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たばこ値上げしても吸う人は吸う?NY喫煙対策 自宅の「ふざけんなブルームバーグの庭」でたばこ栽培する人も

たばこ値上げしても吸う人は吸う?NY喫煙対策 自宅の「ふざけんなブルームバーグの庭」でたばこ栽培する人も

https://jp.wsj.com/articles/SB10360345411573113586804584367830456831784

By Anne Kadet 2018 年 7 月 25 日 11:50 JST

 ニューヨーク市は先月、以前からの禁煙促進策の一環として、たばこ1箱の最低価格を10.5ドルから13ドル(約1450円)に引き上げた。これは国内で最も高い価格だ。しかしこの措置も、筆者の隣人のジョン・メリア氏が楽しげにたばこをふかすのをやめさせるには至っていない。「誇りある喫煙者」を自認する彼は、おいしい食事の後のたばこほどいいものはないと語る。

 労務コンサルタントで66歳になる彼にとって「ザ・マールボロ・マン(マールボロのCMに登場する男性)は非常に鼓舞する存在だ」という。彼によれば、今回の値上げは痛くもかゆくもないという。彼がよくたばこを買うのは、ジョージア州にある妹の別荘に行く時だ。そこでは1箱の値段は約6ドルである。そのたばこが尽きると、ブルックリンのダウンタウンにある雑貨店の一つを訪れる。そこでは、非課税のたばこを1箱7ドルで買える。

 彼は、こうした闇市場を利用することで、明らかにスリルを味わっている。彼は「誰もが海賊気質を持っている」と指摘。「私にとっては、こうした行為がそれだ」と語る。

 ニューヨーク市の健康・精神衛生局によると、市内の成人喫煙者数は約86万7000人に上る。市当局者らは、今後18カ月でこれを16万人減らす考えだ。

 それは簡単なことではない。筆者は先週のある朝、ウォール街の勤め先のビルの前でたばこをふかしていた喫煙者らと会話を交わした。筆者がインタビューした10人のうち、店で正規の値段でたばこを買っているのは2人だけだった。ある女性は、定期的にペンシルベニア州までたばこを買いに行くという。そこでの値段は1箱約8ドルだ。また、先住民居留地(ニューヨーク州の一部の居留地では1カートン=10箱=がたったの35ドル)や空港の免税店でたばこを買っているという人もいた。

 ニューヨーク市の最低価格から逃れるのは、どれほど容易なことか。筆者はマンハッタンのワールドトレードセンターからパストレイン(ニューヨーク市とニュージャージー州ニューアーク市を結ぶ鉄道)に乗り、2駅先のニュージャージー州ジャージーシティーで降りた。乗車時間は7分。駅の入り口近くにあるドラッグストアのデュアンリードでは、マールボロ1カートンが82ドルで売られていた。

 主に新税の導入によって、現在のニューヨーク市内の通常販売価格は1箱当たり約14ドルと、2002年の7ドルから2倍に上がった。一方、同市健康・精神衛生局によると、市内の成人喫煙率は16年には13%と02年の22%から大幅に低下した。

 一部の喫煙者は、喫煙率のこうした低下が、主に価格以外の要因によると指摘する。健康リスクへの意識向上や、バー、広場、公園やビーチでの喫煙を禁じる市条例の導入などだ。

 例えば、警察官を引退し、喫煙者の権利擁護のための「NYC(ニューヨーク市)市民喫煙者ハラスメント反対運動」の代表を務めているオードリー・シルク氏は、新たに設定された13ドルという最低価格が喫煙率に大きな影響を及ぼすかは、疑問だと話す。誰もが簡単にこの法律をかいくぐることができるためだ。

 彼女はブルックリンのマリンパークにある自宅の裏庭で、タバコを自家栽培している。彼女はそれをバーや公園での喫煙を禁じた元市長にちなんで、「ふざけんなブルームバーグの庭」と呼んでいる。

 しかし、ニューヨーク市は、さまざまな施策が喫煙率に与える影響を統計的手法で調べた結果、02年以降の喫煙率低下分のうち、たばこ税の引き上げに起因するのは36%と判断した。また24%は受動喫煙防止法、22%は禁煙サービスの利用によるものだった。

 市健康・精神衛生局のソニア・エンジェル局長代理は、価格を10%引き上げるごとに成人のたばこ消費は通常3~5%低下すると述べる。

 エンジェル博士によると、闇市場のたばこは、市内消費のほぼ半分を占めるという。この数字は、シンクタンクのタックス・ファンデーション(税制財団)がニューヨーク州の委託で算出した数字の57%に近い。同ファンデーションによれば、これが全米で最も高い闇たばこの消費比率だという。

 しかし同博士によれば、13ドルの最低価格によってそれでも喫煙が抑制される。なぜなら、それによって、同市の闇市場ディーラーは闇たばこの販売価格をもっとつり上げられるからだという。「法定価格は一段と高くなるから、彼らはさらに値段を引き上げられる」

 筆者は、真実はこの中間にあるのではないかと思う。出費がかさむという理由だけで喫煙をやめた人に出会ったことがない—―彼らは結局のところ、たばこ中毒だ—―だが他方で、出費の増加は確実にたばこをやめる一因になり得る。

 つい最近たばこをやめた筆者の友人は、映画制作者のヘザー・クインハン氏(43)だ。彼女は1日10本未満しかたばこを吸わないものの、長年にわたり出費に悩んでいた。「私はフリーランスだったし、週30ドルないし40ドルは大金だ」という。

 しかし、彼女がたばこを最終的にやめたのは今年4月になってからだった。妻をがんで亡くした男友達とデートし始めるようになってからだ。「彼の面前でたばこを吸うと、自分を嫌な人間のように感じる」と話す。

 筆者自身はといえば、16年の喫煙歴があり、同じような禁煙までのストーリーを持っている。筆者は喫煙のコストと不便さを憎んでいたものの、母が末期肺がんと診断された2015年まで禁煙しなかった。母は24歳の時に禁煙していた。

 禁煙に至るこれらの諸事情は、政府がアレンジできない一種の介入だ。

 冒頭で紹介した隣人のメリア氏によれば、あらゆる規制措置を受けて、たばこ消費を最近5年間で1日当たり約1箱から半分にまで減らしたという。

 だが禁煙したのか? とんでもない。彼は「本数は確かに減った」という。しかし「目の黒いうちは、絶対にたばこを渡さないぞ」(銃規制に反対する全米ライフル協会のスローガンのもじり)と、うそぶいている。

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