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東京都の「受動喫煙防止条例」は極めて重要だ 東京都医師会・尾崎会長が説く喫煙の大問題

東京都の「受動喫煙防止条例」は極めて重要だ 東京都医師会・尾崎会長が説く喫煙の大問題

2017年08月13日

「今秋にも受動喫煙防止の条例案を提出したい」。小池百合子東京都知事が公約の実現へ動き出した。

東京都の受動喫煙防止対策が注目を集めている。7月の都議選では小池都知事が代表を務め(現在は辞任)、屋内完全禁煙などをうたった都民ファーストの会が圧勝。国の受動喫煙対策が進まない中、小池都知事は「国がやると時間のかかることは東京都でできるようにしたい」と熱意を語る。

また、IOC(国際オリンピック委員会)は開催国の屋内施設での原則禁煙を求めており、3年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた対策としても急を要している。

喫煙者自体は18.2%(2017年5月時点、JT発表)と減少しても、受動喫煙被害を訴える声はむしろ増大。2016年8月に国立がん研究センターは、受動喫煙による死者は年間1万5000人という推計を公表した。今夏にも閣議決定を目指す「第3期がん対策推進基本計画」には、すべてのがん予防のため「禁煙」と「受動喫煙を避ける」ことが盛り込まれる。

医師会の立場から受動喫煙防止対策の必要性を主張する、尾崎治夫・東京都医師会会長に話を聞いた。

東京都から受動喫煙防止を始める意味

――この6月に東京都医師会長として2期目がスタートしたが、所信表明のトップがタバコ対策になっている。2011年にタバコ対策委員会を設置、2013年には禁煙宣言もした。

東京都医師会としては健康を守ること、疾病を予防することの2つの観点から、健康を害する最大の原因になっているタバコの問題に真正面から取り組む必要がある。国の政策のなかでも「健康寿命の延伸」がうたわれており、疾病予防の観点からタバコの問題は避けて通れない。

以前は一律に規制するのはいかがなものか、という意見もあったが、ここ4~5年で風向きが変わってきた。

「日本人のリスク要因別の関連死亡者数」(厚生労働省)では、最大の要因が喫煙。喫煙は肺がんだけでなくすべてのがんの要因となるうえ、動脈硬化から心血管、脳血管系や呼吸器系の病気も引き起こす。歯周病の主因でもある。

――日本の受動喫煙対策の実現が遅れている。

 IOCとWHO(世界保健機構)が協定を結んでからロンドン、リオデジャネイロ、冬季のバンクーバー、ソチ、次のピョンチャンでも原則屋内禁煙。にもかかわらず日本だけがいまだに対応できていない。

国会議員でも都市部選出の人たちは、自身が喫煙者でも、受動喫煙の害について理解し防止策については反対しないと言っている。ところが、地方選出議員は地元の関係者との結びつきが強く、受動喫煙を国民の健康問題として考えることができない。

東京都は政治的には浮動層が多く、先の都議選でも岩盤と思われた自民党が大敗し、都民ファーストの会が大きく伸びた。だからこそ、東京都から受動喫煙防止対策を始めることには意味がある。

飲食店には3次喫煙の問題もある

――屋内完全禁煙について、飲食店からの反対も根強い。

国内外に多数の論文があり、全面禁煙となった場合は飲食店の経営への影響はないとされる。むしろ、非喫煙者が安心して来店できるようになり売り上げが伸びる。喫煙者はタバコを吸う間は食事の手を止めるので、その分長く店に居座る。完全禁煙になれば回転率が上がるし、店が汚れず灰皿の始末も不要。何より従業員の健康を守れる。

そもそも飲食店は、タバコを吸わせておカネを取ることが目的ではないはず。大皿にいろいろな料理を盛り、注文に応じて取り分けるお店では、料理がタバコの煙で汚染される。いわゆるサードハンドスモーク(3次喫煙、衣服や家具などにタバコ煙が付着することによる受動喫煙)になる。安全で美味しい食事を提供するはずの飲食店がそれでいいのですか、ということだ。

