加熱式たばこの受動曝露を考える上で知っておきたいサイエンス
加熱式たばこの受動曝露を考える上で知っておきたいサイエンス
2018/07/06
愛煙家も非喫煙者にも知ってほしい最新臨床試験結果
「文春オンライン」編集部
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、3月9日には受動喫煙対策が閣議決定されるなど、受動喫煙による健康リスクに関心が高まっています。一方、火を使わず“煙”が出ない「加熱式たばこ」の需要は高まりを見せ、加熱式たばこのシェアは日本のたばこ市場全体の約2割を占めているとされています。現在日本で発売されている加熱式たばこのデバイスは主に、フィリップ モリス インターナショナル(PMI)社製品、日本たばこ産業(JT)社製品、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)社製品の3種類。しかし、既にJTが2019年には新たに2種類を発売すると発表しており、たばこ市場に占める加熱式たばこのシェアは益々高まると考えられます。
そうした中、現在加熱式たばこで7割以上のシェアを持つとされているPMIの日本法人フィリップ モリス ジャパン(PMJ)は、実生活での加熱式たばこの受動喫煙の影響をみるための臨床試験を行ないました。今回は、この臨床試験の結果や「紙巻たばこに替わる、煙の出ない製品と共に歩んでいく」という同社が掲げるビジョンである「煙のない社会」を目指す取り組みなどについて、副社長の井上哲さんとコーポレート・アフェアーズの村上恭子さん(医師・医学博士)に伺いました。(以下、敬称略)
――そもそも、加熱式たばことはどのようなものでしょうか?
井上 加熱式たばこは、たばこ葉を燃やすのではなく、加熱して発生するニコチンを含む蒸気(エアロゾル)を楽しむ製品です。通常の紙巻たばこのたばこ葉は600度を超える温度で燃焼し、有害な成分を含む煙が発生しますが、現在日本で展開しているPMI社製品の加熱式たばこは火を使わず300度程度の低い温度でたばこ葉を加熱し、燃焼が伴わないため煙も灰も発生しません。これにより、燃焼により発生する有害性成分の量を大幅に低減しながらたばこのフレーバーを楽しむことができるのです。
――加熱式たばこを開発した経緯は?
井上 PMIでは、「ハーム・リダクション(社会全体への悪影響の低減)」を開発理念に掲げ、リスク低減の可能性のある製品(RRP: Reduced-Risk Products)※の提供のための研究を10年以上前から続けており、その中で開発された製品の一つが加熱式たばこです。
加熱式たばこについてはこれまでに様々な研究を行なってきました。従来の紙巻たばこの煙には依存性や血管収縮等の生理作用があるニコチンや、発がん物質として知られるたばこ特異的ニトロソアミン、一酸化炭素など、多くの有害性成分が含まれています。しかし、例えば当社の加熱式たばこのたばこベーパー(吸い込む蒸気)に含まれる有害性成分の量を調べた結果、紙巻たばこに比べてそれらが大幅に低減したことが確認されています。WHO(世界保健機関)やFDA(アメリカ食品医薬品局)、カナダ保健省などがたばこの煙に含まれる有害性成分として挙げているものを含む54種類に加え、粒子状物質を含む計58種類を調べた結果です。これは成人喫煙者ご本人にとって大きな情報ではないでしょうか。
――今回発表されたのは、フィリップ モリスの加熱式たばこの受動曝露リスクに関する研究の成果ですね。
村上 はい。紙巻たばこの受動喫煙対策に関する関心の高まりや、日本人の他者への配慮を重んじる文化を考えると、喫煙者ばかりでなく、周囲の人への影響についても研究する意義があると考えました。今回の臨床試験は、当社の加熱式たばこの屋内使用による影響についての科学的根拠となるデータの一つになります。実は私も非喫煙者で、紙巻たばこの煙が苦手です。だからこそ、科学的なデータに基づいて、火を使わず、煙が出ない加熱式たばこの受動曝露の影響についても議論すべきだと思っており、こうした研究の意義を強く感じています。
結論からいうと、実生活での当社の加熱式たばこから出るエアロゾル(蒸気)の受動曝露(注)について調べた結果、加熱式たばこの使用者がいるレストランの中でも、今ある検出方法で測定できる範囲で受動曝露により非喫煙者のニコチンやたばこ特異的ニトロソアミンなどの曝露が増えることはありませんでした。また、室内のPM2.5などの粒子状物質の状況にも変化がありませんでした。
(注) PMIの加熱式たばこ製品からは煙が出ないので、受動喫煙ではなく、「受動曝露」としています。
――具体的な研究内容はどのようなものでしょうか。
村上 都内のレストランで、397人の参加者に2時間の間ビュッフェスタイルでアルコールを含む飲食をしながら歓談してもらうイベントを6回開催しました。その際、2回のイベントでは全てのたばこ製品やニコチン製品の使用を禁止し(非曝露イベント)、4回のイベントでは参加者の約2割にあたる加熱式たばこ使用者にイベント中も加熱式たばこを使用してもらい(曝露イベント)、そのときの参加者の尿中の化学物質の量により、非喫煙者の体への影響を評価しました。また、曝露イベントでは屋内環境を測定スタート時から曝露時と同様の環境にするため、イベントが始まる1時間前に、加熱式たばこ使用者には室内で加熱式たばこを使用してもらいました。
――結果はいかがでしたか?
