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喫煙は悪か、加熱式たばこの急増が社会に変化促す

喫煙は悪か、加熱式たばこの急増が社会に変化促す

http://news.livedoor.com/article/detail/15202479/

2018年8月24日 6時15分

「IQOS(アイコス)」「Ploom TECH(プルーム・テック)」「glo(グロー)」・・・。「加熱式たばこ」と呼ばれる新しいタイプのたばこ製品が急激に市場を拡大している。

 「加熱式たばこは煙が出ないため副流煙による受動喫煙のリスクがなく、紙巻きたばこにくらべて有害物質が大幅に低減している」との触れ込みで、喫煙者が一気に紙巻きたばこから乗り換えているのだ。

 急増する加熱式たばこユーザーを背景に、東京都は7月、紙巻きたばこと加熱式たばこを区分し、加熱式たばこの規制を一部緩和する条例を定めた。政府も対応に動き出している。

 加熱式たばこを巡る議論は日本だけでなく世界にも広がっており、各国でその扱いや規制のあり方が話し合われている。

 そこで、加熱式たばこブームでにわかに変わり始めた喫煙を巡る環境についてリポートする。第1回目の今回は加熱式たばこの登場から現在までの状況を整理する。

 次回以降は、たばこ会社が次々に繰り出す実証データの信憑性を確かめるため訪ねた、スイスにあるフィリップモリス・インターナショナル(PMI)の研究開発施設の取材模様や、世界各国のたばこを巡る議論を知るため、今年6月にポーランドのワルシャワで開催された「世界ニコチンフォーラム」で聞いた各国の専門家の声と、規制の状況について紹介していく。

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喫煙に厳しい東京都が加熱式たばこの規制を緩和

 日本で加熱式たばこのブームが起こるきっかけとなったのは、PMIが開発した「アイコス」の登場だ。2014年に一部販売がスタートし、2016年に全国販売されてから急激に販売数を伸ばし、今年の6月にはユーザー数が500万人を突破したことを発表している。

 他のたばこ会社もこれに追随している。アイコスに続いて登場したブリティッシュ・アメリカン・タバコの「グロー」は、2017年10月に全国での販売を開始し、今年の1月30日に、日本市場での累計出荷台数が200万台を超えたと発表。

 最後発の日本たばこ産業(JT)の「プルーム・テック」は、今夏に全国販売を始めたばかりだが、7月時点で累計販売が400万台を突破。一気にグローを抜き、業界2位に浮上している。

 各社が激しいシェア争いを繰り広げながら、市場全体を急拡大している。

 そんな中、日本で興味深い動きが起こった。東京都が紙巻きたばこと加熱式たばこを区別し、加熱式たばこの規制を一部緩和した条例(「受動喫煙防止条例」)を定めたのだ。

 受動喫煙を規制する改正健康増進法が7月に国会で可決され、事務所や飲食店など多くの人が集まる施設は原則として屋内禁煙とし、違反者には罰則を適用することとなった。

 (飲食店のうち個人や中小企業が経営する客席面積が100平方メートル以下の既存店には例外を認め「喫煙可能」などと標識で示せば喫煙を認める)

 2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控えた東京都では、当初、国の基準よりさらに規制を強化した条例を定める方向で動いていたが、直前になって加熱式たばこに罰則を科さない内容に見直した。

 さらに都は、法律が喫煙ルームでの飲食は認めないとしているにもかかわらず、加熱式たばこ専用の喫煙ルームでは飲食を認めるという、特別措置も盛り込んだ。

 都が途中で方針を変えた背景には、「加熱式たばこ」の大ヒットによる世の中の関心の高まりと、国と都の関係にまつわる政治的思惑、そしてたばこ産業界からの働きかけなどが複雑に絡み合っているようだ。

 ただ、条例案を見直すことになる前提として、たばこ会社各社が提示した、科学的な実証データがものを言ったことは間違いない。その先駆的な取り組みを見せてきたのが、アイコスを開発したPMIである。

「アイコスの使用は周囲の人に悪影響を及ぼさない」

 PMIはこれまで独自に、様々な臨床実験を行い、紙巻きたばこと加熱式たばことの違いを科学的に実証している。

 まず、アイコスの噴霧は、紙巻きたばこと比較して有害物質の90~95%が削減されているとの実験データを発表している。

 (世界保健機関=WHOが有害物質として指定する9種類の化学物質の約95%、アメリカ食品医薬品局=FDAが指定する18種類の化学物質の90%、カナダ保健省が指定する44種類の化学物質の約95%、発がん性物質と言われる化学物質15種類の95%、そしてPMI が独自に選定した有害物質58種類の90%を低減)

