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古賀茂明「自民党“魔の3回生”の暴言でわかったたばこ利権に弱い安倍政権とマスコミ」

古賀茂明「自民党“魔の3回生”の暴言でわかったたばこ利権に弱い安倍政権とマスコミ」

https://dot.asahi.com/dot/2018070100010.html?page=1

連載「政官財の罪と罰」

2018.7.2

「働き方改革法」が、ついに成立した。

 安倍総理が一番こだわった「高度プロフェッショナル制度」については、野党の追及に国会論戦でボロボロになったが、結局は数の力で押し切った。この制度が、働く者の要望ではなく、経団連の要望であることを総理自らが認めてしまうなど、この法案は、経営者の立場に立って「働かせ放題」を目指すものだという野党の批判が当たっていたということが鮮明になる中での採決だった。

「【図】受動喫煙防止法がザル法になった理由」はこちら

 この法案に限らず、今国会での議論を見て感じるのは、安倍内閣の基本姿勢が、「人よりも企業」という、古い途上国型利権国家のものだということだ。

 私は、先進国の条件には、単に経済的にある一定の水準(例えば1人当たりGDP)を超えるということの他に、数字では表せないが、欠かせないものが三つあると考えている。

1.人を大切にする
2.自然・環境を大切にする
3.公正なルールが厳格に執行される

 この三つだ。詳しい解説は別の機会にするが、社会が発展し、成熟することでこれらの要請が国民の間に強まり、また、経済発展がその実現を可能とする。一方、このいずれの条件から見ても、日本は残念ながら先進国になれないまま、経済的に後退し始めているというのが、私の見立てだ。

 今国会で成立しそうな法案の中に、「健康増進法改正案」がある。受動喫煙対策を定める法律だ。受動喫煙対策については、このコラムでもすでに何回も取り上げた。他にも重要なテーマがある中で、何故この問題を繰り返し取り上げるのかというと、それは、構造的にこの問題には日が当たりにくくなっていて、国民の生命、健康に直結する問題なのに、十分な議論がないまま、非常に大きな欠陥がある法律が通ってしまいそうだからだ。この法案はすでに衆議院を通過しているのだが、なぜか、テレビなどで大きく取り上げられることはない。したがって、国民の多くも、今何が起きているのかほとんど知らないというのが実情だ。

■先進国なら当然のことができない安倍政権

 受動喫煙が人の健康に深刻な被害を与えていることは、もう議論の余地のないことだ。自分が喫煙していないのに、人のたばこの煙で健康被害を受けるということについては、ほとんどの人が知っている。ただ、多くの場合、知られているのは、「たばこの煙でがんになるリスクが高まる」ということくらいだ。確かに、肺がんのリスクは受動喫煙で1.3倍になるが、この他にも、虚血性心疾患で1.2倍、脳卒中で1.3倍、さらに、乳幼児の突然死のリスクは、何と4.7倍にもなるのだが、いまだに、知らない人も多いようだ。

 さらに、受動喫煙で亡くなる人が毎年1万5千人、医療費の増加が年3000億円と聞けば、普通の感覚なら、直ちに受動喫煙をゼロにしろということになる。先進国なら、なおさらだ。

 しかし、そこには深い利権の闇が横たわり、利権への弱さが顕著な安倍政権には、とても手が付けられないのが実情だ。今国会に安倍政権が提出した法案は、ほとんどザル法と言っても良いだろう。最大の焦点である、飲食店への規制では、中小企業が営業している客席面積100平方メートル以下の店を屋内禁煙の規制対象外としてしまったからだ。全国の飲食店の55%が例外となる。普通、原則と例外と言えば、原則の方が多いに決まっているが、安倍法案では、「原則屋内禁煙」と言いながら、喫煙可の例外の方が多いという「なんちゃって」規制となっているのだ。これでは完全に看板に偽りあり、本当は「原則屋内喫煙可」だと言うべきではないだろうか。

 どうしてこんなことになるのか。そして、どうして、それが大きな問題にならないのか。それを理解するために、ここに利権の構造を簡単な図にしたので見ていただきたい(「【図】受動喫煙防止法がザル法になった理由」参照)。

