【高論卓説】加熱式たばこ「特許紛争」 後発劣勢、訴訟回避への戦略不可欠
【高論卓説】加熱式たばこ「特許紛争」 後発劣勢、訴訟回避への戦略不可欠
https://www.sankeibiz.jp/business/news/180907/bsg1809070500002-n1.htm
2018.9.7 06:00
皆さんは、たばこを吸われるだろうか。日本たばこ産業(JT)の全国喫煙者率調査によれば、2018年の喫煙率は、男性が27.8%で女性が8.7%だった。ピーク時の1966年では男性83.7%、女性18.0%だから、かなりの低下である。しかし、人々がたばこからどんどん離れ、喫煙者の肩身がどんどん狭くなっていく状況に、たばこ業界も手をこまねいているわけではない。
そう、加熱式たばこ(iQOS=アイコス、glo=グロー、Ploom TECH=プルーム・テック)の誕生である。まさに、たばこ業界のイノベーションである。
先日、IQOSを製造・販売する米フィリップモリス(PM)のスイス法人が、電気加熱式喫煙システムの特許権に基づき、gloを製造・販売する英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)の日本法人を提訴したと報道された。訴訟記録によれば、PMは、BATに対し、gloおよびglo専用たばこの販売差し止めと1億円の損害賠償を請求している。なお、1億円の請求は一部請求のようである。
筆者の整理では、加熱式たばこにも実際にたばこのスティックを差し込むタイプと、そうでないタイプの2つのタイプに大別されるように思える。スティックタイプの代表例がiQOSおよびgloであり、Ploom TECHは非スティックタイプである。スティックタイプのiQOSおよびgloの販売開始を見る限り、スティックタイプのマーケットでは、iQOSのPMが先行しており、gloのBATは後追いであると考えられる。
特許的な観点からみても、PMが先行している可能性が高い。すなわち、本件特許と同じ国際特許分類が付与されている特許権の件数を集計してみると、PMが80件、JTが49件、BATが19件、BAT関連会社のニコベンチャーズが13件であった(必ずしも加熱式たばこの特許とは限らない)。
精査したわけではないが、ニコベンチャーズの特許は非スティックタイプのものが多いように見受けられる。今回、先発していると思われるPMから後発のBATに対し特許権侵害訴訟が提起された形になるわけだが、特許紛争的には典型的なパターンといってよい。
BATのような後発メーカーの特許戦略について、どのように考えればよいか。非常に難しい問題である。先発メーカーの特許を踏まないように製品開発を行うこと。できるだけ広く、顕現性があり、かつ無効審判にも耐え得る先発メーカーに対してカウンターとなる特許を取得することの2つが大原則であるが、それだけでは乗り切れない場合もある。
そのような場合には、他社から特許を買ってくるか、あるいはその会社ごと買収するかということを検討することになるが、それも特許を保有している他社が存在しなければ、そもそもできるものではない。ただし、市場は日本だけとは限らないので、世界に目を向けてみれば、意外と良い特許を保有している他社が存在していることもある。
他にも、先発メーカーに対する無効審判という手も考えられる。無効にできなくても権利範囲を狭めることができれば、道が開ける場合がある。もっとも、これも確実なものではない。これら全ての手段を的確に組み合わせて、とにかく紛争を未然に回避する。これこそが後発メーカーの特許戦略であるといえよう。
ちなみに、筆者も肩身の狭い思いをしている喫煙者である。
◇
【プロフィル】溝田宗司
みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。17年に溝田・関法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。42歳。大阪府出身。
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