 さらに人を使った臨床試験も、世界で最も厳しい国際基準に合わせて行ってきたという。

 まず喫煙者が5日間、アイコスだけを使用した場合、体内の一酸化炭素、ベンゼン、アクロレイン、1,3-ブタジエンといった有害物質の量が、禁煙した人とほぼ同じ推移で低減したという実験結果を発表した。

 90日間の臨床試験においても、ほぼ同様の結果が確認されたことを公表している。

 そして今年の4月にはアイコスの受動曝露の実験結果も発表した。

 PMIは2017年11月30日から12月13日までの期間にわたり、計397人の被験者を対象に、東京のレストランでアイコスのエアロゾルの受動曝露試験を実施。

 実験前後の被験者の尿サンプルを収集して分析したところ、 アイコスが使用されている実生活環境下のレストランにおいて、エアロゾルの受動曝露による非喫煙者のニコチン、発がん性物質として知られるたばこ特異的ニトロソアミンへの曝露量増加は認められなかった。

 つまりアイコス使用中に周りの人への悪影響がないことが科学的に結論づけられたと発表したのだ。

加熱式たばこを認めた財務省、検証に乗り出した厚労省

 これに加えてPMIは、人の活動が屋内空気環境に与える影響に関しても調査している。

 結論からいうと、その調査で、レストランやバーにおいては加熱式たばこのエアロゾルによる空気汚染よりも、調理や人の飲酒によって発生する有害物質のレベルのほうが高いことが明らかになったという。

 調理や化粧品の使用など日常生活における典型的な活動は、屋内空気環境に著しく大きな影響を与える。

 このほか、ろうそく、お香、木材ガスストーブといった有機物の燃焼を伴うあらゆる消費財や設備は、(ニコチンとたばこ特異的ニトロソアミンを除いた)紙巻きたばこの燃焼時に放出されるレベルと同等の空気汚染物質を発生させるとの結果も伝えている。

 さらに、人の存在が屋内空気環境に与える影響についても調査した結果、人の長時間の存在そのものが有害物質の増加をもたらしていることがわかったという。

 特に、人が飲酒した場合のアセトアルデヒドが、高い量で検出されたと報告している。

 なるほど、これだけ列記されると説得力がある。理屈だけで考えるなら、もはや公共の場所でも加熱式たばこの使用を認めない理由がない、というところまで調査をしてきているのである。

 さらにJTインターナショナルでも、プルーム・テックが有害物質を削減する実証データとともに、屋内環境に影響を与えないという結果を提示し、紙巻きたばことの違いを強調している。

 たばこ会社からこれだけの実証データを提示されては、日本の政府や地方自治体も対応せざるを得ないといった状況である。

 たばこで税収を稼ぐ財務省ではいち早く「加熱式たばこ」という新しいカテゴリーを設け、紙巻きたばこと加熱式たばこを別の扱いにする動きを見せた。

 厚生労働省でも加熱式たばこの検証段階に入っている。

 第三者機関に委託して、日本にある加熱式たばこの有害性を検証する試験を実施したところ、メーカー側が提示したデータとほぼ同じだったことを公表している。

 政府や地方自治体の間にも、紙巻きたばこと加熱式たばこを分けて考えるべきではないかとの機運が高まり、東京都の条例案見直しに繋がっていったという流れのようだ。

 このまま進めば、現在、禁煙になっているエリアも、加熱式たばこの使用は認めざるを得なくなっていく気配が漂ってきた。

ニコチンをめぐる科学と感情の対立

 アイコスが有害物質を削減している科学的な根拠とデバイスの技術や構造については、以前、フィリップモリスの日本の子会社、フィリップモリス・ジャパン(PMJ)を取材した。

 当時社長だったポール・ライリー氏と広報担当者にヒアリングした内容をまとめた記事があるので、そちらを読んでいただきたい。(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47936)

 PMIによれば、喫煙で有毒物質が発生するほとんどの原因は「煙」にある。その煙は燃焼によって発生するものだ。つまり燃焼しなければ有害物質は大幅に削減される、という考え方で、加熱式たばこは開発されている。

 アイコスのコア技術とは、たばこ葉を燃やさず加熱するための温度制御技術なのである。

 社会が「加熱式たばこ」を容認する動きは、加熱式たばこユーザーにとっては朗報に違いない。しかし非喫煙者にはどのように映っているのだろうか。

 今は加熱式たばこユーザーが喫煙者と同じ扱いを受けているため、あまり公共の場で見かけることもなく、非喫煙者にとっては身近な話題ではないかもしれない。

 しかし今後、禁煙のレストランやカフェで加熱式たばこを堂々と使用している人を見かけるようになったら、胸中、おだやかではいられないのではないか。

 非喫煙者はおおむね以下の3つのことを感じるはずだ。

(1)周囲の人に害が及ばないと言うが、そのデータは信用に値するのかという疑念。

(2)たとえ身体に害を及ぼさないとしても、街中や人が集まる場所で、再び喫煙に類する人の集団を目にすることに対する嫌悪感や警戒感。

(3)そもそも、なぜそこまでしてニコチンをとりたい人がいるのか。そのうえ、たばこ会社が巨額の投資で新製品を開発して、ニコチンを摂取したい人を支援することはなおさら不明。

