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受動喫煙で肺がんリスク、がんセンター「有意な関連」にJTが真っ向反論「有意ではない」

受動喫煙で肺がんリスク、がんセンター「有意な関連」にJTが真っ向反論「有意ではない」

http://biz-journal.jp/2017/01/post_17642.html

2017.01.05

 昨夏、「受動喫煙肺がんリスク」をめぐって、国立がん研究センターと日本たばこ産業(JT)が真っ向から対立する事態が起きた。

 事の発端は、8月31日にがんセンターがホームページ(HP)上に掲載した「受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍」という発表だ【※1】。それによると、「受動喫煙のある人は、ない人にくらべて肺がんになるリスクが約1.3倍で、国際的なメタアナリシスの結果と同様」とされている。

 また、この研究結果に伴い、がんセンターは受動喫煙における科学的根拠に基づく肺がんのリスク評価を「ほぼ確実」から「確実」にアップグレード(日本人を対象)。がん予防法を提示しているガイドライン「日本人のためのがん予防法」においても、他人のたばこの煙を「できるだけ避ける」から「避ける」に修正し、受動喫煙の防止を明確な目標として提示している。

 今回がんセンターが用いたのは、複数の論文を統合・解析する「メタアナリシス」という研究手法だ。426本の研究から9本の論文を抽出して相対リスクを算出した結果、「日本人を対象とした疫学研究のメタアナリシスにおいて、受動喫煙と肺がんとの間に統計学的に有意な関連が認められた」としている。

 これに反論したのがJTだ。JTは同日、HP上に「本研究結果だけをもって、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論づけることは、困難であると考えています」という発表を小泉光臣代表取締役社長の名義で掲載【※2】。「受動喫煙を受けない集団においても肺がんは発症します」と主張すると同時に、「今回の選択された9つの疫学研究は研究時期や条件も異なり、いずれの研究においても統計学的に有意ではない結果を統合したものです」とがんセンターの研究手法に疑問を投げかけている。

 それを受けて、がんセンターは9月28日、再びHP上に「受動喫煙と肺がんに関するJTコメントへの見解」を掲載した【※3】。JTの反論に対して「科学的アプローチに対し十分な理解がなされておらず、その結果として、受動喫煙の害を軽く考える結論に至っている」「当センターとはまったく異なる見解」として、JTのコメントを引用するかたちで詳細な反論を展開している。

喫煙者の健康障害は万人が認める事実

 国の研究機関と企業が反論をぶつけ合うという異例の展開になっているが、はたして受動喫煙は肺がんのリスクを高めるのか、そうでないのか。新潟大学名誉教授で医学博士の岡田正彦氏に聞いた。

「非常に興味深い論争ですね。過去にも、『喫煙で健康を害することはあるか』というテーマで、同じような論争が繰り広げられてきました。対立の構図は、『疫学』と呼ばれる分野の研究者とたばこ企業とのバトル、の一言に尽きます。

 たばこの害を否定したい企業側の研究者と疫学の研究者との間で、長い間、意見が合わなかったのです。しかし、たばこをめぐる多くの裁判記録から、企業側研究者が書いた論文に捏造があったことが暴露されるなどの不祥事も相次ぎ、喫煙者の健康障害は確固たる事実として万人が認めるところとなっています。

 受動喫煙のほうにも同じ問題が潜んでいるようで、これまで世界中で発表されてきたデータに大きな乖離がありました。女性に着目して、家庭内や職場で他人が吸ったたばこの煙で肺がん死亡が増えるかどうかを調べた研究データが多いのですが、『関係あり』と結論した論文と『関係は見いだせなかった』とした論文が相半ばしていたのです」(岡田氏)

「受動喫煙で肺がん死亡増」は世界の認識

 今回のがんセンターとJTのバトルについて、一概に勝敗を決められるものではないが、どのように見ているのだろうか。

がんセンターの言い分は『受動喫煙で明らかに肺がんが増える』であり、JT側は『統計分析法に異議あり』と反論しています。論点は最新の統計分析法をめぐるもので、専門家でも意見が分かれるほどの難問です。

 がんセンターが行った研究は、まずコンピュータで国内の発表論文を網羅的に検索し、9編に絞り込んだ上で総合評価を下したものとなっています。今、このような研究手法は医学の分野で流行となっていて『メタアナリシス(超分析法)」と呼ばれます【※4】。これに対するJT側の反論は、『メタアナリシスは対象論文の選び方次第で結論が変わってしまう』『たばこ以外にも肺がんの原因はある』などです。

 受動喫煙の害については、早くも1998年にアメリカで発表された論文の中で厳密な分析結果が報告されています【※5】。同論文では、まず受動喫煙に関するメタアナリシスが多数行われており、うち5編は『因果関係なし』と結論していますが、どれも『たばこ企業の社員またはコンサルタントが書いたものだった』と断罪しています。

