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受動喫煙の発がんリスクは確実ですが……

受動喫煙の発がんリスクは確実ですが……

http://www.asahi.com/articles/SDI201511233281.html

アピタル・酒井健司

2015年11月23日07時00分

喫煙に害があるとしても、リスクを承知した上でタバコを吸いたいという人もいるでしょう。しかし、喫煙しない人にとってタバコの煙は不快ですし、健康を障害しますので、分煙が必要になります。どれぐらい厳密な分煙を行うかについては議論があってよいと思います。

さて、「受動喫煙防止へ対策は」という記事が朝日新聞に載りました。北海道美唄市の「公共施設などでの禁煙化を進める」という条例に対して、産業医科大教授・大和浩さん、および、日本たばこ産業(JT)社会環境推進担当部長・宮下剛さんの意見が紹介されています。

JTの宮下剛さんが禁煙条例に対して慎重な態度をとるのは理解できます。しかしながら、タバコの害について、医学的な常識と大きくずれた認識をお持ちのようです。宮下剛さんの主張を引用しましょう。

 

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 「自らたばこを吸うと肺がんや心臓病といった特定の疾病を引き起こすリスクが高まる」という疫学研究があります。確かに、喫煙は疾病につながるリスクのひとつ。ただ「疾病の直接的原因」とは言い切れないとの見解です。

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「喫煙は疾病のリスクの一つだが『直接的原因』とは言い切れない」という文章の意味が私には理解できません。喫煙と疾患は、単なる相関関係ではなく、因果関係にあるというが医学界のコンセンサスです。しかも、喫煙ほど、強く、かつ、多くの疾患との因果関係が証明されたリスク要因は他にありません。

 

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 受動喫煙の場合はどうか。当社は、国際がん研究機関(IARC)が喫煙者の夫と暮らす非喫煙者の妻について肺がんリスクを調べたとして紹介した多くの論文を、2004年時点で分析しました。「受動喫煙との関係が統計的に有意」とする論文は13%に過ぎず、「有意ではない」との論文が87%を占めました。

 煙を吸い込む量が受動喫煙では少ない。自らたばこを吸うのとは違い、特定の疾病を引き起こすリスクが高まるとまでは言い切れません。

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JTの見解は「受動喫煙が特定の疾病を引き起こすリスクが高まるとまでは言い切れない」であるようですが、これも医学的な常識とはかけ離れています。

国際がん研究機関(IARC)については、ここ最近、加工肉がヒトに対する発癌性が認められる「グループ1」に分類されたという話題で触れました。自分でタバコを吸う能動喫煙はもちろん、他人が吸ったタバコの煙にさらされる受動喫煙もIARCは「グループ1」に分類しています。

赤肉(牛・豚・羊などの肉)は「グールプ2A」に分類されました。「グループ1」と「グールプ2A」の違いは、証拠の強さによります。受動喫煙の発がん性について「グループ1」に分類できるほどの強い証拠を持っているとIARCは判断したのです。

「統計的に有意とする論文は13%に過ぎない」という主張についても、医学論文を読むのに慣れていれば、受動喫煙のリスクを否定する理由にならないことがわかります。

統計解析では「タイプ2エラー」と言って、実際には「差がある」のに、誤って「差があるとは言えない」と判断してしまうことがあります。研究対象の人数や観察年月が不十分だと、タイプ2エラーが起こりやすくなります。よって、「有意ではない」という論文があってもおかしくはありません。

逆に、「タイプ1エラー」といって、実際には「差がない」のに、誤って「差がある」と判断してしまう誤りもあります。

もし仮に、受動喫煙にリスクがないのであれば、「受動喫煙に有意差をもってリスクがある」とする研究と同じ数だけ、「受動喫煙は有意差をもってリスクを下げる(受動喫煙にさらされているほうが病気になりにくい)」という研究もあるはずです。しかし、実際にはそういう研究はほとんどありません。

メタ解析といって、複数の論文のデータを合わせて解析する手法を使えば、タイプ2エラーを減らすことができます。メタ解析では受動喫煙にはリスクがあるという結果が出ています。

たとえば、Taylorらによるメタ解析では、非喫煙者女性の肺がんのリスクは、夫からの受動喫煙にさらされると、受動喫煙がない場合と比較して、1.27倍に増えます(Int J Epidemiol. 2007 Oct;36(5):1048-5)。

「リスクが高まるとまでは言い切れない」とJTが主張したいなら、こうしたメタ解析を否定できる根拠を述べるべきです。最初に述べたように、分煙の程度については議論があってもよいと思います。しかし、喫煙の害をこれほど甘く評価する企業の提案する分煙対策を私は信用できません。

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