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電子タバコにまつわる「企み」の兆候とは

電子タバコにまつわる「企み」の兆候とは https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20170828-00075049/

石田雅彦  | フリーランスライター、編集者 8/28(月) 17:21

 米国トランプ政権のFDA(食品医薬品局)が、7月28日にタバコの「ニコチン量規制案」を発表した。規制案によれば、タバコに含有されるニコチンの割合を中毒性がない量まで引き下げなければならない。この発表の結果、米国のフィリップ・モリス・インターナショナルを傘下に持つアルトリア・グループや英国のブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)など、タバコ会社の株価がウォールストリートで大きく値を下げて話題になった。

ニコチン規制はタバコ会社の息の根を止めるか

 これについて、スタンフォード大学の科学史教授、ロバート・N・プロクター(Robert N. Proctor、※1)は英国の医学雑誌『BMJ』に寄稿し(※2)、依然として世界で巨額な収益を上げているタバコ会社にとって、今回のFDAのニコチン規制案は大打撃になるはずだ、と書いている。

 寄稿の中でプロクターは、タバコ企業が現在作っている紙巻きタバコの重さにおける1%から2%というニコチンの含有量(※3)は、喫煙者を満足させ、中毒を引き起こしてタバコをやめられなくさせるための絶妙な分量(スイートスポット)だ、と言っている。FDAの「狙い」は表向き、喫煙の習慣がニコチン中毒にあることを国民へ広く知らしめることだ。

 WHOや各国政府の保健衛生部門、禁煙団体などとの間で長年、綱引きしてきたタバコ企業にとって、この割合が1/10でも引き下げられ、これ以下のニコチン含有量になってしまえば、喫煙者をニコチン中毒にできず、紙巻きタバコに惹きつけ続けておくことは難しいだろう。

 もちろん、タバコの中毒性は、ニコチンによる身体的な作用のみならず、心理的社会的な影響も大きい。だが、ニコチンの量を減らさなければならなくなれば、かつて紙巻きタバコにアンモニアを含ませて中毒性習慣性を高めていたような、何かしらの策をタバコ企業が弄してくることも予想される。

 タバコ企業にはタバコの中毒性や健康被害を知りつつ隠蔽してきた「前科」があるから、この予測も全くあり得ない話ではない。一方、トランプ大統領が任命したスコット・ゴットリーブ(Scott Gottlieb)FDA長官には、リキッド揮発性電子タバコ、いわゆる「VAPES」(※4)の製造企業との利益相関も取りざたされている。

 また、タバコ企業の側はFDAの規制案に対し、ニコチンの含有量が減れば、禁酒法時代のようなことが起き、違法な取引が横行するだろうと批判してもいる。だが、プロクターはこれに対し、ニコチンパッチやニコチンガムなど、ニコチンを摂取できる合法的な手段はあるのだから心配ない、と反論した。

電子タバコ研究を支援するタバコ会社

 日本に限らず、世界的に紙巻きタバコに対する風当たりは増すばかりだ。こうした流れを受け、フィリップ・モリス・インターナショナルが紙巻きタバコからの将来的な撤退を示唆するなど、大手タバコ企業は電子タバコ(電気式加熱タバコ)へシフトしつつある。

 FDAの「ニコチン規制案」は、段階的に行われるであろうタバコ規制の第一段階であり、ニコチン規制の代わりに「安全」な電子タバコの開発に時間的余裕を与えるため、電子タバコに対する規制の予定を遅らせる、とも発表している(※5)。

 おそらく、ここ最近よく学術誌に発表されている電子タバコの「ハームリダクション(Harm Reduction)」の効果、つまり禁煙へ移行する手段として電子タバコの使用が有効なのではないか、という疫学研究(※6)もFDAの計画変更に一定の影響を与えているのだろう。ちなみに、電子タバコのハームリダクションについては、禁煙外来にはニコチン代替治療薬などがあり、わざわざ電子タバコを利用して禁煙しなくてもいい、という意見もある。