――東京都の条例はどのようなものになるのが望ましいか。

疾病予防の観点から東京都医師会としては、例外なし罰則付きの屋内原則禁煙が望ましいと考える。小規模バーなど一部の店舗を喫煙可とするような、広さによる例外規定は、かえって不公平になるおそれがある。ルールはシンプルな方がいい。広さの基準にはエビデンスがないうえ、狭い店では煙が拡散せず受動喫煙被害は大きくなる。ただ、従業員のいない店主が1人でやっているような店は除外するなど、最終的には少し譲歩があってもいいとは思う。

喫煙室の設置は過渡期には仕方がないだろう。銀座のように小さな飲食店がたくさんある繁華街では、「屋外も完全禁煙」は現実的ではない可能性がある。すでにある規制を緩めるということではなく、煙を密閉して外に出さないようにした「喫煙ボックス」の設置を認める。自治体の理解は必要だが、タバコ会社にも協力してもらい、ビルの屋上や受動喫煙被害のおそれのない場所に設置する。小さな店舗ひとつひとつに補助金を出して喫煙ルームを設置するより効率はいい。日本的な解決法だとは思うが、当初はこういった形で進めるのがよいのではないか。

条例ができればリスクが認識される

――ベランダ喫煙など、近隣住宅からの受動喫煙について被害者の会が立ち上がっている。

これは受動喫煙に関する一般的な条例のなかに含まれるだろう。米国のカリフォルニア州では建物から6メートル以内での喫煙は禁じられている。これならベランダ喫煙もできない。

もうひとつの観点は「子どもを守る」こと。家庭内でも子どもの前では吸わないよう努力義務とする。とくに強く言っておきたいのは、子どもが同乗している自動車内での禁煙。密室であり子どもへの影響が非常に大きいので、罰則規定が必要だ。

――都の条例ができればすべての問題が解決に向かうか。

条例は大きなきっかけになると考える。喫煙・受動喫煙のリスクは、まだ十分に一般に伝わっていない。条例ができれば、なぜ喫煙・受動喫煙がダメなのかをきちんとアピールできる。

たとえば20~30歳代の女性に喫煙者が増えているが、出産可能年齢でもあるので、母子保健や産婦人科の医師らと連携して、妊娠したら必ずやめてもらうように指導したい。受動喫煙でも低体重児や乳幼児突然死症候群のリスクが高まるからだ。

もう1つは子どもたちに対するがん教育。今年から小中高で、がん予防教育としてタバコの害についての教育が開始される。知れば子どもたちが親に対して「がんになるからやめて」といえる。家族のなかで話し合うきっかけになる。

地域での禁煙対策をより強力に推進するため、都内に46ある地区医師会すべてにタバコ対策委員会の設置をお願いしている。現在6~7地区にしかないが今年度中に全地区での設置を目指している。

とても安全とは言えない、加熱式タバコ

――加熱式タバコは、紙巻きタバコに比べて安全だとタバコ会社は宣伝している。

会社側が添加物などを公表していないのではっきりとはわからないが、ニコチンの純度が高く依存性が高まる危険がある。また、7月に米国の論文誌に発表された論文で、アクロレインやベンズアルデヒド、ホルムアルデヒドと言った毒性物質が紙巻きたばこの50~80%超含まれていることが報告されており、とても安全とは言えない。

最近でも加熱式タバコによる過敏性肺臓炎(アレルギー性の肺炎、特発性間質性肺炎などに移行するリスクがある)で肺が真っ白になった患者さんを診ている。また、米国FDA(食品医薬品局)では、加熱式タバコを「タバコのリスクを軽減する製品」として承認していない。

――受動喫煙防止策に対して、タバコの税収をタテに反対する人がいる。

日本にはそもそも「たばこ事業法」(1984年施行)の問題がある。タバコの収入で経済を発展させるという考え方が一因となって、タバコ対策が欧米に後れを取っている。欧米の税務当局は、国民の健康が損なわれることによる労働力の損失、医療費の増大など、総合的に考える。10年単位で考えれば、国民が健康な方が絶対にプラスであるが、日本では単年度の税収しか考えていない。この意識を変えるには、時間をかけないと難しいだろう。

――禁煙にはつながらないかもしれないが、目先の受動喫煙を防ぐという観点から、ニコチンパッチの活用は可能か。

治療ではなく、吸いたいが吸えないときの代替としてという発想は、なくはない(笑)。しかし、まずは禁煙外来に来てもらい、きちんと治療することを最優先してほしい。

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