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たばこを誤飲したら、すぐに水を飲ませて吐かせる?

たばこを誤飲したら、すぐに水を飲ませて吐かせる?

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160729-OYTET50008/

2016年8月29日

子どもの水の事故が報道されています。溺水で命を失った子どもが、その時にどれほど怖い思いをしたのかと想像するとやりきれない気持ちになります。また、ご両親の悲しみの深さに思いを寄せると胸がつぶれそうになります。暗い話題ですみません。しかし、子どもの健康にとって、事故はとても大切な問題なんです。

 日本人の成人の三大死因は、みなさんもご存じのように、「悪性新生物(がん)」「心疾患」「脳血管疾患」です。これは常識と言ってもいいでしょう。では、子どもの死因をご存じでしょうか? 0歳児は「先天異常」ですが、1歳以上では「不慮の事故」が最多なんです。つまり、病死よりも事故の方が死因として多いのです。子どもは、大人と比べてはるかに死なない存在ですが、事故による死亡を未然に防げば、小児の死亡率はますます下がるわけです。事故の種類としては「窒息」と「溺水」が上位を占めます。子どもから24時間目を離さないのは至難の業ですが、しっかりと見守ってあげてくださいね。

 今日は、あなたのお子さんのすぐ身の回りにある事故、異物誤飲について書きます。つまり、食べ物以外の物を誤って飲み込んでしまう事故ですね。

異物誤飲は、大きさと種類がポイント

 お子さんが異物を飲み込めば、あなたは迷わず医療機関を受診するでしょう。私のクリニックにもしょっちゅう異物誤飲のお子さんが来院します。もちろん、中には誤飲したかどうか正確に分からない(その瞬間を見ていない)ものの、置いてあったものが無くなっていたとか、物品の一部が欠けていたと言って受診する方もいます。

 異物誤飲の最大のポイントは、飲み込んだ物の大きさと種類です。口から肛門まで、人の消化管の中で一番細いのはどこかご存じですか? それは食道です。さらに詳しく言うと、食道には3か所狭い部分があります。「入り口である食道上部」と「気管に接している食道中部」と「横隔膜を貫通する食道下部」です。食道は普段はつぶれたホースのような形をしています。食べ物を飲み込むと、これが円柱形に広がります。しかし、今、述べた3か所にはある一定の大きさを超える物は引っかかります。

 その大きさとはどれくらいでしょうか? それはコイン(硬貨)のサイズです。

 コインを誤飲すると食道の3つの

狭窄

(

きょうさく

)

部のどこかに引っかかります。もちろん放置してはいけません。もしコインの誤飲に気付かないで放置すると、やがて食道に

(

あな

)

が開き(食道

穿孔

(

せんこう

)

)、胸の中に炎症が広がる(縦隔炎)という大惨事になります。

 従って、クリニックで診断が確定したら、すぐに大学病院などの大きな施設に行ってもらいます。食道異物の治療方法は、先端にバルーンと呼ばれる風船の構造が付いたシリコンチューブを使って行われます。麻酔はかけません。バルーンで食道から異物を排除します。つまり口から摘出するか、胃の中に落としてしまえばいいのです。え? 胃の中にコインが落ちて大丈夫? それが大丈夫なんです。さっき説明した通り、人の消化管で最も狭いのは食道です。胃まで到達した異物は絶対に便として排出されます。早ければ48時間、遅くても1週間以内に排出されます。

 

(

くぎ

)

を飲む子どもなんているはずがないと思いますよね? それがいるんです。X線を撮影すると胃の中にバッチリ釘が写っていたりします。どう考えても怖いですよね。お子さんに全身麻酔をかけて内視鏡で摘出しますか? はい、それも一つの選択肢でしょう。しかし、たとえ

(

とが

)

った物でも胃の中に落ちた物は便として排出されるんです。

 肛門に到達するまでの間、尖ったものが消化管に突き刺さったりしないかと心配になりますよね? ところが、そういうことは起きません。ただ、人間の体には常に例外がありますので、全身麻酔をかけて摘出したとしても、私はそれが間違った治療とは思いません。ただし、釘が胃を通過して小腸まで流れてしまうと、内視鏡で摘出することは不可能です。その場合、開腹手術は行わないで経過を見るべきでしょう。

小さいのに危険なものは?

 それは複数個の磁石です。よくあるのは、貼るタイプの磁気治療器です。2個以上の磁石を誤飲すると小腸の壁を隔てて、磁石の力で腸と腸がガッチリくっついてしまいます。すると、そこにトンネルができます(

内瘻

(

ないろう

)

化)。腸が知恵の輪みたいになってしまい、腸捻転の原因になったり腹膜炎を起こしたりします。

 たとえば、ピップエレキバンのホームページにも、「磁石が体内で滞留すると、開腹手術が必要になるおそれがあります」と警告が書かれています。

 貼るタイプの磁気治療器を2個以上飲み込んだら、即入院です。毎日X線を撮影し、磁石が消化管にそって移動していくことを確認します。しかし、どこかで停滞して動かなくなったら、腸を隔てて磁石同士がくっついていることを疑って開腹手術が必要になります。

