狭まる禁煙包囲網、すかいらーくも「敷地内全面」で
ファミリーレストラン最大手のすかいらーくホールディングスは、2019年9月までに約3200あるグループの全店で、全面禁煙に踏み切る。
20年4月に全面施行する改正健康増進法では、不特定多数が出入りする施設での受動禁煙対策を求めている。飲食店では、店内で喫煙を認める場合、喫煙ブースの設置が義務付けられる。「アイコス」などの加熱式たばこの場合は、ブース内であれば喫煙しながらの飲食も可能だ。しかし、すかいらーくは改正法より厳しい、敷地内での全面禁煙を決めた。
加熱式たばこを含めて店内は全席禁煙にし、喫煙ブースも設けない。「ドアの開け閉めの際に臭いがどうしても漏れるため、気にするお客様がいる」(同社)ためだ。10万人いるパート・アルバイト従業員のうち3割が、改正法で喫煙ブースへの立ち入りが禁じられる20歳未満。喫煙ブースを設ければ、設置にコストがかかるだけでなく、オペレーションや人繰りにも支障を来すと判断した。
店内だけでなく、敷地内での喫煙も一切禁止する。一部の店舗で設置している灰皿は撤去。利用者には、駐車場での車中以外での喫煙なども遠慮してもらう。
ここまで徹底するのは、「短期的には喫煙者が離れて客数が減る可能性はあるが、家族連れなどの評価が高まり、前向きな効果が期待できる」(同社)という勝算があるからだ。全面禁煙化を発表した3月20日から、お客様相談室に発表内容に関する反応が20件余り寄せられたが、そのほとんどが肯定的な意見だったという。
大手外食チェーンでは「全面禁煙化」の流れがほぼ固まってきた。先駆けは14年に全店で全面禁煙に踏み切った日本マクドナルド。その後、日本ケンタッキー・フライド・チキンが全面禁煙化した。ファミレスでも、サイゼリヤが昨年7月に約3割の店で全面禁煙にし、9月までに全店に広げることを決めている。
すかいらーくはここ数年、ガストやバーミヤンなどの業態で、居酒屋需要を取り込むために、低価格のアルコールやおつまみのメニューを充実させてきた。国内の喫煙率は既に2割を切っているが、居酒屋の利用客は3割が喫煙者とされ、全面禁煙化すれば客足への影響も見込まれる。
それでも昨年6月にほぼ全店で全面禁煙に踏み切った居酒屋大手の串カツ田中ホールディングスは、家族客の増加によって、足元の既存店売上高は前年を上回っている。すかいらーくの敷地内全面禁煙化の決断の背景には、こうした大手各社の動きがあった。
改正法は飲食店での喫煙自体を禁じるわけではない。ただ、喫煙ニーズを取り込むことで業績を伸ばしてきた喫茶大手ドトールコーヒーは、月次の既存店売上高が1年余りの間、ほぼ前年割れを続けている。「分煙されていても煙の臭いが気になる」(30代女性)との声が強く、嫌煙派の増加が減収の一因になっているようだ。
大手チェーンの多くが全面禁煙化に乗り出せば、日本の飲食店の“常識”が覆る日は近いかもしれない。改正法では、中小企業や個人が経営する客席面積100平方メートル以下の飲食店は、規制を猶予しており、20年4月以降も喫煙ブースを設置しなくても店内で喫煙できる。ただ、20歳未満は客・従業員とも原則立ち入れなくなる。こうした店は、国内飲食店の55%程度に達するとみられる。
だが、大手チェーンの取り組みで利用者にとって店内禁煙が常識になれば、喫煙可能な飲食店への風当たりがさらに強まる可能性がある。喫煙者ばかりが集まる店というイメージが定着すれば、非喫煙者を呼び寄せるのは難しくなるかもしれない。たばことどう向き合うか――。規模の大小にかかわらず、日本のすべての飲食店が課題を突きつけられている。
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