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精神科病院の受動喫煙対策は疑問符だらけ

精神科病院の受動喫煙対策は疑問符だらけ

http://diamond.jp/articles/-/107174

2016年11月9日

「病院は生活の場」か?

 病院は暮らしの場だろうか。病院に長く滞在したいだろうか。入院期間はできるだけ短く、と言うのが普通の人の普通の思いではないのか。ところが、病院の運営者はどうも違うらしい。そんな疑問が湧いてくるような「事件」があった。

 10月31日に厚労省が開いた公開ヒアリングの場である。テーマは受動喫煙防止対策。その「検討チームワーキンググループ」が関係業界を呼んで実態や要望を聞いた。受動喫煙とは、他人のたばこの煙にさらされること。肺がんの原因とかねてから言われていた。だが、実はほかの病気のリスクも高い。

 厚労省は8月31日に改定した「喫煙と健康(たばこ白書)」で病気と受動喫煙の関係を4段階で表わした。最も因果関係の高い「レベル1」に多くの病気が並ぶ。肺がんの他に心筋梗塞などの虚血性心疾患をはじめ脳卒中、乳幼児突然死症候群、鼻への刺激症状である。

「レベル1」というのは「因果関係を推定するのに十分な科学的根拠がある」ものだ。厚労省の調査では、受動喫煙による年間死亡者のうち、肺がんは2484人なのに対して脳卒中は8014人、虚血性心疾患は4459人に及んでおり、他の病気の方が多い。受動喫煙が原因の全死亡者は1万5030人に達している。

「レベル2」の段階での病気は、乳がん、気管支ぜんそく、鼻腔・副鼻腔がん、慢性閉塞性肺疾患、胎児の発育遅延、低出生体重児、小児の中耳炎や虫歯と多岐にわたっている。レベル2は、「因果関係が科学的に疑われる」もので、レベル1ほど科学的証拠が十分ではないが関係がありそうだ、というグループである。

 こうした実情を受け、その防止対策を強化する法案作りに入るため、厚労省が病院や飲食業、大学、ホテル、麻雀など10団体を集めた。そこで、話された病院団体の代表の考え方に驚いてしまった。

 日本の療養病棟や精神科病棟は平均入院日数が欧米よりかなり長いことを強調し「こうした病院は生活に近い環境になっている」と指摘、従って生活しているのだから「病院の敷地内を全面禁煙にするのは現実的ではない」と述べたと言う。要望として、例外や経過措置を設けて弾力的な規制を求めた。

 いったい、「病院が生活の場」であるとはどういうことなのか。長く入院しているから「生活の場」になっている、と当然のように話す。おかしな話だ。誰一人として病院が日常の暮らしの場であってほしいとは望んでいないはずなのに。厚労省が高齢者ケアの理念として掲げた「地域包括ケア」は、高齢者だけでなく、将来的には国民全体が目指すべき方向でもある。

 住み慣れた地域でできるだけずっと長く暮らし続けましょう、遠くの病院には頼らない生活が一番です――そのために地域包括ケアに取り組む、ということだ。厚労省が当初示した地域包括ケアの説明は「病院等に依存しない住み慣れた地域で在宅ケアの限界を高める」ということだった。海外では、同じ内容を「Aging in Place」と呼んでいる。

 もともと病院は、緊急の避難先であったはずだ。健康を害した人たちが一時的に訪れたり、滞在するところ。「避難所」であり「仮設住宅」に近い。自然災害に襲われた地域住民が自宅で過ごすことが出ないのでやむなく一時的に移るのが「避難所」であり、長期に避難せざるを得ないから「仮設住宅」で日々送る。いずれ自宅に戻るのが大前提だろう。本来の暮らしの場ではない。

 つまり、病院に長期に滞在しているという現象が本来のあり方ではないはずである。長期入院をいかにしてやめるかと言う議論があり、取り組んでいる最中なのに、長期入院を固定させるかのような発想に疑問を抱かざるを得ない。

 何しろ日本の精神科病院の姿は、国際的に見ると異常と言わざるを得ない。精神科病床は35万床ある。世界全体で約175万床だから、世界の20%を日本が占めている。桁外れに多い。各国の精神科病床は1970年代以降、急減しているにもかかわらず、日本だけが一向に減っていないためだ。

 平均在院日数も国際的に見ると孤立している。日本は301日に達している。これに対してデンマークは4日、フランスは6日、アメリカも6.4日である。多い国でも、ドイツが24日、イギリスが48日。とても比べられない状況である。

 それも長期入院が多い。10年以上で6万7000人、20年以上でも3万3000人にのぼる。国際的に見てこんな異常な現象を当然なこととして「長く入院しているから生活がある」と判断してはならないだろう。

受動禁煙対策は“2020年のため”

 この日のヒアリングの前に厚労省は10月、禁煙場所のあり方を3パターンに分けて示していた。最も徹底しているのが(1)敷地内禁煙。次に緩やかなのが(2)建物内禁煙。そして分煙ではないが(3)原則として建物内禁煙で、隔離した喫煙室を設ける。

 その対象は、(1)が未成年者や患者が集まる場所として小、中、高校と医療機関、(2)は官公庁、運動場、大学、社会福祉施設、バス・タクシーの乗り物内、(3)は飲食店などのサービス業、事務所、ビルの共用部、駅、空港、鉄道、船舶とした。

 なぜ、今になって受動喫煙に取り組むのか。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えているからだ。これまでのオリンピック開催地では、厳しい禁煙措置が取られてきた。

