Yes”の項目が規定数以上に達していることを確認したのを受け、村松院長は禁煙補助薬の使用を勧めた。
「治療を開始する前に、指定した日から禁煙をするという決意を表す『禁煙宣言書』にサインしてください。部屋に飾っていてもいいですよ。もちろん吸ってしまっても“針千本”飲まされるわけではないので安心してください!」
先生の愛のむちを受け、A山は恐る恐るサインをしていく。
○卒煙することを余り強く思いつめる必要はない
最後に禁煙補助薬を処方してもらうが、その種類は大きく二つにわけられる。一つは「ニコチンパッチ」と呼ばれるニコチンが含まれるシールだ。
体に貼るシールを通して微量のニコチン摂取していくことで、ニコチンが不必要な状態にしていくというのがその狙いだ。
もう一つはニコチンの類似物質を使った飲み薬である。飲み続けると体がニコチンを欲することがなくなると同時に、タバコをまずく感じさせる力があるという。
「どちらも一長一短があり、パッチの場合はかぶれ等の症状が出る場合もありますし、飲み薬は吐き気を伴ってしまうケースがよくあります。
合わなければ薬を変えるなり、胃薬も処方するなど、いくらでも手がありますので、次に来院されるときにおっしゃってください」
基本的には5回の診療がセットだから、定期的に医師のもとに訪れて禁煙に関するアドバイスを受ければ、途中で諦めてしまいそうな心も支えてくれる。
ただ、A山はこの段階でもまだ自信がなさそうではあった。果たして自分でできるのだろうか……と不安な表情を浮かべるA山に、村松院長は「余り思いつめず、気楽に考えたほうが良いですよ」と助け舟を出してくれた。
○人に迷惑をかけて喫煙しているのは忘れずに。
ただし、村松院長は「あなたがタバコを吸うことで周囲のみなさんにも迷惑をかけている。そのことは覚えておいてください。よく言われていますが、受動喫煙の害は本当に大きいんです」とも続け、受動喫煙の影響を示すビデオを見せてくれた。
単に横に座っているだけの非喫煙者が、意図しないうちに喫煙者に勝るとも劣らない量を吸い込んでしまう。その様子を見たことで、A山も決意を新たにする。
「好きで吸っているんだからいいだろ、と思っていたけど、自分のためにはもちろん、周りの人のためにもやめた方がいいことがよくわかったよ。これから3か月間、頑張ってみる!」禁煙を決意したA山の表情は晴れやかだった。村松院長との二人三脚で頑張って欲しい。
○今回お話を聞いた中央内科クリニックとは?
東京・人形町で50年にわたって活躍し続けてきた地域密着型のクリニック。村松院長は呼吸器内科とアレルギー科の専門医であり、東京都医師会が組織する東京都医師会タバコ対策委員会の副委員長を務めるなど、喫煙や受動喫煙の有害性に関する啓発活動にも積極的に関わっている。
| 固定リンク
「禁煙チャレンジ」カテゴリの記事
- 喫煙率14.8%、過去最低 国民健康・栄養調査(2024.09.09)
- 喫煙率14・8%、過去最低を更新 喫煙者の25%が「やめたい」(2024.09.02)
- 禁煙後に体重が増加すると……(2024.08.19)
- 対話型テキストメッセージの禁煙介入、青少年の禁煙率を上昇/JAMA(2024.08.19)
- ニコチンパッチで禁煙成功!禁煙サポート事業!(2024.06.10)
最近のコメント