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江波杏子さんが患った慢性閉塞性肺疾患は桂歌丸さんも… 別名が「たばこ病」の理由は?

江波杏子さんが患った慢性閉塞性肺疾患は桂歌丸さんも… 別名が「たばこ病」の理由は?

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山崎正巳2018.11.2 17:57週刊朝日#ヘルス

 映画「女賭博師」シリーズなどで活躍し、数多くの映画でヒロインとして親しまれた女優の江波杏子(えなみ・きょうこ、本名野平香純<のひら・かすみ>)さんが10月27日、肺気腫(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪のため東京都内の病院で死去した。76歳だった。

 1959年に大映に入社した江波さんは、66年に出演した映画「女の賭博」の女賭博師役が大ヒット。以降、「女賭博師」はシリーズ化され、大映の看板女優としてスターの道を歩んだ。近年も2016~17年のNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」では、ジャズ喫茶の女主人役で出演していた。

 肺の機能が衰える慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、たばこなどの有害物質の長期吸入によって生じる肺の病気だ。空気の通り道である気道(気管支)が狭くなり、濁った体内の空気を吐き出すのが難しくなる疾患。正常な呼吸ができず、濁った空気がたまり息苦しくなる。20年以上喫煙していると発症しやすいため、早い人では40代で発症する場合もある。別名「たばこ病」と言われ、患者の80%以上は喫煙者だ。今年7月には演芸番組「笑点」の終身名誉司会者でもあった落語家の桂歌丸さんも、このCOPDで亡くなった。2020年には世界の死亡原因の3位になると予測されていて、国内の潜在患者数は約620万人とされている。だが、治療を受けているのはその中のごく一部とも。

 聞き慣れない「急性増悪」だが、「増悪」とは、インフルエンザや風邪など呼吸器の感染症がきっかけでCOPDの症状が一時的に悪化し、全身におよぶ状態をいう。このCOPDは、早期発見と禁煙、薬物療法で症状をおさえられるようになってきている。呼吸法や運動療法などで構成される呼吸リハビリテーションを実践することで、治療効果はさらに上がる。ここでは、COPDのメカニズムと治療効果について解説する。

*  *  *

 正常な呼吸が難しくなる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の最大の発症原因はたばこであり、病気の進行を加速させる因子でもある。COPDは息を吐くのがつらくなる病気のため、1秒間で最大に吐き出せる息の量(1秒量)を調べて診断する。1秒量は年齢と性別、身長によって予測値が設定され(身長170センチの50歳男性で約3500シーシー)、COPD患者は健康な同世代の値を大きく下回る。1秒量は年齢とともに非喫煙者でも年間30シーシー程度減るが、喫煙者の年間減少量は50~60シーシーと倍近くになる。

 松岡内科クリニック院長の松岡緑郎医師は、1秒量とCOPD症状の関係性について説明する。

「一般的に1秒量が1500シーシーを切ると階段を上るときに息切れを感じ、1000シーシーを切ると平地で息切れが起きるなど、酸素吸入が必要な症状が見られるようになります。COPDになると1秒量の年間減少量はさらに増えるため、1500シーシーの人がたばこを吸い続けると、早いと3年余りで1000シーシーを切る可能性があります」

 禁煙することで肺の機能が改善し、1秒量の年間減少量は健康な人と同じレベルに戻すことができる。

「最近の吸入薬を中心とした治療をおこなえば、1秒量1500シーシーで治療を始めた患者さんが、1年後には1700シーシーに改善することもめずらしくありません」(松岡医師)

 1秒量1700シーシーでは息切れがほぼなくなり、息切れするから動かないという生活に終止符を打てる。

 COPDと診断された軽症から重症の患者まで、常に有効な治療として位置づけられているのが呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハ)だ。呼吸器の病気の進行を防ぎ、患者の健康状態を回復・維持させることを目的とする。

