ご近所のお医者さん /329 常識は変わるもの=安陪隆明さん /鳥取
http://mainichi.jp/articles/20160119/ddl/k31/070/594000c
毎日新聞
2016年1月19日 地方版
安陪内科医院(鳥取市)安陪隆明さん
昨年の6月1日、カナダのケベック州で、喫煙により依存症などを患ったとして損害賠償を求めていた集団訴訟に対して、ケベック州の高等裁判所はタバコ会社3社に約150億カナダドル(約1兆5000億円)の損害賠償の支払いを命じる判決を下しました。この中には日本たばこ産業の現地子会社に対する20億カナダドル(約2000億円)の支払いも含まれています。
タバコ会社側は控訴の意向を示し、この裁判自体はまだ続くようですが、このような判決を見るにつけ、世界のタバコに対する常識が大きく変わってきていることを痛感します。ちなみにアメリカでは既にタバコ会社が25年間に総額42兆円を支払うことで和解が成立していますが、それ以外にも高額の訴訟が進行しており、例えば「タバコのために夫を肺ガンで亡くした」と訴えた女性に対して、タバコ会社が約2兆4000億円を支払う判決なども出ています。
さてこういう海外の情報に接すると、多くの日本人は「海外は異常だよ」「常識外れだ」と思われるようです。確かに「現在の日本の常識」で考えれば「異常」なのかもしれません。
しかし、ここで注意したいのは「常識というものは地域差だけでなく、時代によっても変わってくるもの」という点です。アメリカやカナダでも、昔はタバコは規制されるものではなく、訴訟自体が存在しませんでした。
しかし、タバコの有害性が実証されるにつれて、タバコを規制し、また、タバコ会社が損害賠償を支払わなければならないという流れが生まれました。そして、この流れはアメリカやカナダだけでなく、今後徐々に世界的に広がっていくものと予想されます。
ちなみに日本は、日本政府自体が日本たばこ産業の株を半分保有しているという特異な国ですので、行政が原告としてタバコ会社の責任を追及する可能性は極めて低いものとなっています。しかし、その「日本政府がタバコ会社の株を保有している」ということ自体が、将来的に海外から非難を浴びる恐れをも秘めています。
タバコに対しての常識が日本では今後も変わらない、ということはありえないだろうと私は予想しています。常識は時代によって変わっていきます。タバコに対する考え方も、これからますます変わっていくのではないでしょうか。
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