 メタアナリシスの対象にした論文の重みのつけ方に作為があったことを指摘するとともに、正しいメタアナリシスの基準についても詳細に述べています。その上で、『受動喫煙の害は証明される』と結論していました。この分析には、日本人が発表したデータも含まれていました。

 この論文にくらべると、がんセンターの研究は不完全なものだったといわざるを得ません(調査対象者が本当にたばこを吸っていないことを血液検査で確認していない、対象論文のすべてが『因果関係なし』と結論したものだった、など)。特に、どれも『関係なし』と結論した論文であるにもかかわらず、それらのデータを合算したら『関係あり』に変わった、という主張は受け入れ難いものです。

 互いに異なる条件下で行われた調査の結果を合算するという単純な考え方にも問題があります。同論文は国内の雑誌に載ったものですが、(私自身の経験によれば)海外の一流といわれる専門誌に掲載を断られた場合に、そうせざるを得ないことがあります。

 この点、JT側の『むしろ、ひとつの大規模な疫学研究を重視すべき』との意見には私も賛成です。ただし、文献【※5】には信頼性が高い『ひとつの大規模調査の結果』も報告されており、『受動喫煙と肺がんは関係あり』との結論になっていました。JTの反論にも一理あったのですが、皮肉なことに結論はその意に反するものでした。今回の論争に限れば『両者引き分け』といったところですが、世界中の研究データを総合すれば、やはり『受動喫煙で肺がん死亡が増えるのは間違いのない事実』と考えていいでしょう」(同)

受動喫煙の健康被害についてJTを直撃

 専門家の判定としては、「両者痛み分け」といったところのようだ。そこで、この岡田氏の見解を踏まえてJTに取材したところ、以下のような回答を得た。

――がんセンターの発表や統計分析法について、あらためてどのようにお考えでしょうか?

「今般の同センターの見解は、分析において『メタアナリシス』(調査条件の異なる複数の疫学研究を統合してひとつの結論を導く手法)を用いたことの正当性を強調し、その結論が科学的に妥当であることを主に主張するものでありますが、私たちの見解に対し、科学的に問題があると指摘するものではなく、あくまで同センターとJTとの“見解の相違”にすぎないものです。

 したがって、同センターの見解に対し、私たちの意見は変わることはありません。メタアナリシスにはさまざまな問題点が指摘されており、その結果だけをもって『受動喫煙肺がんの関係が確実である』と結論づけることは困難であると考えます」

――「大規模な疫学研究」および世界中の研究データにおいては、受動喫煙や喫煙による健康被害が認められているという点について、御社の見解はどのようなものでしょうか?

「これまで、受動喫煙の疾病リスクについては、国際がん研究機関を含むさまざまな研究機関などにより多くの疫学研究が行われていますが、『受動喫煙によってリスクが上昇する』という結果と『上昇するとはいえない』という結果の両方が示されており、科学的に説得力のあるかたちで結論づけられていないものと認識しています」

――近年、「健康」への意識が高まっていますが、今後、「たばこと健康」について、どのような啓蒙活動を行っていく予定でしょうか?

「日本においては、たばこ事業法に基づく財務省令により、たばこの包装に健康注意文言およびタール・ニコチン量を表示することが義務付けられており、私たちは当社製品に正確な表示を行っています。また、たばこの広告については、たばこ事業法などの関係法令および業界の自主規準により、同様の注意表示を行っております。

 また、私たちは、日本で販売されている私たちの製品(紙巻たばこ)に使用されているすべての添加物を記載したリストと各ブランドの主要な添加物を記載したリストをJTウェブサイトにおいて開示しています。

 また、健康注意文言以外にも、私たちは従来から、メディアや消費者の方々からのお問い合わせなどに対しさまざまな情報を提供してきております。それらの情報を含め、喫煙と健康に関する私たちの考え方や情報をJTウェブサイトにおいて開示しております。今後とも、社会環境に応じた適切な方法により、喫煙に関連する情報をお知らせしていく努力を続けてまいります」

――今回の岡田氏の見解について、どのような感想やご意見をお持ちになるでしょうか?

「詳細および第三者の方の見解に対するコメントは差し控えさせていただきます」

受動喫煙による死亡者は年間1万5000人

 同様に、がんセンターにも岡田氏の見解を踏まえた上で今回の研究の正当性やJTの反論について取材を申し込んだが、対応は「現時点ではHP上に掲載している情報がすべてであり、個別の質問には回答していない」というものだった。

 厚生労働省の研究班は「受動喫煙が原因で死亡する人は、年間1万5000人に上る」と推計しており、死因は脳卒中がもっとも多く、次いで虚血性心疾患、肺がんとなっている。12月には、禁煙推進学術ネットワークや日本医師会などが公共の場所や職場などの屋内を完全禁煙化する法律を求める要望書を国に提出した。がんセンターは、かねてより公共空間の屋内全面禁煙を主張しているが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて法制化が進みつつある。
(文=編集部)

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