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紙巻きと加熱式タバコ「似て非なる」受動喫煙への影響

紙巻きと加熱式タバコ「似て非なる」受動喫煙への影響

https://ironna.jp/article/10954

『秋山幸雄』 2018/10/19

秋山幸雄(元産業医大准教授)  2018年7月18日、受動喫煙の対策強化を目的とする改正健康増進法が、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。マスメディアは、この改正法を受動喫煙防止法と称して報道した。厚生労働省のホームページの「受動喫煙防止対策」のページで、この法律の概要を知ることができる。  その基本的考え方は、「望まない」受動喫煙をなくす、受動喫煙による健康影響が大きい子供、患者などに特に配慮、施設の類型・場所ごとに対策を実施、という3点である。そして、改正法では急速に普及している「加熱式タバコ」も規制対象とした。  加熱式タバコとは、タバコ葉やタバコ葉を用いた加工品を燃焼させず、専用機器を用いて電気で加熱することで煙(正確に表現すれば、蒸気)を発生させるものだ。加熱の方法や温度などは製品ごとに異なる。  日本国内では、2016年から順次発売が開始され、現在3社から3種類の加熱式タバコが販売されている。シガレット(紙巻きタバコ)と違い、燃焼を伴わないので、副流煙はほとんど発生しない。では、受動喫煙の観点で見た場合、加熱式タバコと紙巻きタバコは同じなのだろうか。結論を先に書くと、決して同じではない。  厚労省のホームページには、日本で販売されている3種の加熱式タバコから発生する発がん性物質の測定結果が掲載されている。試験研究用の紙巻きタバコからの発生量を100としたときに、加熱式タバコでは、ホルムアルデヒドが10~25、ベンゼンが1以下、ベンゾピレンが2、タバコ特異ニトロソアミンが2~10程度検出されている。  なお、製品によっては検出されないケースもあったようだ。これらの結果を、「加熱式タバコの主流煙に含まれる主要な発がん性物質の含有量は、紙巻きタバコに比べれば少ない」とまとめている。  大手タバコメーカー、フィリップ・モリスのホームページには、加熱式タバコの「エアロゾル」(蒸気)と実験用標準紙巻きタバコの煙に含まれる有害成分の測定結果が公表されている。標準紙巻きタバコからの発生量を100としたときに、加熱式タバコでは、ホルムアルデヒドが9・8、ベンゼンが0・66、ベンゾピレンが7以下、タバコ特異ニトロソアミンが2・5程度検出されている。  その結果から、加熱式タバコのエアロゾルに含まれる有害成分量は、紙巻きタバコの煙と比較して平均して90~95%低減されていたとしている。  日本たばこ産業(JT)によると、世界保健機関(WHO)が優先して低減すべき成分として選択している9つの物質(ベンゾピレン 、ホルムアルデヒド 、アセトアルデヒド 、アクロレインなど)を含む健康懸念物質の量を測定してみた結果、紙巻きタバコの煙に比べて、加熱式タバコのベイパー(タバコ葉由来の成分を含む蒸気)では、平均して99%低減されていたと記載されている。  いずれにしても、加熱式タバコから発生する有害成分は決してゼロではないが、紙巻きタバコの煙中の量よりは、かなり低減されていると言ってよさそうである。  では、環境への影響やにおいはどうだろうか。紙巻きタバコを火がついたまま灰皿に置いておくと、先端から立ち昇る煙(副流煙)が環境中に放出されるので、換気が十分行われていないと室内空気中の有害物質の濃度は上昇する。  これに比べ、加熱式タバコでは、いわゆる副流煙は発生しない。加熱式タバコが環境に影響を及ぼすのは、喫煙者が吐き出したベイパーに残存する成分ということになる。もともと発生量が紙巻きタバコに比べて少ない上に、かなりの部分は喫煙者の体内に摂取されると考えられるので、環境に放出される量は紙巻きタバコよりはるかに少ないと想定される。  においについては、室内空気環境中の臭気強度の調査結果がJTのホームページで公表されているが、紙巻きタバコと比較して、加熱式タバコの場合は、やっと感知できるにおい以下、つまりほとんどにおわないということであった。  繰り返しになるが、加熱式タバコからも健康影響を与える物質が、紙巻きタバコと比べ低い値とはいえ、含まれていることは明らかである。しかし、加熱式タバコによる受動喫煙については、そもそも副流煙の発生が限りなくゼロであること、その健康影響の測定が難しいことなどから、まだあまり有意な知見は得られていないのが現状である。  このように、加熱式タバコと紙巻きタバコは、受動喫煙の観点から見ると、同じではないので、一律に同一の規制を行うのではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づいた別メニューが望ましいと考える。  厚労省のホームページを見ると、加熱式タバコの主流煙に健康影響を与える有害物質が含まれていることは明らかであるが、販売されて間もないこともあり、現時点までに得られた科学的知見では、加熱式タバコの受動喫煙による将来の健康影響を予測することは困難だ。  このため、今後も研究や調査を継続していくことが必要とされており、その規制については、当分の間の措置として、原則屋内禁煙としつつ、喫煙室(飲食なども可)内での喫煙可としており、紙巻きタバコと同一の規制となっていない点は評価できる。今後、加熱式タバコについてさらなる調査・研究結果が蓄積されてくると思うが、規制当局には、エビデンスに基づいた施策を望むものである。

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