電子たばこ、若者が陥る「出口なき」ニコチン依存
電子たばこ、若者が陥る「出口なき」ニコチン依存 「ジュール」など電子たばこでニコチン依存症になった10代を治療する方法はまだ非常に限られている
https://jp.wsj.com/articles/SB11034305465659204216804585009913538733200
By Betsy McKay 2018 年 12 月 20 日 07:59 JST
ルカ・キナード君が電子たばこを吸い始めたのは2017年、ハイスクールに入学した直後だった。他の多くの生徒が電子たばこの一種である「ジュール」を使っていたのを見て、試しに吸ってみようと思ったという。
間もなく常時吸引していたいと感じるようになった。自宅でも学校でも、友達と一緒の時も「ジュールする」状態に陥り、1日当たり4ポッド程度を消費するようになったという。USBメモリーに似た形状のポッドには1本当たり、従来の紙巻たばこ1箱分のニコチンが含まれている。ルカ君の好みのフレーバーはマンゴーとメンソールだ。「ストレス解消の薬のようだった」と語る。
優等生名簿に載るような生徒だったルカ君だったが、成績が下がり、スポーツや趣味への関心を失うようになり、両親も懸念を抱くようになった。ノースカロライナ州ハイポイント在住の母親ケリー・キナードさんによれば、何もなければイーグルスカウト(最高位のボーイスカウト団員)への道を歩む明るい14歳だったはずのルカ君は両親に対し、激しい怒りにまかせて暴言を吐くようになったという。
息子の電子たばこをやめさせるため、キナードさんは何カ月間も医師や治療プログラムを探した。ルカ君は、ジュールから離れるたびにストレスや否定的感情が戻ってくると語る。「身動きが取れないように感じた。やめられなかった」
米国では過去1年間、若者の電子たばこ吸引が急増した。これは主にジュールの登場によるものだ。ジュールの売り上げは2017年半ばから爆発的に伸びている。今春に実施された調査では、最近電子たばこを吸ったとの回答はハイスクールの生徒5人に1人、ティーンの300万人以上に達していた。その一部は、ルカ君のように高濃度のニコチンによって依存症になっている。
依存症の若者の電子たばこ吸引をやめさせるため、親や医療関係者は苦闘している。専門家によれば、対応に悩む親や小児科医からの電話が過去数カ月で急増したという。ボストン小児科病院のシャロン・レビー氏によると、11月にかかってきた電話の回数は通常の6倍に上ったという。
ニューヨーク市のマウントサイナイ病院で依存症治療施設のディレクターを務めるヤスミン・ハード氏は若者の場合、わずか数回といった大人に比べて少ない回数のニコチン吸引で依存症になる可能性があると語る。
また、ニューヨーク市のチャイルド・マインド・インスティチュートで子供と若者の精神科治療を行うサーパー・タスキラン氏は、慢性的なニコチン吸引により、10代の若者はより衝動的になり、集中力や注意力が低下し、認知障害を起こす恐れもあると述べている。同氏の患者の多くが電子たばこの利用者だという。
限られる治療の選択肢
しかし、保護者や専門家によると、電子たばこでニコチン依存症になった10代を治療するための選択肢はあまりない。サウスカロライナ医科大学で児童青年精神科の責任者を務めるケビン・グレイ教授は、「電子たばこ吸引とその治療については、まだ検討している段階だ」と述べる。
専門家は、どんな治療法がジュールのような電子たばこの中毒に効果をもたらす可能性があるかは不明だと述べる。ジュールのニコチンは、一般のたばことは違った形で吸引されるからだ。加えて、ニコチン依存症の10代は他のメンタルヘルスおよび薬物使用に関する問題を抱えていることも少なくないため、どの問題行動がニコチン依存のみによるのかを特定するのは難しい。
少量のニコチンを含むパッチやトローチを使うニコチン置換療法は、成人が禁煙するために行うものだが、10代を対象にした試験は行われておらず、研究での効果も限定的だ。
依存症の専門家は、10代の若者に対してはカウンセリングを重視する。だが、治療のプログラムや若者専門の精神科医は不足している。公衆衛生分野の専門家は、まず第一に電子たばこ吸引を思いとどまらせる取り組みが不可欠だと強調する。
治療法の欠如は非常に深刻な問題となっている。米食品医薬品局(FDA)は治療法の開発に向け、来年1月18日に公聴会を開く予定だ。FDAは10代にとって魅力的だと判断する電子たばこの一部フレーバーについて販売を制限している。
「ジュール」を販売するジュール・ラブズは、未成年者への販売を制限する措置を講じており、実店舗からミントやメンソール、たばこ味以外の製品を撤去するなどしている。同社の広報担当者は「ジュールは現在、成人の喫煙者のみに向けられた商品だ」と説明。「若者はジュールを試すことさえ避けるべきだと強く訴えたい」と話した。
キナードさんは昨夏、息子を精神科医へ連れて行った。精神科医は禁煙の支援にもなる抗うつ薬「ウェルブトリン」を処方。しばらくの間、状況は改善したように見えたが、息子は数週間後に友人と再会すると、また電子たばこ吸引を始めた。
キナードさんによれば、ルカ君は胸の痛みや冷汗の症状が出たため、「ウェルブトリン」の服用を中止したが、その後、発作の症状に襲われた。神経科医の診断では発作の原因が見つからず、睡眠を多く取るようアドバイスされたという。また心臓専門医も問題点は何も発見できなかったが、胸の痛みと冷汗はジュール吸引により胸壁に炎症が起きたことによる可能性があると語った。
米国立衛生研究所のウェブサイトなどを調べたキナードさんは、ニコチン依存症は薬物乱用問題として取り扱うべき問題だと理解した。
しかし、その判断基準に合致するような治療方法を探すのは大変だった。自宅から近い市で行われていたプログラムでは、より深刻な薬物乱用問題に取り組んでおり、患者に喫煙や吸引を認めていたため適切ではないと判断した。キナードさんは最終的に、カリフォルニア州にある居住型のメンタルヘルス医療センターにルカ君の治療場所を確保することができた。
ルカ君は最近、他の5人の10代少年とともに40日間の宿泊プログラムを終了した。宿泊中にはセラピストとの定期的な会合を行ったほか、さまざまなグループセッションにも参加した。抗不安剤や睡眠薬の投与を受け、文章執筆や音楽鑑賞など吸引への欲求を克服するのに役立つ方法を学んだ。
キナードさんは息子の改善ぶりを喜びながら、ニコチン含有の電子たばこが及ぼす健康上の危険性は医療専門家が認識している以上に深刻だと警鐘を鳴らす。「誰かが医師に伝えなければならない。これはたばことは違う。もっとずっと強いものだ」
自宅に戻ったルカ君は現在、集中的な外来治療を続けている。「もうやらないとは約束できない。ただ、現在のところ、ジュールを欲しいとは思っていない」
| 固定リンク
「電子たばこ」カテゴリの記事
- 若い女性が吸う「加熱式タバコ」の危険性とは。「乳がん」や「子宮頸がん」のリスク増(2024.09.09)
- 紙巻たばこか加熱式たばこか…喫煙者のたばこの種類(2024年発表版)(2024.09.09)
- 「加熱式たばこ」販売10年目で税率論争に着火 業界の声は?(2024.08.26)
- 加熱式たばこ、販売10年目で税率論争に着火…シェア4割受け引き上げ案に業界懸念(2024.08.26)
- 対話型テキストメッセージの禁煙介入、青少年の禁煙率を上昇/JAMA(2024.08.19)
最近のコメント