 (1)は、たしかにデータを発表しているのが加熱式たばこを販売している会社である以上、その信憑性に疑問が残る。

 (2)については、過去にマナーの悪い喫煙者の姿を見てきた非喫煙者の根深い嫌悪感がある。人がたばこを吸う時のしぐさも見たくないという人は少なくない。

 そして(3)は、たばこを巡る根源的な問題である。

 これまで紙巻きたばこは「やめるか、死ぬか」の選択だと言われてきた。政府も非喫煙者も、喫煙が自分だけでなく他人にも深刻な病気を引き起こす原因となるため、疑うことなく「悪」と断定し、規制や増税を強化すればよかった。

 だが、加熱式たばこが周囲に害を及ばさないのであれば、その使用を認めざるを得なくなる。加熱式たばこの登場によって、「禁煙礼賛」の流れは大きく変わってきている。

これから問われるのは非喫煙者の態度

 PMIによれば、日本におけるアイコスユーザー500万人超のうち、完全に紙巻きたばこからアイコスに切り替えた人が300万人を超え、世界では500万人以上が完全に切り替えたという。

 JTの推計によれば、2020年には加熱式たばこが、たばこ市場全体の30%を超える可能性もあるそうだ。

 紙巻きたばこを主力商品とするたばこ会社自身も、紙巻きたばこをなくしていく方向に舵を切っている。

 すでに喫煙者の間では、加熱式たばこに対する理解は進んでいる。これから問われるのは、むしろ非喫煙者側の態度である。

 PMJのコーポレート&サイエンティフィック・アフェアーズ・ディレクター RRP ディレクターの飯田朋子氏も、「これからは非喫煙者の方々に、紙巻きたばこと加熱式たばこの差をご理解いただく努力をしていく段階を迎えています」と語る。

 肩書にある「RRP」とは、“リスクを削減する可能性のある製品”を意味する。

 なぜ非喫煙者の理解が必要なのか。その理由は、フィリップモリスがミッションとして掲げる「煙のない社会」を実現するためだと飯田氏は言う。

 「私たちがアイコスをはじめ、リスクを削減する製品の研究と開発を進めているのは、体に有害な紙巻きたばこを世界からなくし、その代替品としてより安全でより健康リスクのないニコチン製品を提供することで、公衆衛生に貢献したいとの考え方からです」(飯田氏)

 社会から喫煙をなくすために、その代替品としてアイコスが開発された。その根本には「ハームリダクション」という考え方があるという。

 ハームリダクションについては次回で詳しく説明するが、害を及ぼす行為そのものを阻止するのではなく、そうした行為によって引き起こされる害の低減を目的とした考え方のことで、世界の公衆衛生政策を支える基本と言われている。

 紙巻きたばこの喫煙者が、加熱式たばこに切り替えていくには、自由に使用できる環境を増やしていくことが不可欠だ。

 加熱式たばこも紙巻きたばこと同じ規制を受け、使用が制限されるなら、紙巻きたばこを手放す動機にたどり着かないからである。

 つまり、加熱式たばこを認めることが、喫煙者を減らすうえで必要な措置となる。

 だが、どうやら現状では非喫煙者の理解を得るのは難しそうだ。理由は2つある。

 1つは、たばこの話題など非喫煙者にはとっては何ら興味がないからだ。関心のない人に科学的な知識を含めた理解を求めるのは至難の技である。

 しかもその根拠となる実証データの多くは、たばこ会社からもたらされているものばかりで、果たして信憑性があるのかという疑問がある。

 もう1つの重大な問題は、ニコチンそのものが有毒だと思っている人が多いということだ。

 もしニコチンが人体に重大な病気をもたらす有毒な物質だとしたら、煙の有無に関係なく、人類はいずれニコチンを取ることを諦めなければならないだろう。

 膨大な時間とコストをかけて実験を繰り返して実証データを作り上げてきたたばこ会社の努力も、何の意味もなかったことになる。

 加熱式たばこの将来を考えるうえで、たばこ会社が提示するデータの信憑性とニコチンが有毒物質なのかどうかを明らかにすることは不可欠だ。

 そこでアイコスの研究開発が行われている現場を直接、見せてもらうことにした。次回はPMIが誇るスイスの研究開発施設を取材した模様を中心に紹介することにする。

筆者:大島 七々三

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