警告表示の拡大にもへこたれない「たばこ業界」の魔力。(森山祐樹 中小企業診断士)
警告表示の拡大にもへこたれない「たばこ業界」の魔力。(森山祐樹 中小企業診断士)
https://www.huffingtonpost.jp/sharescafe-online/tobacco0121_a_23641168/
2019年01月22日 16時41分 JST
2020年の東京五輪を見据え、国内で販売するたばこの包装に表示する警告の面積を、現行の30%以上から50%以上に広げる。
財務省は2018年12月末、およそ15年ぶりにたばこ包装の警告表示の見直しを行う案をまとめた。2020年の東京五輪を見据え、国内で販売するたばこの包装に表示する警告の面積を、現行の30%以上から50%以上に広げる。
たばこの警告表示は諸外国でも整備が進んでおり、すでに50%以上の警告表示を課す国もある。これらの警告表示が許されるユニークなたばこ業界について考察してみたい。
■たばこ業界の動向
日本たばこ協会のデータによると、たばこは20年ほど前の1998年に年間3,366億本を売り上げていたが、2017年には1,455億本と半分以下まで低下している。一方、売上高で比較すると、1998年の40,899億円から2017年には31,655億円へと減少しているが、売上本数ほどの減少は見られない。
これは税制を含めたたばこ単価の上昇が起因している。近年の価格改正を例に挙げると、1箱あたり1998年250円程度であったものが2010年290円~320円、2018年現在では、440円~470円程度と20年ほどの間に2倍近くまで単価が上昇している。(参考:先進国では、たばこ1箱のおよその値段が日本円換算で、オーストラリア:2,296円、イギリス:1,402円、カナダ:1,151円、アメリカ748円と軒並み日本の価格を上回っている。)
喫煙率で比較すると、1998年では男性およそ55%、女性13%であったが、2018年には男性28%、女性8.7%と、たばこ価格の上昇と健康志向に相まって喫煙者は大幅に減少している。
一方たばこ税の税収としては、ここ30年ほどの間、安定して2兆円超を維持し、消費量の減少や売上高の減少ほどの影響を受けていない。このことから、必要な税収は確保しつつ、国民の健康を守り、医療費の削減に貢献する税制が奏功しているという見方も可能である。
■たばこの警告表示
今回の警告表示の拡大についてだが、喫煙者の健康を守り、医療費負担を軽減するため、国内の警告表示としてはこれまでも以下のような警告が明記されている。
・喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます
・喫煙者は脳卒中により死亡する危険性が非喫煙者に比べて約1.7倍高くなります
・喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります
・喫煙は肺がんの原因の一つとなり、心筋梗塞・脳卒中の危険性や肺気腫を悪化させる危険性を高めます 等
また、海外の事例に目を向けると更に過激な記載も見られる。
・喫煙はあなたを殺します
・タバコはガンを引き起こします
・やめれば健康になります
・タバコは致命的な肺の病気を引き起こします 等
これらのたばこ警告表示は、たばこ業界であれば当然のこととの認識であるが、他の業界や商品・サービスに当てはめて考えてみると非常にインパクトがある。例えば、航空業界で言えば、航空券予約をした途端に「この飛行機は墜落の大きな危険性がありますがご了承ください」と言われるようなものである。
食品業界で言えば「この商品を食べるとあなたはガンになる可能性があります」と言われているようなものだ。購入商品やサービスにこのような命にかかわる重大なリスクを表示された場合、そのサービス・商品に通常は顧客がつかず、市場として成り立たないことは想像に難くない。
しかしながら、たばこ業界においては、これまでも重大な警告表示があるにもかかわらず、多少縮小したとはいえ、いまだに巨額な市場を築き上げている。そこには、たばこ業界特有の強力なバーゲニングパワー(対抗力)が存在している。
ドラスティックな価格上昇や、購入者に対する厳しい警告表示にも関わらず、購入者が躊躇することなく購入し続ける嗜好品の商品・サービスが他にあるだろうか。たばこ業界は自らを貶める警告表示が当然のこととして受け入れられるユニークな業界なのである(業界当事者からすれば当然望ましいものではないが)。
今後2020年には財務省案の通り上記の警告表示が30%から50%へ拡大されるどろう。現時点での30%であっても購入時や喫煙時に見過ごすサイズではないが、この警告表示が拡大したとしても、多くの消費者を引き付けるたばこの魅力にブレーキをかけることはできないのであろうか。
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