■筋力・メンタルにも有効な呼吸リハビリ

 医師、看護師、理学療法士などのサポートのもとに、運動などのメニューを、患者が普段の生活の中に取り入れて実践していく。欧米では早くからCOPD治療に導入され、呼吸困難や筋力・持久力を改善させた。生活の質や増悪頻度、メンタル面にも好影響を与えることが明らかになっている。

 聖カタリナ病院院長の蝶名林直彦医師はこう話す。

「肺の機能検査や、時間内歩行試験で歩ける距離、体内の酸素の使用状態などを調べて、個々の患者さんに合わせたメニューを組みます。重要なのは患者さん本人がCOPDという病気を知り、自ら積極的に治療をおこなうようにしてもらうことです」

 時間内歩行試験とは6分間できるだけ長い距離を歩いてもらい、その距離などをみるもの。健康であれば600メートル前後は歩けるが、COPD患者の平均距離はおよそ350~400メートルと短い。薬物療法や呼吸リハに取り組むことで歩ける距離が長くなるため、治療効果の指標や継続のモチベーションにつながる。呼吸リハのメニューは患者によって異なるが、重症度が目安になる。

「おおまかですが、軽症から中等症の場合は、無理のない歩行を中心とした全身の持久力と筋力トレーニングからなる運動療法をおこなってもらいます。重症の場合は呼吸法や軽いストレッチでこわばった筋肉の緊張を緩めることから始めていきます」(蝶名林医師)

 息を吐くことがつらくなるCOPD患者に合った呼吸法として「口すぼめ呼吸」がある。息を吐くときに口をすぼめてゆっくり吐くことで、細くなった気管支が少し膨らんで、楽な呼吸ができる。

 COPDの治療として呼吸リハが定着している欧米の研究で、適切な呼吸リハの実践は、酸素ボンベが必要な重症例に対しても、呼吸困難の軽減や身体活動性を改善させるなどの効果があることが証明されている。現状、多くの施設が増悪などで入院した患者を対象におこなっているが、外来で呼吸リハを指導する施設はそう多くない。

「日本呼吸ケア・リハビリテーション学会のホームページで実施施設を紹介しています。要介護認定を受けている人はケアマネジャーに相談すれば、介護保険の範囲内で調整し、デイケアサービスとして受けられることもあります」(同)

 松岡医師は、外来の呼吸リハに参加できない患者に対して、心掛けている声かけがあるという。

「呼吸は吐くことを意識することと、できたら週に3回以上、1日40分歩いてほしいということです。息が切れたら休んでもかまいません。ゆっくりと長い運動を継続しておこなうことが、酸素ボンベを使わない生活につながります」

■機器の進歩によって酸素の利便性向上

 自宅にこもりきりの生活で、風邪が治らず病院を受診したところ、酸素吸入が必要な重症例として見つかるケースも少なくない。自宅や外出時に、酸素ボンベで持続的に酸素を吸入する在宅酸素療法は、現在全国で20万人がおこなっている。最も多い導入の原因はCOPDだ。

「在宅酸素療法の周辺機器の改良で、より小さな酸素濃縮器や酸素ボンベが長時間使えるようになっています。酸素を吸いながらでも身体活動を少しでも上げるように心掛けてほしいです」(蝶名林医師)

 COPDの症状で息切れなどが急激に悪化する「増悪」があるが、禁煙とともに取り組みたいのがインフルエンザと肺炎球菌のワクチン接種だ。インフルエンザや肺炎にかかって、そのまま命を落とすCOPD患者も少なくない。

「感冒や感染症にかかることで増悪が起こります。手洗い、うがいなどの一般的な風邪対策に加えてワクチン接種を受け、増悪の回数を減らし、なくすことがこの病気の管理のポイントです。増悪は身体活動性を低下させ、病気の進行や死にも直結することを知ってほしいです」(同)

 酸素ボンベを抱えた生活にならないためにも、COPDのサインを見逃さないようにしたい。

◯松岡内科クリニック院長

松岡緑郎医師

◯聖カタリナ病院院長

蝶名林直彦医師

(文/山崎正巳)

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