 濃いグレーが利権の中心プレーヤーだ。葉タバコ農家、JT(日本たばこ産業株式会社)、財務省、たばこ販売店、飲食店・娯楽産業など、そして、自民の族議員と公明党議員が主たるプレーヤーだ。JTは農家が生産した葉タバコを全量買い上げる。財務省はJTの株を3分の1保有する大株主で、JTは最優良天下りポストとして会長職を財務省に差し出す代わりに、国内での製造の独占を認めてもらう。さらにJTからはたばこ税と配当が政府(財務省)に入る。たばこ販売店(コンビニも大きい)や飲食店・娯楽産業(パチンコ、雀荘)は、自民党の有力な支持層である。公明党にとっても中小商店や飲食店は大事な顧客である。これらの利害関係者からは、与党の族議員に対して政治献金と選挙での支援が行われる。

 この他にも薄いグレーで示した利権プレーヤーがいる。まず、自治体には、地域ごとのたばこの売り上げに比例した交付金が財務省から交付されるので、やはり、売り上げを減らすことはしたくないという事情がある。

 さらに、野党議員も、地元の飲食店などに嫌われたくないという意識が強く、規制強化を声高に唱えることはしにくいという事情がある。それを最も端的に表したのが、国民民主党の対応だ。同党は、安倍政権の案では不十分だとして、喫煙可とする対象を客席面積30平方メートル以下に限定する独自の対案を提出した。自民党の100平方メートルに比べればかなり厳しい。「対案路線」を掲げる同党の対応は、称賛されて良いものだった。しかし、衆議院の委員会採決の段階で、国民民主党は、同党案の成立のめどがないとして、いきなり、安倍法案に賛成してしまった。これは、とりあえず、一般世論向けに、厳しい姿勢を示した上で、採決では与党案に賛成して、支持層の中小飲食店の人気取りをしたということだろう。あまりに節操のない対応には驚くばかりであるが、あらためて、この利権構造の強固さを知らしめることとなった。

■マスコミが隠す「たばこ」問題

 この利権構造を語るうえで、忘れてはならないことがある。それは、JTがマスコミに対する大スポンサーだということだ。JTの2016年度決算資料では、広告宣伝費は261億円にも上る(この他に販売促進費1248億円があり、ここにも事実上の広告宣伝費用が入っている可能性がある)。このため、たばこ批判は、テレビ・新聞・雑誌では非常にやりにくい。例えば、JTがスポンサーになっている番組では、たばこ批判の放送をすることができなかったり、トーンを弱めなければならないということが起きる。雑誌でも、JTの広告が掲載される号では、たばこ批判の記事は書かないということもある。筆者もあちこちで、そういう事例を目撃してきた。今回の受動喫煙に関する記事も本来は、連日大きく報道されてもおかしくないのだが、記事の掲載回数も少なく、しかも、政府法案批判のトーンは、働き方改革法案やカジノ法案など他の法案に比べて著しく弱い。

■穴見議員の暴言騒動も東京都条例の報道も極めて抑制的

 自民党の魔の3回生、衆議院議員の穴見陽一氏が、6月15日の厚生労働委員会で、参考人として肺がん患者が意見を述べている際に「いい加減にしろ」とヤジを飛ばす事件があった。この暴言は言語道断のものだが、穴見議員は、ファミレス「ジョイフル」の創業者の長男で、今も代表取締役を務めている。まさに、利権の構造の中心にいるような人物だ。この暴言は、本来であれば、大きな問題になりそうなものだが、テレビでのこの扱いは通常のスキャンダルに比べて非常に小さなものだった。

 また、6月26日には、希望の党と日本維新の会が規制対象の例外を施設面積30平方メートル以下の既存のバーやスナック、居酒屋などに限るなどとする対案を参議院に提出した時も、新聞の報道は、極めて小さく、テレビではほとんど放送されなかった。

 さらに、東京都は、6月27日に安倍法案をはるかに上回る厳しい規制を導入する条例を可決・成立させたが、その報道も非常に抑制的だった。東京都の条例は、規制対象の例外条件から面積要件を外したのが特色だ。このため、どんなに小さい店でも例外にはならない。唯一例外を認めるのは、従業員が一人もいない店ということになっている。これは、人に着目した基準であり、従業員という弱い立場にある者を守るという考え方だから、「人にやさしい」「先進国」に一歩近づく考え方である。実は、維新・希望の法案でも、従業員がいる場合は、その従業員全員の同意を例外の要件としている。これも企業目線ではなく人に着目した姿勢として評価できる。

 これに対して、安倍法案は、あくまでも、中小企業は大変だからという「企業の論理」で例外を決めているので、「人より企業」という古い途上国体質が残された法案だと言える。