村上 まず、今回の臨床試験を実施したレストランで、空気中のニコチン、2種類のたばこ特異的ニトロソアミン、粒子状物質(PM1、PM2.5)などの量を測定しました。その結果、当社加熱式たばこを使用した曝露イベント4回のうちニコチンの空気中平均濃度は最も高い値で1.5μg/㎥でした。なお、米国労働安全衛生局によればニコチンの許容限度は500μg/㎥です。また、たばこ特異的ニトロソアミンは曝露・非曝露イベントいずれも検出されず、粒子状物質(PM1、PM2.5)は曝露イベントと非曝露イベントでの差はありませんでした。
次に、加熱式たばこと周囲の人との関係について、イベント前後で採取した尿サンプルを用いて、ニコチンとたばこ特異的ニトロソアミンの曝露状況を確認しました(注1)。まず、ニコチンについては、曝露イベントでの加熱式たばこ使用者から発生するエアロゾルに曝されたことによる、周囲の非喫煙者のニコチン曝露量の増加はないと考えられました(注2)。また、たばこ特異的ニトロソアミンの曝露の指標となる物質は、曝露イベント・非曝露イベントともに非喫煙者からは検出されませんでした。
(注1) 尿中のニコチン等価物(ニコチン曝露のバイオマーカー)と2種類のたばこ特異的ニトロソアミン曝露のバイオマーカーを測定しています。
(注2) 曝露イベントでの非喫煙者の尿中クレアチニン1g当たりのニコチン等価物量は、イベント開始前(曝露前)は平均0.0004ngであり、イベント終了後(曝露後)は平均0.0006ngでした。一方、非曝露イベントではイベント開始前は平均0.0004ngでしたが、イベント終了後は平均0.0007ngでした。
このほか、揮発性有機物などの有害性成分も測定しており、全てのデータの分析が完了した時点で最終報告書にし、論文とするとともに学会発表も行う予定です。
――フィリップ モリスの加熱式たばこは、米国ではまだ販売されていませんね。
井上 私たちの親会社であるフィリップ モリス インターナショナルは米国食品医薬品局(FDA)にリスク低減たばこ製品(MRTP)の申請を行い、その後様々な対話を重ねながら販売に向けてのデータの提供を行なっているところです。FDAの審査状況については一部誤解されているようですが、現在審議中である、というのが正しい情報です。FDAのウェブサイトにも議論の詳細や審査状況は公開されています。
――今後の研究の予定は?
村上 今回紹介した臨床試験の範囲では、ニコチンやたばこ特異的ニトロソアミンについては受動曝露による影響はないだろうと考えられます。他の化学物質についてはまだ分析途中であり、さらに喫煙関連疾患に対する影響を見るには、さらに数年~数十年単位の疫学調査が必要になります。ですから、フィリップ モリスでは、今後も科学的検証を続けてまいります。
ニコチンには依存性がありますが、世間一般で信じられているのとは異なり、ニコチンは喫煙関連疾患の主な原因ではありません。喫煙関連疾患の主な原因は、たばこの煙に含まれる毒性物質と発がん性物質です。燃焼を伴う紙巻たばこの喫煙が様々な重大疾病の原因となっていること、健康への懸念がある場合は禁煙することがベストであることは間違いのないことです。一方で、それが分かっていてそれでも喫煙を続ける方がいるのも事実です。成人喫煙者向けの製品である加熱式たばこはリスクフリーではありませんが、これらの方々がリスクを適切に理解した上で納得した選択ができることが大切であり、そのために、リスクを低減する可能性のある製品の開発や、その科学的根拠に関する情報の提供をしていくことが、「煙のない社会」の実現に力を注ぐ当社のミッションだと思っています。
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