 もう一つ危険なものがあります。アルカリボタン電池ですね。胃の中に落ちると、胃酸の働きで金属の包みが溶け出します。すると、中のアルカリが出てきますので、胃の粘膜に損傷を与えます。胃炎から胃潰瘍、そして胃穿孔へと進行します。従って、摘出が必要になります。大きな病院には、先端に磁石を取り付けたチューブが用意されていますので、これを口から入れて、磁石に電池をくっつけてつり上げると異物除去ができます。麻酔は不要です。

最も怖い物は

 それはリチウム電池です。大きさはコインくらいあるので、必ず食道に引っかかります。そして放電しますので、あっと言う間に食道の壁に損傷を与えます。食道炎から縦隔炎になり、あるいは食道と気管の間にトンネルを作ってしまうこともあります。食道の壁に強い炎症が起きると、食道は狭くなって(食道狭窄)、食事が取れなくなります。治療は大がかりな手術や内視鏡による拡張術を何度も行う必要があり、入院は数か月に及びます。

 お子さんがリチウム電池を飲み込んだ場面を目撃したら、救急車を呼ぶか、かかりつけの小児科へ行って順番を待たずにすぐに診てもらうべきです。誤飲して30分から1時間ですでに食道炎は始まっています。最も怖い異物誤飲と言えます。

意外に多いたばこ誤飲

 たばこはいろいろな意味で子どもの敵です。子育てをしているパパ、ママ、たばこは今すぐにやめてくださいね。

 さて、たばこに含まれるニコチンは人体にとって大変危険な物です。もし、たばこを2センチ以上食べたら大変危険と言わねばなりません。ところが幸いなことに、たばこなんてまずくて、とても飲み込めるものではありません。私は30年医者をやっていますが、たばこを2センチ以上食べた子を診たことはありません。

 では2センチ未満だったらどうするか? こうしたケースはいくらでもあります。経過を観察することが重要です。顔色はどうか? 

嘔吐

(

おうと

)

は? 下痢は? 呼吸は? 脈は? 血圧は? 4時間経過しても何の変化もなければ帰宅していいでしょう。

 しかし、何センチ食べたかはっきり分からず、顔色が悪かったり嘔吐したりしたら、入院が必要になります。ニコチン中毒に陥れば全身管理が必要になります。呼吸が悪くなれば、集中治療室に入らなくてはいけないかもしれません。

 2センチ以上のたばこも危険ですが、灰皿の中で溶けたたばこを誤飲することも大変危険です。以前は、たばこの誤飲というと、すぐに胃の中を生理食塩水で洗う(胃洗浄)ということをやっていましたが、最近の考え方としては、明らかなニコチン中毒症状がない限りは行いません。少量の葉タバコの誤飲ならば、むしろ胃洗浄することでニコチンが溶け出してしまうからです。クリニックへ行く前に、水を飲ませて吐かせようなどとは絶対にしないでくださいね。

めっきり減った洗剤誤飲

 昔は多かったです。排水パイプ洗浄剤や漂白剤(アルカリ性)やトイレ洗剤(酸性)の誤飲。万が一誤飲したら、牛乳を飲ませて中和してください。ただし、吐かせてはいけません。すぐに大学病院などを受診する必要がありますが、食道粘膜に強烈な炎症が起きますので、急性期の炎症が去ると全食道が狭窄します。修復はほとんど不可能に近く、食道を摘出して大腸の一部で代替するような大手術が必要になったりします。最近は、保護者のみなさんがしっかりしていて、洗剤の類いを子どもの手の届かない所に置く習慣が確立しているようで、住宅用洗剤や漂白剤の誤飲はまず見なくなりました。

 今日の話はちょっと複雑でしたか? 異物誤飲は大きさと種類によって話がまったく違ってくるということがお分かりになったと思います。子どもの周りには危険がいっぱいあります。そして、お子さんを守れるのは、あなただけだということを再確認してください。

追記

今回は「誤飲」について書きました。つまり異物が消化管に入ってしまう事故です。では、異物が気道に入る「

誤嚥

(

ごえん

)

」についてはどうでしょうか? 頻度は少ないとは言え、冒頭で述べたように「窒息」に至る危険性があります。誤嚥の中で最も頻度の高いピーナツを中心に追記します。

 年齢として3歳以下のお子さんが特に危ないことが知られています。乳歯がまだ全部生えそろっていないためピーナツをかみ砕けないことや、

(

せき

)

反射が弱いことがその理由です。もし、お子さんが口をもごもごさせていて、直後に激しく咳こみ

苦悶

(

くもん

)

の表情で声が出なかったら、急いで異物を気道から吐かせる必要があります。

 お子さんが1歳未満ではこうします。あなたは

椅子

(

いす

)

に座り、お子さんの頭が下がる姿勢であなたの膝にうつ伏せに乗せます。お子さんの腹の下にあなたの腕を入れて顎を支えます。この姿勢で背中をバンバンと

(

たた

)

いてください。

 1歳以上ではこうします。あなたはお子さんの背後に回り、両腕でお子さんのおなかを抱きしめてください。あなたの一方の手は拳にします。その姿勢で、お子さんのみぞおちと

(

へそ

)

の間をグッと締めて、お子さんの体を引き上げるように力を入れてください。

 ちょっと難しいでしょうか? あわせて救急車も呼んでください。異物誤嚥は待ったなしです。

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