■野党は「完全禁煙」を提案して国民の信頼を取り戻せ

 ところで、日本では禁煙規制の例外をどこまで認めるかという点に議論が集中しているが、これは、世界標準から見ると周回遅れの議論であることもあまり報道されていない。政府法案も東京都条例も維新・希望案もいずれも、かりに規制対象になったとしても、屋内に喫煙室を設ければ、そこでの喫煙が可能だ。屋内での完全禁煙は、最初から実行不可能という前提で議論の対象から外されているのだ。

 WHOの調査では、屋内に喫煙室を設けても受動喫煙を完全に防止することはできないと科学的データによって立証されている。屋内禁煙と言えば、喫煙室も認めないというのが世界の常識になっているのだ。したがって、屋内に喫煙室を設ければ「屋内禁煙」と言えるという日本の考え方は、世界標準から見れば周回遅れなのだ。

 安倍法案は、その周回遅れの規制さえ骨抜きにして、過半の飲食店を喫煙し放題にする。しかも、この法案でも、規制対象となる飲食店すべてが禁煙対策を実施できるかというと、はなはだ疑問だ。19年のラグビーワールドカップまで1年、20年のオリパラまででも2年しかない。多くの規制対象の飲食店が未対応のまま、世界のスポーツの祭典に臨むことになり、開催国である日本は、このままでは、世界に恥をさらすことになるだろう。

 こうした状況から、とにかく安倍法案でも仕方ないので、早く決めて対策を講じる方が大事だという声もある。これ以上議論して規制を強化してもどうせ実施できないから意味がないというのだ。

 しかし、非常に簡単な、「起死回生の一打」が残されている。

 それは、「例外なく屋内全面禁煙」とすることだ。全面禁煙なら、現在喫煙全面可の店でも、やるべきことはただ一つ。店内の灰皿を撤去すればよい。あとは、禁煙の標識を貼って、客に周知すればそれで対策完了だ。喫煙室の設置など必要ないから、対策費用もいらない。店の大きさや売り上げや資本金などの格差も関係なく平等に実施できる。明日からでもOK。いいことずくめだ。

 しかし、この案には根強い反対がある。喫煙者が飲食店に来なくなるというのだ。しかし、よく考えてほしい。今や日本の喫煙者の割合は20%を切っている。共働き世帯も増えて、家族連れで外食する機会も増加傾向だ。最近は、居酒屋で家族連れの客も増えているそうだ。確かに、郊外の居酒屋ではそうした例をよく見かける。子供がいる時は、やはり、禁煙の店を選ぶという人も多いだろう。現に、産業医科大学の調査では、全席禁煙としたファミリーレストランの収入が増加したという報道もある。禁煙にしたことで家族連れの客が増えたということだ。常識的な結果ではないだろうか。

 よく考えてみれば、すべての店が禁煙になったとき、喫煙者が外での飲食を大きく減らして家に閉じこもると考えるのは現実的な仮定ではない。完全禁煙で客が増える効果と多少減るかもしれない効果とはほぼ相殺されるだろうと考える方が、はるかに「常識的」なのではないだろうか。

 飲食店への経済的影響については、WHOの国際がん研究機関がすでに分析をしている。その調査の大多数では、売り上げは減っていなかった。日本の研究は遅れているが、前述した産業医科大の調査の他にも、愛知県の2011年の調査では、自主的に全面禁煙にした9店舗中8店舗で売り上げは減少しなかったという結果が出ている。もちろん、すべての店が禁煙になれば、なおさら売り上げ減のリスクはないということだ。

 今からでも遅くはない。「例外なき屋内完全禁煙」の受動喫煙防止法案を野党が共同で提出し、街宣活動などでPRすれば、国民の大多数は支持するだろう。利権と癒着する自公安倍法案と子供、妊婦、がん患者、心臓の持病を抱える人、従業員など、社会の弱い立場にある人々や80%の非喫煙者に寄り添う野党案のどちらに賛成するのか。それを国民に問いかければ、終盤国会での与野党対決法案となることは確実だ。国民のための「対案を出す野党」「政策を議論する国会」をアピールする機会にもなり、今、一番大事な、政治への信頼を取り戻すことにもつながるはずだ。また、この法案なら、維新や希望もむしろ積極的に共闘に参加できるだろう。最近、軍事優先主義か平和主義かという対立軸の陰にかすんでしまった感のあるもう一つの対立軸、「既得権に取り込まれた守旧派」自公対「既得権と闘う改革派」野党という図式が復活し、野党がもう一度安倍政権と闘う新たな「土俵」を作る道になると思うのだが、いかがだろうか。(文/古賀茂明)

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