喫煙
パッケージの警告表示 日本は「最低限」 海外、強烈画像も
http://mainichi.jp/articles/20160713/ddm/016/100/003000c
毎日新聞2016年7月13日 東京朝刊
喫煙による健康障害のリスクなどを伝えるたばこのパッケージの警告表示。財務省は6月、文字を大きくする一方、写真やイラストの表示は見送る案をまとめたが、海外では悪影響が一目でイメージできる画像付きの警告が増えている。パッケージに占める表示の割合も日本は30%で、海外と比べて高くない。各国はどんな表示をしているのだろう。【下桐実雅子】
カナダがん協会が2014年にまとめた警告の表示面積(表と裏の平均)のランキングは、1位がタイ(85%)で、大きな写真の印象は強烈だ。2位オーストラリア(82・5%)、3位ウルグアイ(80%)、4位がブルネイ、カナダ、ネパール(各75%)と続き、いずれも画像が付いている。
画像付きの警告は01年にカナダが最初に取り入れ、15年までに▽英国▽フランス▽ロシア▽ブラジル▽インド−−など77カ国が導入した。表示面積も年々大きくなっており、14年時点で50%以上なのは60カ国。さらに最近は、銘柄のロゴマークをなくし、デザインも画一化した「プレーンパッケージ」が豪州などで登場している。
表示面積が30%の日本は、中国や韓国と並びランキング110位。日本も批准する世界保健機関(WHO)のたばこ規制枠組み条約は、警告表示について「主な表示面の50%以上を占めるべきであり、30%を下回るものであってはならない」としており、現状は最低限のレベルだ。同条約は写真や絵を付けることを奨励しているが、日本は「過度に不快感を与えないことが重要」などとして導入に至っていない。
では、画像付き警告表示の効果はどうなのだろう。各国の喫煙率と警告の割合を並べてみると、面積が大きいほど喫煙率が低いわけではなく、関連がなさそうにも見える。ただ、喫煙率は各国のたばこの価格差が大きく、文化的な背景も違うため、他国との比較は難しい。
WHOは11年の報告書で、カナダでは警告に画像を導入した前後で、喫煙者の「たばこをやめたい」という気持ちが20%から87%に高まったとのデータを紹介している。同国では、画像付き警告で喫煙率が2・87〜4・68%下がったとの推計もある。WHOは「識字率の低い国では、画像はより重要だ」と指摘する。
国立がん研究センターが今年4月、成人男女2000人に実施したインターネット意識調査では、7割が画像を使った警告表示に「賛成」と回答した。肺がんについての警告表示5種類の中から最も読むものを選んでもらったところ、約6割の喫煙者が、文字だけよりも画像付きの方を選んだ。
国のがん対策推進基本計画は、22年度の喫煙率の目標を12%としているが、近年は20%前後で推移し、下げ止まりの傾向にある。同センターたばこ政策支援部は「受動喫煙防止対策も含めて、日本のたばこ対策は世界的に見て遅れている。警告表示は国民に受け入れられるように、まず不快感の少ない画像から取り入れるのがいいのではないか」と提案している。
財務省によるたばこ警告表示の主な見直し案
▽文字数を減らして読みやすい表現にする
▽未成年者への注意文言をすべての商品に
▽文字と背景の色を限定。枠線を明確に
▽画像の警告は、消費者に情報が正確に受け止められることと、過度に不快感を与えないことが必要。諸外国での効果などを十分に検証した上で検討
▽注意文言の例
「たばこの煙は、子どもの将来にわたる健康に悪影響を及ぼします。たばこの誤飲にも注意しましょう」
「妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産のほか乳幼児突然死症候群の原因となります」
「喫煙は、肺がん以外にも、食道がんなど多くの種類のがんの原因となります」
「喫煙は、あなたが肺気腫などCOPD(慢性閉塞<へいそく>性肺疾患)になり、呼吸困難になる危険性を高めます」
「喫煙は、あなたが歯周病になる危険性を高めます」
主な国の喫煙率
国名 喫煙率 (男性、女性) 警告面積
タイ 20.5 (39.9、 2.2) 85
オーストラリア 13.0 (14.9、11.3) 82.5
ウルグアイ 22.1 (25.9、18.6) 80
カナダ 15.6 (18.3、13.0) 75
ブルネイ 13.2 (23.4、 2.7) 75
ネパール 20.5 (32.1、10.3) 75
フランス 22.8 (24.9、20.8) 65
英国 20.3 (21.1、19.5) 65
ロシア 36.1 (55.0、20.6) 40
インドネシア 33.2 (63.0、 3.5) 40
日本 22.8 (35.4、11.0) 30
中国 23.7 (44.6、 1.7) 30
韓国 27.4 (51.1、 4.3) 30
米国 18.1 (20.3、15.9) 0
=単位は%。WHOの2013年推計。警告面積はカナダがん協会などの調べ。表示面積は表面と裏面の平均。日本の喫煙率は、国内調査では19.6%(男性32.2%、女性8.5%)
オーストラリアのたばこ。左の二つが過去のパッケージ、右の二つがロゴなどを地味にした「プレーンパッケージ」=「Tobacco Labelling Resource Centre」ホームページから
警告表示の面積を65%に拡大すると決めたEUが示したパッケージの例=EU提供
香港のたばこ=「THE TOBACCO ATLAS」ホームページから
タイのたばこ=「THE TOBACCO ATLAS」ホームページから
カナダのたばこ=「Physicians for a Smoke−Free Canada」ホームページから
カナダのたばこ。禁煙相談の電話番号も記載されている=「Physicians for a Smoke−Free Canada」ホームページから
最近のコメント