電子たばこのメリット、デメリットより大きいか
電子たばこのメリット、デメリットより大きいか
https://diamond.jp/articles/-/193625
2019.2.12
電子たばこの市場拡大は、二つの全く異なるレンズを通して眺められている。
一つめの側面は、以下のようなものだ。10代の若者による電子たばこの使用急拡大は、電子たばこそのものが健康被害をもたらすほか、結果的に若者の通常の喫煙へとつながる恐れがあるという理由から、多くの人々は警戒感を抱いている。
しかしその一方で、すでに喫煙者となっている者の禁煙努力を助け、従来型のたばこがもたらす恐れのある多くの、そして死に至ることもある病気を防ぐ上で、電子たばこが重要な道具になると考える者もいる。
この双方向の議論は、さまざまな研究によってさらに強められている。先月末以降だけでも、以下のような研究成果が報告されている。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に掲載されたある研究報告は、電子たばこによる禁煙支援の効果が、ニコチン置換療法のための他の製品と比べてはるかに大きいと結論付けている。一方、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(JAMA)に掲載された別の研究報告は、電子たばこを経験した10代の若者は、そうでない者と比べ、従来型のたばこの喫煙者となる可能性がはるかに高いと結論している。
ニューヨーク大学グローバル公衆衛生学部で社会行動科学の教授を務めるデービッド・エーブラムズ氏は、電子たばこについて、10代の若者による利用を抑制する必要があるとしながらも、電子たばこが禁煙を支援する上での有用性を強調する。キャンペーン・フォー・タバコフリー・キッズ代表のマシュー・L・マイヤーズ氏は、逆の立場であり、電子タバコの若者への害は明白であり、電子タバコの有用性は依然証明されていないと主張する。
「電子たばこはメリットの方が大きい。何百万もの喫煙者が電子たばこ導入後に禁煙に成功した」(以下はエーブラムズ氏の主張)
過去1カ月に少なくとも一度は電子たばこを使用した若者は300万人前後に上る。こうした状況には歯止めを掛けなければならない。しかし、電子たばこの若者への影響に関する懸念が、電子たばこの禁煙支援効果のメリットを覆い隠してはならない。
広い視野で眺めれば、電子たばこは実際に、デメリットよりメリットの方が大きい。若者の電子たばこ使用は抑制されるべきだが、喫煙者の電子たばこ使用は奨励されるべきだ。
米国では年間50万人の喫煙者が、天寿をまっとうせずに死亡している。そして1500万人が、たばこの有害な煙を吸い込んだことによる衰弱性疾患にさいなまれている。たばこから、電子たばこのような煙が出ない製品への転換で、人々の命を救うことができる。
政府による大規模な調査や、公表された研究報告によれば、米国では何百万人もの喫煙者が電子たばこ導入後に、禁煙に成功した。たばこから電子たばこに切り替えた人々の間で、健康被害が大幅に軽減されたということだ。米食品医薬品局(FDA)の2019年の調査では、有害物質にさらされる程度が劇的に削減されたことが確認されている。2018年の全米アカデミーズや、権威ある英国の王立内科医協会の報告でも同様の認識が示されている。英国では、政府や医療・公衆衛生当局によって、健康被害抑制要因としての電子たばこの役割が明確に認められている。英国公衆衛生庁、米疾病対策センター(CDC)は、昨年の喫煙率が史上最低水準となったことを歓迎している。
電子たばこを批判する人々は、電子たばこが、喫煙者がたばこをやめる手助けとなる効果的な手段であることを示した研究結果を見過ごしている。批判者らは決定的な結論がないと主張する。喫煙者の命を救うための最も効果的な電子たばこの利用方法について、より多くの証拠を示すことが常に求められることには同意する。しかし、科学的証拠は強固なものであり、より強固になっている。前出のNEJMは先週、電子たばこがニコチン置換療法に比べて喫煙をやめるケースが2倍であることを示す研究結果を掲載した。さらに、電子たばこの批判者が引用する調査で、電子たばこが禁煙を成功させる可能性は低いとする内容は、根本的に不備の多い、誤った分析に基づくものだった。
