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飲食店「完全禁煙化」で生き残る店、死ぬ店

飲食店「完全禁煙化」で生き残る店、死ぬ店

https://biz-journal.jp/2018/12/post_25761.html

2018.12.04

 カフェ・ベローチェが、ドトールコーヒーやスターバックスコーヒーをおさえて顧客満足度1位を獲得し、注目を集めている。

 日本生産性本部・サービス産業生産性協議会が発表する顧客満足度調査「日本版顧客満足度指数」(2018年度第1回調査)で、12万人以上からの回答をもとに集計した結果、カフェ部門では昨年まで2年連続首位をキープしていたドトールを抜き、ベローチェが1位となった。2位へ転落したドトールは売上高1269億(2017年/他ブランドがある場合は含む、以下同)、店舗数1344店(2018年9月時点)。今回の満足度調査でランキング圏外となったスターバックスは売上高1709億、店舗数1392店舗(同年9月時点)。

 それに対し、ベローチェは売上高135億、店舗数192店舗(同年3月時点)と、売上高、店舗数ともに、ドトールやスターバックスの規模に遠く及ばない。それでもベローチェが首位に立ったのである。

 コーヒー一杯200円前後で飲めるというコストパフォーマンスのよさが、以前から高く評価されていたベローチェだが、現在も約9割の店舗で喫煙ができるという点も、満足度が高まった理由の一つと見られている。

 だが、ベローチェの経営陣は、この顧客満足度1位という結果を手放しで喜べないのではないだろうか。

ベローチェは喫煙家の支持が大きいようだが

 東京都では「受動喫煙防止条例」の制定をうけて、完全禁煙化する飲食店がますます増えていくなかで、ベローチェのような喫茶店は喫煙者の貴重な受け皿になっているのかもしれない。しかし、都が定めた受動喫煙防止条例では、東京都内の飲食店で喫煙を選択できるのは「従業員のいない店舗」のみ。ほかにもいくつかの条件があるが、この条件があるため、東京都内の大半の飲食店が完全禁煙化しなくてはいけない。そしてこの条例は段階的に施行され、東京オリンピック開催に合わせ2020年・春に全面施行になる予定である。

 東京都以外でも、国が定めた「改正健康増進法」では「客席面積が100平方メートル以下で、個人や中小企業(資本金5000万円以下)は禁煙の対象外」となっている。個人経営の中小規模店などは禁煙化は免れるが、大手企業が運営するチェーン店などは禁煙化しなくてはいけないということだ。

 要するに都条例や法律による完全禁煙化によって、ベローチェのように喫煙ができることが魅力の一つになっていた業態の飲食店は、大きな個性を一つ失うことになるのだろう。

 では、客が喫煙できなくなる飲食店は、どう立ち回ることになるのか。それによって飲食店の人気勢力図に変動は生じるのか。飲食業界に詳しいフードジャーナリストの山路力也氏に話を聞いた。

飲食店は完全施行前から前倒しで完全禁煙化したほうがベター?

 まず、完全禁煙化を敢行することで、飲食店の人気勢力図に変化があるのだろうか。

「今から1年後には、都内で喫煙ができる飲食店は1割未満にまで減少すると思われます。しかし、それによってカフェやファミレスなどの飲食店人気勢力図に影響が出ることはないでしょう。

 東京都による受動喫煙防止条例と、国による改正健康増進法がすでに制定された以上、推定ですが都内では9割前後の飲食店が完全禁煙化に進むことになるでしょう。とはいえ、大半の飲食店が禁煙化となれば、飲食店同士の足並みはおのずと揃うことになるため、禁煙化によって人気勢力図が大きく変動するとは考えにくいです。

 これは私の個人的見解ですが、完全施行以前であっても、従業員の健康面や喫煙率の減少、インバウンド需要の観点から考えると、完全施行前でも自店で前倒しして完全禁煙化するほうが得策なのではと思います。

 とはいえ、居酒屋やバー、そしてベローチェのような喫煙家から支持を集めている喫茶店などの経営陣からすると、完全禁煙を敢行することによる顧客離れへの不安は、なかなか拭いきれないでしょう」(同)

ファミリー・子供向けの新メニュー考案が生き残りのカギとなる

 喫煙者を取り込むことで人気を博してきた飲食店は、顧客離れへの懸念がより一層大きくなるのは当然だろう。では、完全禁煙化した場合、顧客離れは本当に起きるのだろうか。

「居酒屋やバー、ベローチェのような喫茶店が完全禁煙化すれば、確かに一時的に来店者数は減るでしょう。ですが、そもそも喫煙者人口は年々減っています。今では喫煙者の数より、非喫煙者の数が圧倒的多数を占めている状態です。つまり、完全禁煙化によって喫煙者の顧客は失うかもしれませんが、圧倒的多数いる非喫煙者にリーチする可能性は高まるのです。

 おそらく、喫煙可の店に非喫煙者が行くことより、禁煙の店に喫煙者が行くことのほうが多いでしょう。ですからやはり、新しい顧客層の獲得を狙う意味でも、完全禁煙化を推し進めるべきと考えています」(同)

 厚生労働省が発表する「国民栄養の現状」(国民栄養調査結果)によると、喫煙している20歳以上の成人の27.7%が禁煙したいと考えており、30.6%は本数を減らしたいと思っているという。実際、喫煙者数は年々右肩下がりであり、2003年頃の喫煙者率は27.7%あったのに対し、2016年の調査では18.3%にまで減少。今後もこの流れのまま喫煙者は減っていくと予想されているのだ。

 山路氏の言う通り、一時的に顧客離れが起こったとしても、その後、非喫煙者の来店によって売上は補填され、業績は回復するのかもしれない。

「完全禁煙化後は客層が変わる可能性もあります。喫煙者のサラリーマンが主流の客層だったお店に、子供連れの家族客が増えるといったこともあるでしょう。そのため、今後は子供向けメニューの追加やコンテンツの変更を行っていくのが、完全禁煙化後の飲食業界で生き残っていく道になるのではないでしょうか。

 一方、東京都以外の地域で改正健康増進法の適用外となる個人や中小企業の店舗であれば、喫煙を選択し、喫煙者をターゲットに絞った施策を行うのも効果はあるだろうと思います。現在、ベローチェが喫煙家から支持を集めているように、居酒屋や喫茶店などは全面喫煙可にすることで、“喫煙者たちの憩いの場”という需要が見込めるでしょう」(同)

 いずれにせよ長く愛される飲食店になるには、その店や地域の顧客ニーズをきちんと把握し、それに応えていくことが重要になってくるのだろう。顧客に真摯に向き合えば、喫煙か禁煙か、おのずと正解が見えてくるのかもしれない。

(文=山本愛理/A4studio)

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