 そのせいもあり、タバコ会社による「電子タバコ販売戦略」と「イメージ戦略」はかなり奏功している。たとえば、つい最近の論文には、電子タバコは「ファッショナブルな先端技術がつめこまれた製品であり、紙巻きタバコよりも健康に害はない」というアンケート結果もあった(※7)。また、電子タバコが「禁煙へ移行する手段」とする論文の中には、タバコ会社から資金提供を受けて調査研究しているものも散見される(※8)。

 電子タバコについては議論がつくされていないし(※8)、電子タバコから出るエアゾルが、どれだけ吸っている本人や周囲で吸わされる人たちの健康へ被害を及ぼすのか、まだはっきりとはわかっていない。

 だが、ハームリダクションについて研究支援しているように、タバコ企業はその生き残りを電子タバコに賭け、様々な方策をたててきている。電子タバコ規制を先送りした今回のFDAのニコチン規制案にも、タバコ企業から何らかの影響が及んでいる可能性もあるのだ。

※1:タバコにアンモニアが添加されることで中毒性を高めているのではないか、というタバコ企業の製造法について1999年に証言した(ペンシルベニア州立大学教授時代)。政治的や文化的な理由で意図的に作られた「無知、アグノトロジー(Agnotology)」という概念を提唱している。

※1:T Stevenson, R Proctor, "The secret and soul of Marlboro. Philip Morris and the origins, spread, and denial of nicotine free basing." American Journal of Public Health, 2008, 98(7):1184-94, 1, August, 2008

※2:Robert N. Proctor, "FDA’s new plan to reduce the nicotine in cigarettes to sub-addictive levels could be a game-changer." BMJ, Vol.26, Issue5, 2017

※3:例えば、JTの「メビウス」のニコチン量は0.8mg/1本。

※4:「VAPE」とも。フレーバーのある各種リキッドを電気的に加熱して吸い込むタイプの電子タバコ。ニコチン入りリキッドもあり、ネット通販などで入手可能。リキッドではなくタバコ葉を使うJT(日本たばこ産業)の「プルームテック」も一種のVAPE式電子タバコ。

※5:2016年8月時点で新たに規制されたタバコ製品の審査申請提出期限を2021年以降に延長する、という案。

※6:Shu-Hong Zhu, Yue-Lin Zhuang, Shiushing Wong, Sharon E Cummins, Gary J Tedeschi, "E-cigarette use and associated changes in population smoking cessation: evidence from US current population surveys." the BMJ, 358, 26, July, 2017

※6:Max W Y Lam, Nelson W Y Leung, Baker KK Bat, Gary K S Leung, Kelvin K F Tsoi, "Real-time data capture with electronic cigarettes for smoking cessation programme: a cloud platform for behavioural research." BMJ, 31, July, 2017

※7:A. Daniluk, et al., "Electronic Cigarettes and Awareness of Their Health Effects." Advances in Experimental Medicine and Biology, 12, August, 2017

※8:Nathan Gale, Mike McEwan, Alison C. Eldridge, Neil Sherwood, Edward Bowen, Simon McDermott, Emma Holmes, Andrew Hedge, Stuart Hossack, Oscar M. Camacho, Graham Errington, John McAughey, James Murphy, Chuan Liu, Christopher J. Proctor and Ian M. Fearon, "A randomised, controlled, two-Centre open-label study in healthy Japanese subjects to evaluate the effect on biomarkers of exposure of switching from a conventional cigarette to a tobacco heating product." BMC Public Health, 22, August, 2017

※9:Ashley Sanders-Jackson , Andy S. L. Tan, Cabral A. Bigman, Susan Mello, Jeff Niederdeppe, "To Regulate or Not to Regulate? Views on Electronic Cigarette Regulations and Beliefs about the Reasons for and against Regulation." PLOS ONE, 12, August, 2016

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