私は、若者にとって電子たばこの吸引により、たばこ喫煙者となる潜在的リスクが存在することは常に留意している。しかし、現時点で、今回示された研究データは、もしそうした状況が起きていたとしても(実際には起きていないが)、喫煙者と電子たばこ利用者のバランスを傾かせるほど大きな結果とはなっていないことを示している。私の分析は他の人々のものにも沿った内容だが、それによれば、若者と成人の双方が利用する場合を考えると、若者のたばこへの移行増加で最悪のケースがあったとしても、公衆衛生上、多大な利益をもたらす可能性が大きい。
とはいえ、私は若者によるニコチン含有製品の使用を最小限にとどめるよう引き続き努力すべきであることには完全に同意する。ニコチン含有製品あるいはたばこ製品の購入可能最低年齢を21歳に引き上げることに同意する。FDAは未成年者による電子たばこの購入を規制する措置を講じており、今後も講じる方針である。FDAが最近発表した措置―オンラインで購入する際の年齢確認の厳格化、小売り段階での電子たばこの制限―が機能するよう見守るべきだ。
また、たばこ喫煙者が電子たばこへと完全に移行する上で、電子たばこのフレーバー(香り)を、生命を脅かす恐れのある従来型のたばこを想像させるようなたばこ独特の香りやメンソールの香りとは異なるフレーバーとすることが重要であるとの証拠が増えている。このことも留意する必要がある。こうしたフレーバー付きの電子たばこを、従来型の健康に害のあるたばこを販売する場所ではどこででも、購入できるようにすることが極めて重要である。その際、全ての製品販売は成人だけに厳しく制限する。
一方、ニコチンと電子たばこの吸引に関する誤った認識が電子たばこをめぐる議論を歪めている。ニコチンはたばこが中毒性を持つ決定的な要素だが、喫煙によって引き起こされるがん、心臓疾患、肺疾患などとの直接の因果関係はない。米国立がん研究所の報告によれば、調査対象者の71%はニコチンががんの原因と誤って信じていたり、よく把握していなかったりする結果が示された。そして、電子たばこの吸引が喫煙に比べて害が少ないことを正確に把握していたのはわずか17%だった。
喫煙者が電子たばこの吸引は喫煙に比べて害が大幅に少ないと信じていなければ、電子たばこへ移行することなどあるだろうか。われわれは、煙のないニコチンの方がずっと害が少ないという事実を明確に示した啓発目的の積極的かつ継続的なメッセージを必要としている。
われわれの研究によれば、今後10年間に米国の大半の喫煙者が電子たばこに移行した場合、600万人超の死亡者、8600万年超分の質の悪化した生活の出現を回避することができるだろう。われわれは煙のないニコチンについて見直し、火を付けたたばこによってもたらされる害を低下させる「協力者」であるとみなすべきである。そしてどの年齢層の喫煙者もたばこをやめ、電子たばこに完全に移行し、煙のない社会になるまで喫煙者への積極的な啓発活動を行うべきである。
「デメリットの方が大きい。電子たばこを吸う若者は、将来喫煙者になる公算が大きい」(以下はイヤーズ氏の主張)
現段階で、電子たばこによる害を示す証拠は、いかなる潜在的利益を示す証拠よりずっと明確だ。つまり、若者の電子たばこ吸引が急増し、青年たちを明白な害にさらしている一方で、電子たばこが喫煙者の禁煙を後押ししていることを示す証拠は依然として確定的でないということだ。
若者の電子たばこ使用が、食品医薬品局(FDA)のスコット・ゴットリーブ長官と公衆衛生局のジェローム・アダムズ長官が「流行」と呼ぶレベルにまで達していることに疑いの余地はない。全米若年者たばこ調査によると、2018年だけで、高校生の電子たばこ使用は前年比78%増加し、生徒数の20.8%を占めるまでになった。今や、360万人を超える中高生が電子たばこを使用している。
