「電子タバコに禁煙効果あり」研究で大論争勃発、愛煙家はどうする?
「電子タバコに禁煙効果あり」研究で大論争勃発、愛煙家はどうする?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59950
その可能性を示す、これまでで最も有力なエビデンスが、新しい大規模研究によって得られた。これで医師が患者に与えるアドバイスは変わっていくかもしれない、というが……。
電子タバコには、ニコチンガムやニコチンパッチの2倍近い禁煙効果があることがわかったという。
この研究は英国で実施され、1月30日に学術雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された。
米国では、ティーンエイジャーの間で電子タバコを吸う習慣が急速に広がっており、食品医薬品局(FDA)に対して、「電子タバコ業界への規制を強化せよ」と求める声が高まっている。そのため、今回の研究が電子タバコをめぐる議論のゆくえを左右する可能性がある。
禁煙治療の専門家である、ハーバードメディカルスクールのナンシー・リゴッティ博士はこうコメントした。
「多くの医師はこれまで、患者から電子タバコについて聞かれても、どう答えたらいいのかわかりませんでした。医師にとっては、今回の研究で、電子タバコを推奨するエビデンスが増えたといえるでしょう」
リゴッティ博士は今回の研究に参加していない。
しかし同時に、リゴッティ博士を含む専門家たちは、「米国内において、禁煙補助目的で認可された電子タバコ製品はまだ存在していない」と警告している。
「成功率7%」を引き上げる?
喫煙は世界全体で、「防ぐことが可能な死亡原因」の第1位になっており、喫煙が原因で亡くなる人は毎年600万人近くに達する。
対策として、ニコチンを含有した禁煙補助薬は数十年前から開発されているし、新しい処方薬もある。だが、禁煙を成功させるのはは依然としてひどく困難であることがわかっている。
政府のデータによれば、米国では毎年喫煙者の55%以上が禁煙に挑戦するが、成功するのはわずか7%程度だという。
電子タバコは、バッテリーを搭載した装置によって、ニコチンを含むフレーバー付き液体を加熱し、発生した蒸気を吸入するのが一般的な方式だ(編集部注:日本で主流なのは「加熱式タバコ」。電子タバコ用の液体は国内販売されていない)。米国では2007年ごろから市販されており、年間66億ドル規模の産業に成長している。
「電子タバコの蒸気はタバコの煙より有害性が低い」というのが、大半の専門家に共通する意見だ。タバコの燃焼で発生する発がん性物質の多くが、電子タバコの蒸気には含まれないためだ。
しかし、その蒸気に含まれる化学物質のなかには、毒性のある物質も含まれている。こうした物質の長期的な影響については、いまだ研究がないに等しい状況だ。
さらに、実際に電子タバコが禁煙に有効かどうかという点では、相矛盾する研究結果が出ている。
2018年には影響力の大きい米国の専門家パネルが、電子タバコの禁煙効果には「限られた証拠」しかないと結論を出している。
これまでより厳密な手法で研究
今回の新しい研究の具体的な内容はどのようなものだったのか。
まず900人近くの中年層の喫煙者を、「電子タバコを受け取るグループ」と、「ニコチン代替品(ニコチンパッチや禁煙用のガムやトローチ)を受け取るグループ」にランダムに分けた。そして、それぞれのグループに対して追跡調査を実施したのである。
1年後、電子タバコグループの18%は喫煙をやめていたのに対して、ニコチン代替品を使っているグループでは9.9%だったのだ。
今回の研究の共著者で、依存症の専門家であるロンドン大学クイーン・メアリーカレッジのピーター・ハジェック教授は「喫煙者が心臓疾患や肺疾患にかかるのを防げるのなら、何であれよいことだ。電子タバコにはそれが可能だ」 としている。
また今回の研究は、これまでより厳密な方法でおこなわれている。
従来の研究では、喫煙者を対象に、電子タバコ使用について大規模なアンケート調査を実施していた。一方、今回の実験では、参加者の呼気の化学成分を検査している。
電子タバコグループの喫煙者は、26ドル相当のスターターキットを受け取った。一方、ニコチン代替品グループは、自分で選んだ製品を3カ月分受け取り、その価格は約159ドルだった。その後、製品を買うかどうかは参加者が自己責任で判断するとされた。
ミシガン大学の公衆衛生学の元教授であるケネス・ワーナー氏は、「効果が高く、かつ低コストの禁煙方法があるなら、医療従事者はだれでも大きな関心を持つはずだ」とコメントしている(ワーナー氏は今回の研究に関与していない)。
本当に信頼できる結果なのか
とはいえ、この研究結果では、いくつかの要因がプラスに作用した可能性が考えられる。
参加者はすべて、政府の禁煙プログラムを通じて集められており、もともと禁煙の意欲が高かったと考えられる。彼らは4週間の禁煙カウンセリングも受けている。
また今回の研究チームは、電子タバコと、ファイザーの「Chantix」(日本では「チャンピックス」の商品名で発売)との対照試験を実施していない。
Chantixは、従来のニコチンによる治療法より禁煙成功率が高いことが証明されている処方薬だ。
さらに今回の研究は英国政府の助成金を得ているが、英国政府は電子タバコを、国営の医療機関を通じた禁煙治療の有望なツールとして推奨してきた。論文の著者のなかには、禁煙製品メーカーのコンサルタントをつとめ、報酬を受け取ってきた人もいる。
米国の保健関係機関はこれまで、電子タバコ製品の推奨には消極的な姿勢を取っている。その理由の1つは、長期的な影響が不明なためだ。
禁煙が専門の心理学者であるボストン大学のブレンダ・ボレッリ教授は、「電子タバコの安全性プロファイルについて、研究を重ねることが必要だ。1つの研究だけに基づいて治療方法を変えるべきではない」と述べている。
結局は電子タバコに依存するのでは?