 スポーツは健康増進の目的もあり、「たばこのないオリンピック」は世界保健機構(WHO)と国際オリンピック委員会が推進している。多くの国では、レストランや職場での全面禁煙が法制化され、「スモークフリー」の考え方が浸透している。すべての公共の場所で屋内全面禁煙としている国は2014年時点で49ヵ国ある。「法制度がないのは日本だけ」との批判の声が高まっている。改訂した「たばこ白書」は、WHOによる各国のたばこ対策7項目への評価で日本は「受動喫煙からの保護」など3項目が「最低」で、G7諸国で最悪だったと報告した。

 オリンピック開催地のロンドンでは建物内禁煙、リオデジャネイロは敷地内禁煙にまで踏み込んでいる。2018年の冬季五輪開催地の韓国・平昌では原則建物内禁煙で飲食業は喫煙室設置となっている。

 こうした各地の先例を参考に厚労省が示したのが3パターンのプランである。「ロンドンと平昌のとの混合型」を着地点にしたという。近く受動喫煙防止法としてまとめ来年中には成立を期す。法の中で、違反者には勧告、命令をすることになり、従わなければ罰則を科すと言う。関係業界へのヒヤリングは引き続き実施する。

 受動喫煙の実態ついて厚労省は、3割以上の非喫煙者が1カ月間に飲食店や職場で受動喫煙に遭遇している、としている。また、行政機関や医療機関で受動喫煙に遭遇する人も一定程度いる。

そもそも、日本の受動喫煙対策はどうなのか?

 では、現状の受動喫煙対策はどうなっているのか。

 2003年5月に施行された健康増進法と2015年6月の労働安全衛生法の改正で、施設や事業所での受動喫煙の防止策が取られるようになったが、いずれも努力義務に止まっている。国際的には「禁止」が大勢なのに、日本は「努力義務」だ。

 また、国はたばこ規制に関する世界保健機関枠組み条約の締結国として規制措置への取り組みもしなければならい。

 31日に呼ばれた業界団体は、日本内航海運組合総連合会 一般社団法人日本船主協会 一般社団法人日本外航客船協会 、日本私立大学団体連合会、全国麻雀業組合総連合会、特定非営利活動法人日本ホスピス緩和ケア協会 、一般社団法人全日本シティホテル連盟、一般社団法人日本フードサービス協会、一般社団法人全国消費者団体連合会、そして病院を代表したのが四病院団体協議会である。

 四病院団体協議会は、日本病院会と日本精神科病院協会、日本医療法人協会、全日本病院協会で構成されている。

 日本医師会は既に2012年に「受動喫煙ゼロ宣言」を発表しており、全医療機関で敷地内禁煙を推進している。公立病院ではほとんどが敷地内での禁煙を実施しており、多くの病院では禁煙に前向きである。

 ではなぜ、この日のヒヤリングで「及び腰」な発言になったのか。禁煙問題に詳しい産業医科大学の大和浩教授は「精神科病院の考え方が強く出てきためだろう。というのも日本医療機能評価機構が一般病院と違う見解を打ち出しているからだ」と話す。

 日本医療機能評価機構精は、一般病院については受動喫煙を防止するため全館禁煙の遵守を求めているが、精神科と療養病棟、緩和ケア病棟については、分煙のための施設・設備が整っており、受動喫煙の防止が徹底していればよいとしている。

 確かに、ヒヤリングの際に、入院患者の多くが末期のがん患者である日本ホスピス緩和ケア協会は「喫煙の習慣がある患者にはその点を配慮して、敷地内で認めている場合がある」と実態を説明していた。一般病院とは異なる対応だ。大和浩教授は「こうした考え方は、間違ったやさしさの表れだろう」と批判する。

受動喫煙の論争のいま

 受動喫煙を巡って、今、国とたばこ会社が正面衝突している。国立がん研究センターと日本たばこ産業(JT)の大論争が勃発した。海外では見られない、日本の特殊事業が裏にあると言わる。

 国立がんセンターが8月31日に、受動喫煙による肺がんのリスク評価を従来の「ほぼ確実」から「確実」に引き上げた。日本人を対象にした疫学的研究では統計的優位性が示されなかったため、「ほぼ確実」の段階にとどまっていた。新たな研究で、受動喫煙で肺がんになる確率が1.3倍になることが確認できたので「確実」とし、海外のレベルと並ぶことになった。

 これに対して、JTは同日に自社ホームページで小泉光臣社長によるコメントを発表し、真っ向から反論した。「本研究結果だけをもって、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論づけることは、困難であると考えています」「今回の選択された9つの疫学研究は研究時期や条件も異なり、いずれの研究においても統計学的に有意ではない結果を統合したものです」。

 今度はがんセンターが9月28日にJTの言い分をことごとく反論した。今でもホームページ上で掲載している。その最後に、JTのコメントにある「JTは周囲の方々への気配り、思いやりを示していただけるよう、たばこを吸われる方々にお願いしています」との言葉を捉え、「受動喫煙は『迷惑』や『気配り、思いやり』の問題ではなく、『健康被害』『他者危害』の問題である」と一蹴した。

 JTがこれだけ強気になって国立機関に刃向う構図は異常と言えるだろう。その力を支えているのは、「財務省のグループという意識があるから」と指摘する声がある。確かに、「日本たばこ産業株式会社法」による特殊会社としてJTは存在しており、その第2条では「政府は、常時、日本たばこ産業株式会社が発行している株式の総数の3分の1を超える株式を保有していなければならない」とされている。会長の丹呉泰健氏は元財務事務次官である。

 といって、財務省と厚労省の「喧嘩」にしてしまってはかなわない。多くの医療関係者が論争に加わり、早めの決着を期待したい。

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