電子たばこは子どもたちに深刻な健康リスクをもたらす。公衆衛生局長官は若者によるいかなる形態のニコチン使用も安全でなく、中毒を引き起こす可能性があるほか、脳の発達を阻害して、学習能力、記憶力や注意力に影響を及ぼす恐れがあると警告している。複数の研究はまた、電子たばこを使用する若者が後に喫煙者になる公算が大きいことを示している。学術機関の全米アカデミーズが2018年に出した包括的な報告書は、「電子たばこ使用が、青少年および若年成人の燃焼式紙巻きたばこを一度でも使用させるリスクを増大させていることを示す十分な証拠がある」との結論を下した。同じ報告書は、「電子たばこが禁煙促進のための効果的な補助物になる可能性があることを示す証拠は限定的だ」と指摘した。
加えて、多くの研究とゴットリーブFDA長官が指摘しているように、データは電子たばこにより、リスクにさらされている子どもの数が劇的に増えていることを示している。なぜなら、本来ならたばこを吸わなかったであろう子どもたちが電子たばこを使用している場合が非常に多いからだ。
対照的に、最近の複数の研究や、2018年の全米アカデミーズの報告書によると、電子たばこが従来の紙巻きたばこを完全にやめるのを後押しすることを示す証拠は限定的であり、確定的ではない。問題をより複雑にしているのは、電子たばこが禁煙を支援する可能性があったとしても、それについての正確な情報が喫煙者に十分に与えられていないことだ。なぜなら、そのような証拠をFDAに提出したたばこメーカーはまだないからだ。
電子たばこをめぐる米国での経緯は、英国でのそれと明らかに異なる。そして、英国の政策も、他の国々と比べると異質だ。英国では、紙巻きたばこや電子たばこをめぐる販売制限やその他の規制が米国よりずっと厳しく、米国で最も人気の電子たばこには、英国の法律の上限をはるかに超えるニコチンが含まれている。結果として、若者による使用は米国ほど急増していない。米国の経験に基づくと、禁煙を支援する立証された方法として電子たばこを宣伝するのは時期尚早であり、われわれは電子たばこが無害であるとの誤解を若者に広めないよう注意しなければならない。
電子たばこが子どもたちの間で大人気になったのは、偶然ではない。電子たばこメーカーは、甘い、若者向けの味の製品導入などによって、若者の市場に標的を定めた。一方、FDAは2016年8月まで電子たばこの規制を始めず、その後、既に販売されている電子たばこの公衆衛生精査を2022年まで延期した。電子たばこメーカーはこの遅れを利用し、子ども向けの製品の販売を続け、自らの製品が本当に禁煙を支援するのか否かを示す科学的根拠を打ち立てる必要性を回避している。FDAはこの遅れを解消しなければならない。
FDAは最近、味付き電子たばこの店舗販売を制限する措置を講じたが、若者間での流行を阻止するためにはさらなる措置を講じなければならない。公衆衛生精査を受けたことのない全ての味の電子たばこを禁止し、より強力な安全対策が講じられるまで電子たばこのネット販売を阻止すべきだ。子どもへの販売を防止する、若者向けのマーケティングを制限する、FDAの承認がない新製品の販売を禁じる規則を強化するといった対策だ。
ちなみに、喫煙者が電子たばこに完全に移行するのに味が重要であるという主張を裏付ける科学的根拠はほとんどなく、正確な研究もない。対照的に、味が若者の電子たばこ使用において重要な役割を果たしていることを示す決定的な証拠は存在する。
最後に、選択肢は子どもを守るか、それとも、喫煙者を支援するかではない。有効なFDAの規制でのみ、われわれは若者間の流行を抑え、ついには、電子たばこが喫煙者の完全な禁煙の支援に有効なのかを知ることができるのだ。
(The Wall Street Journal)
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