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タバコ吸うならリスクを承知して

タバコ吸うならリスクを承知して

http://www.asahi.com/articles/SDI201706117436.html

アピタル・酒井健司

2017年6月12日12時45分

 他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙の防止策をめぐって、議論が続いています。主な争点となっているのは飲食店での喫煙です。屋外禁煙についてはすでに海外よりも日本のほうが厳しいのに、さらに「屋内は百パーセント禁煙化」をめざすのは厳しすぎるのではないか、といった主張もあります。傾聴に値する意見だと思います。他人が吐いたタバコの煙には害がありますので受動喫煙対策は必要ですが、たとえば気密性の高い喫煙室などの十分な分煙対策を行うのであれば、屋内喫煙も容認されうると私は考えます。

 仮に飲食店が全面禁煙になったとして、私自身はたいへん快適でまったく困りませんが、飲食店でも路上でもタバコを吸えない喫煙者が自宅で吸うようになって、家庭での受動喫煙が増えないとも限りません。公共の場での禁煙がプライベートな場所における、とくに幼児に対する受動喫煙を増やすというアメリカ合衆国の研究もあります。(https://www.ifs.org.uk/publications/3523別ウインドウで開きます

 そして何よりも、価値観の多様性は尊重されるべきであると私は考えます。健康・長生きだけが大事なわけではありません。私は医師として、なるべく患者さんには健康で長生きしていただきたいと考えていますが、長生きよりもタバコのほうが大事という患者さんの価値観も肯定します。リスクを十分に理解した上で成人がタバコを吸う自由はあります。

 ただ、対策強化への反対論の中には、喫煙のリスクについて十分に理解しているとは言い難いものも目につきます。なかには、「喫煙と肺がんとの直接の因果関係は、科学的に立証されていない」といった意見までありますが、はっきり申し上げて、明らかな間違いです。喫煙と肺がんの因果関係はすでに複数の集団において明確に立証されています。これを反証するデータは、存在しません。

 規制に反対する人たちがしばしば挙げるのは、「喫煙率が下がったのに肺がん死亡者が増えた」という点ですが、そもそも誤解があります。喫煙から肺がんが生じるのには20~30年の時間間がかかり、喫煙率が低下したからといって即座に肺がんが減るわけではありません。そもそも、なぜ肺がん死亡者数で評価するのでしょうか。肺がんリスクが変わらなくても人口が増えたらそれだけで肺がん死亡者数は増えます。死亡者数ではなく死亡率で評価すべきです。より正確には年齢調整された死亡率を用います。肺がんリスクや人口が変わらなくても、高齢者の割合が増えるとそれだけで肺がん死亡率(粗死亡率)は大きくなるからです。

 日本人男性における喫煙率と年齢調整肺がん死亡率をグラフにしてみました。喫煙率のデータは厚生労働省のサイトから、肺がん死亡率は国立がん研究センターがん情報サービスのサイトからそれぞれ取得しました。喫煙率が下がりはじめて約30年後に肺がん死亡率が下がっているのがわかります。

 実は、同じようなグラフを6年前、2011年にも『医心電信』で描いたことがあります。そのときはJT(日本たばこ産業株式会社)のサイトの「喫煙の影響が現れるには20~30年程度のタイムラグをみる必要があると言われていますが、タイムラグを考慮しても肺がん死亡率の動向は喫煙者率の推移とは多くの点で一致しません」という記述に反論するためでした。現在のJTのサイトは、微妙に表現を変えて「……(中略)タイムラグを考慮しても肺がん死亡率の動向を喫煙者率のみで説明することは困難です」としています。肺がん死亡率の動向は喫煙者率の推移と一致することが明らかになってしまったからでしょう。

 喫煙は肺がんだけでなく、咽頭がんなどの他のがん種や心筋梗塞や脳血管障害といった多くの疾患の原因にもなります。それでもタバコを吸いたいならリスクを覚悟した上で吸ってください。タバコを止めたいなら、禁煙外来があるお近くの医療機関にご相談ください。分煙対策について議論をしたいなら受動喫煙の害について正確に把握した上で行うのが望ましいです。

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/

(アピタル・酒井健司)

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