米国心臓協会は2014年の声明で、「禁煙目的での電子タバコの使用は、カウンセリングや承認済み製品を使用した後の、最後の手段としてのみ推奨される」としている。米国がん協会も2018年に同様の立場を表明している。
今回の研究に添えられた、ボレッリ教授が共著者の1人である論説記事では、「電子タバコを禁煙目的で使うのは、喫煙者がFDA認可製品で禁煙に挑戦し、失敗した場合に限る」ように勧めている。
さらに、医師は電子タバコの使用中止に向けた明確なスケジュールを立てるべきだとしている。
ボレッリ教授によれば、この研究の対象となった電子タバコユーザーの80%が、1年後にもまだ電子タバコを使用していたという。別のグループでは、ニコチンガムなどのニコチン代替品を使い続けている者は9%だった。
電子タバコメーカーのなかで、自社製品にFDAから禁煙補助製品としての認可を受けることを計画している企業はない。そうした認可を受けるには、数年の時間と多額の費用を注ぎ込むような、大規模な研究が必要になる。
FDAはこれまで電子タバコに対して、おおむね不干渉主義のアプローチを取ってきた。市場に出回っている電子タバコのいずれについても、科学的な審査を実施しておらず、重要な規制を2022年まで先送りしている。
スコット・ゴッドリーブFDA長官は、 「成人の喫煙者に対して、より安全な選択肢を提供する可能性のある新興業界を、過剰に規制したくない」と発言している。
こうした規制の遅れは強い批判にさらされている。
背景にあるのは、ティーンエイジャーの電子タバコ吸引が爆発的に急増したことだ。
そのきっかけとなった中心的な製品が、「JUUL」などUSBメモリに似た形の電子タバコ製品である。
連邦法ではそうした製品の18歳以下への販売を禁じているが、政府の調査によれば、高校生の5人に1人が昨年「電子タバコを吸引した」と回答したという。
この調査では、ティーンエイジャーの電子タバコ使用が2017年から2018年の期間で78%増加したことを示している。
電子タバコの種類によっても違いあり
非営利組織「子どもの喫煙をなくすキャンペーン」(Campaign for Tobacco-Free Kids) のマシュー・マイヤーズ氏は、今回の英国の研究で使われているのが、ユーザーがフレーバーやニコチン濃度を自分好みに変えられる、いわゆる「タンク方式」の電子タバコである点を指摘している。
米国ではこの方式よりも、JUULのような充填済みのニコチンパック(ポッド)を使った方式が主流である。電子タバコのメリットはすべて、個々の製品やその使用方法によって違うのだとマイヤーズ氏は語る。
「電子タバコがすべて同じだと考えるのは根本的な間違いです。そのうえ、FDAの規制がない現状では、消費者は、使用中の製品に効果があるのかどうかを確かめようがありません」(マイヤーズ氏)
マイヤーズ氏の団体を含めて、いくつかの反喫煙団体がFDAに対して、電子タバコ製品をただちに審査するよう求めて訴訟を起こしている。
ワシントン州在住の音響・映像技術者のイアン・アーミテージ氏は、電子タバコが禁煙の手段になるというのは疑わしいと考えている。
喫煙歴15年のアーミテージ氏は、数年前に電子タバコを吸引してみたが、筋肉のひきつりや震えのようなニコチン離脱症状が出て、吸引をやめた経験があるという。
「丸1カ月試してみたけれど、私には効果がなかった。その後もタバコが吸いたくなったよ」(アーミテージ氏)
アーミテージ氏は、ニコチンパッチも試してみたが、皮膚にかゆみが出たという。
(ワシントン発AP 翻訳/熊谷玲美)
| 固定リンク
「電子たばこ」カテゴリの記事
- 若い女性が吸う「加熱式タバコ」の危険性とは。「乳がん」や「子宮頸がん」のリスク増(2024.09.09)
- 紙巻たばこか加熱式たばこか…喫煙者のたばこの種類(2024年発表版)(2024.09.09)
- 「加熱式たばこ」販売10年目で税率論争に着火 業界の声は?(2024.08.26)
- 加熱式たばこ、販売10年目で税率論争に着火…シェア4割受け引き上げ案に業界懸念(2024.08.26)
- 対話型テキストメッセージの禁煙介入、青少年の禁煙率を上昇/JAMA(2024.08.19)
最近のコメント