加熱式タバコの安全神話「有害物質9割減」のトリック
加熱式タバコの安全神話「有害物質9割減」のトリック
https://ironna.jp/article/10955
2018/10/19
田淵貴大(医師・医学博士)
アイコス(IQOS)やグロー(glo)プルームテック(Ploom TECH)といった加熱式タバコが日本で急速に普及してきている。しかし、加熱式タバコには発がん物質がない、とか、健康被害がない、というような誤った認識も聞こえてきている。
本稿では、科学的根拠に基づき、①加熱式タバコによる健康被害はみなさんが予想しているよりかなり大きいと考えられること、②加熱式タバコの屋内での分煙を認めるべきではないと考えられることについて述べる。
まず①の加熱式タバコによる健康被害は予想よりかなり大きいと考えられることについて説明しよう。
加熱式タバコは、従来の紙巻きタバコのようにタバコ葉に直接火をつけるのではなく、タバコ葉に熱を加えてニコチンなどを含んだエアロゾル(蒸気)を発生させる。アイコスおよびグローは、タバコの葉を含むスティックを240~350℃に加熱し、ニコチンなどを含むエアロゾルを発生させ、吸引させる。
一方、プルームテックは粉末状のタバコ葉を含むカプセルに、食品添加物、医薬品などに幅広く使われているグリセロールやプロピレングリコールなどを含む溶液を加熱して発生させたエアロゾルを通し、ニコチンなどを吸引させる仕組みとなっている。プルームテックはいわゆる電子タバコとよく似た構造だ。加熱式タバコで使用されるスティックおよびカプセルには、いずれもタバコ葉が使用されており、「たばこ事業法」におけるパイプタバコに分類されている。
加熱式タバコから発生するエアロゾルは、単なる水蒸気ではない。加熱式タバコを使用した場合のニコチン摂取量は、従来の紙巻きタバコと比べほぼ同等かやや少ない程度である。
発がん性物質であるニトロソアミンは、紙巻きタバコと比較すれば10分の1程度と少ないものの、この量が化粧品などの商品から検出されれば即座に回収・大問題となるレベルだ。
成分分析の結果をみると、紙巻きタバコと同様にホルムアルデヒド、アセトアルデヒドやアクロレインなど多くの種類の発がん性物質や有害物質が加熱式タバコのエアロゾルから検出されている。
タバコ会社は加熱式タバコの有害物質が10分の1だと積極的に広告宣伝しているが、物質によってはそこまで減っていないものもあり、独立した機関によるさらなる研究が求められる。日本の独立機関から、加熱式タバコではプロピレングリコールやグリセロールが高濃度に発生し、その他の有害物質と合わせて総発生化学物質量としては紙巻きタバコと同等だとする報告もある。
情報が少ない中、加熱式タバコのリスクを考える上で有用な情報がある。これまでに数多く実施されてきたタバコの害に関する研究の成果である。受動喫煙でも、1日1本の喫煙でも病気になるリスクは大きいと分かっている(図:虚血性心疾患リスクの例)。
多くの喫煙者は、1日当たり20本近くのタバコを吸っている。喫煙本数がその10分の1、20分の1であっても、喫煙していると非喫煙者と比べて明らかに病気になるリスクが高い。喫煙本数を10分の1にしても、病気になるリスクは半分程度にしか減らないのである。例えば、脳卒中の場合には20分の1の喫煙本数でもリスクは半分にもならないという研究結果が報告されている。
これは、喫煙本数が多いことよりも喫煙期間が長いことによるリスクがより大きいためでもある。喫煙本数を減らしたとしても、喫煙期間が長ければ病気になるリスクは大きいのである。このことを加熱式タバコに当てはめると、有害物質の一部は紙巻きタバコと比較して少ないが、継続的に使用していれば健康被害は大きいということである。仮に有害物質が10分の1だとしても病気になるリスクはあまり減らない。
しかし、多くの人々が加熱式タバコの害を誤って認識しているのはなぜだろうか? そこにはタバコ会社による広告が大きく影響しているのである。タバコ会社は紙巻きタバコと比較して有害成分が90%低減されると強調した広告を展開し、病気になるリスクが90%減ると誤解させているのである。タバコの害はとても大きく、病気になるリスクが仮に10分の1になったとしても十分に大きなリスクであることも付記しておく。
次に、②の「加熱式タバコの屋内での分煙を認めるべきではないと考えられる」ことについて述べる。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、国では受動喫煙防止のために健康増進法が改正され、東京都でも受動喫煙防止条例が制定された。これまでの多くの研究成果から、受動喫煙を防止するためには、例外なく屋内を全面禁煙にすることが最も有効だと分かっている。屋内全面禁煙が受動喫煙防止対策における世界基準のルールである。
しかし、上記改正法および条例において、屋内全面禁煙は条件を満たす一部の施設に限定され、確実な根拠もなく加熱式タバコは紙巻きタバコとは異なる例外的な扱いとされた。
私は、まずは法律や条例を成立させることができた意義を強調したいが、この加熱式タバコに対する特別扱いはよくないと指摘したい。まだ情報が十分にない物に対してどのように対処するべきか。今の法律では、「リスクが分からないので禁止できない」としてしまっている。ここではやはり予防原則により「リスクがないと分かるまでは禁止する」とするべきだろう。
加熱式タバコの受動喫煙に関する情報は少ない。そこでわれわれは、実態把握の第一歩として2017年に17~71歳の男女を対象として、「加熱式タバコの煙(蒸気やミスト)を吸ったことがあるかどうか」そして「それによる症状(のどの痛みや気分不良など)があったかどうか」について調査した。
すると8240人のうち977人が他人の加熱式タバコの煙を吸ったことがあったと回答した。977人のうち約21%の人がのどの痛みがあったとし、25%の人は気分が悪くなったと回答した。総合して、37%の人にいずれかの症状が認められた。この調査での症状は重篤なものではないが、加熱式タバコによる受動喫煙被害の存在を示唆している。
加熱式タバコの登場は、受動喫煙防止対策にすでに悪影響を与えている。屋内でのタバコを禁止するという政策には、屋内からタバコをなくし、禁煙したい喫煙者に禁煙を促す効果も期待されている。
しかし、加熱式タバコの分煙が認められれば、せっかく屋内禁煙にしたのにタバコがOKなんだというメッセージを伝えることとなってしまう。タバコ会社は既に、全面禁煙となっている飲食店に対しても加熱式タバコを認めさせようとロビー活動を展開している。加熱式タバコを特別扱いすることは、タバコ会社の思惑により誘導されているのである。
加熱式タバコは、従来の紙巻きタバコと同様に有害物質・発がん物質が発生する明らかに有害なタバコ製品である。さらなる研究は必要だが、今ある情報からでも、加熱式タバコによる健康影響は決して小さくないと考えられる。
社会におけるルール・規制において、加熱式タバコを特別扱いするのではなく、紙巻きタバコと同等にタバコとして扱うべきだろう。なんせはじめから、たばこ事業法で加熱式タバコはタバコとして扱われているのだから。屋内全面禁煙で禁止されるタバコには、加熱式タバコも含まれるべきだと考える。
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