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増える「嫌煙」企業。就業中の全面喫煙禁止や喫煙者不採用は妥当なのか?

増える「嫌煙」企業。就業中の全面喫煙禁止や喫煙者不採用は妥当なのか?

喫煙への規制が強まる中、社員に禁煙を求める企業が増えている。ソフトバンクは3月19日、就業中の喫煙を段階的に禁止すると発表した。今年4月から毎月最終金曜日のプレミアムフライデーを禁煙にし、10月からは毎週水曜日の定時退社日も禁煙とする。さらに2020年4月からは全面禁煙にするという。就業中は外出先も含め禁煙だが、休憩時間の喫煙までは制限しない。

◆「たばこは法律で規制されているわけでもないのに……」

 同社では現在、事業所内に喫煙所があり、喫煙が認められている。しかし2020年10月の新社屋への移転をめどに全国の事業所内の喫煙所を撤廃するという。

 同社の広報担当者は、「社員の健康管理を目的として、就業中の禁煙に踏み切ることにしました。約2年前から進めてきた、働き方改革や健康経営の取り組みの一環です。現在のところ、社員から不満は出ていません」と話す。

 同様の制限を設けているのがローソンだ。2017年6月から本社と地域の事業所を終日禁煙とし、勤務時間中は外出時も含めて禁煙だという。ただし加熱式たばこは規制の対象外だ。

 こうした規制を歓迎する人も少なくない。たばこを吸わない人の中には、喫煙者からするたばこの匂いを苦手に思っている人もいるだろう。喫煙者だけがたばこ休憩を取れるのは不公平だと感じている人も多い。

 しかし、喫煙文化研究会の山森貴司さんは、「たばこは法律で禁止されているわけでもないのに、過度に規制されているように感じる」と話す。

 喫煙者だけがたばこ休憩を取るのは不公平だという意見にも懐疑的だ。

「たばこを吸わない人の中には、喫煙者がたばこ休憩を取るのがずるいと感じる人もいるようです。しかし人によっては、たばこを吸いながらPCで仕事をするという人もいます。それにたばこを吸うと、ニコチンの薬理効果で脳が刺激され、気分転換できることがわかっています。むしろたばこ休憩を取ったら、その後集中力が上がるのではないでしょうか。

また、たばこ休憩は取らなくても、コーヒーを淹れたり、お菓子を食べたりする人はいるのではないでしょうか。仕事中のちょっとした休憩を切り詰めていったら、昼休み以外は一切の気分転換ができないということになりかねません。最悪、トイレ休憩ですら上司の許可が必要ということになりかねないと思います」

 近年、サンドハード・スモークの危険についても指摘されるようになってきた。喫煙者の服や髪に付着したり、呼気に含まれていたりする有害物質によって、受動喫煙の被害が生じる可能性があるというのだ。

 この考え方に基づいて、受動喫煙対策を導入した自治体もある。奈良県生駒市では昨年4月から、喫煙した職員は45分間エレベーターを使うことができなくなった。周囲の人が、喫煙者の呼気に含まれる有害物質を吸い込まないようにするためだ。

 こうした流れに対し山森さんは、「センシティブになりすぎだ」と指摘する。

「サードハンドスモークって実証されているんでしょうか。少しセンシティブになりすぎではありませんか。そんなことを言い出したら、外で排気ガスを吸ってきた人の呼気には有害物質が含まれているのではないでしょうか」

◆加熱式たばこなら匂いも低減

 フィリップモリスインターナショナル(PMI)によると、「IQOS(アイコス)」は従来の紙巻たばこに比べ、有害物質を9割も削減できているという。ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)も同社の「glo(グロー)」が有害物質を9割減、日本たばこ(JT)も「Ploom TECH(プルームテック)」では有害物質が99%減少したと謳っている。

「本当に有害物質を9割以上カットできているのか疑問の余地はあります。しかし匂いもせず、有害物質が少ないのであれば、加熱式たばこが規制されるのはおかしいと思います。こうしたものを規制するのは、企業の独善だと言わざるを得ないでしょう。私は自宅でプルームテックを吸ったことがありますが、ほとんど匂いがしませんでしたよ」
喫煙者を採用しない星野リゾート

 ソフトバンクやローソンよりも徹底しているのが、全国に旅館やホテルを展開する星野リゾートグループだ。同社では喫煙者を採用しておらず、現在喫煙している人に対しては、入社までに禁煙するよう求めているという。喫煙者が仕事中に何度も喫煙していると作業効率が落ちるだけでなく、喫煙者だけに頻繁な休憩を認めるのは不公平だからだという。(参照:ねとらぼ)

 山森さんは、「民間企業がどのような人を採用するのかは自由です。ただ、喫煙者を採用しない、入社までに禁煙を求めるということは、従業員の勤務時間外の行動まで制限するということになります。それは働く人の自由を奪うものではないでしょうか」と話す。

◆「健康でいろ」は余計なお世話

 喫煙への規制が進む背景には、健康意識が高まり、受動喫煙の害が広く知られるようになってきたことがある。昨年7月には、受動喫煙対策を強化した改正健康増進法が成立した。これを受けて、2019年7月には官公庁や学校、病院の敷地内が禁煙となり、2020年4月にはホテルや飲食店でも屋内禁煙となる。

 そもそも健康増進法は、国民に健康維持を求めるものだ。しかし誰しもが健康でいるべきなのか、そもそも健康とはどのような状態なのか、疑問は残る。

「健康でいることを義務付けられるなんて、余計なお世話だと思いませんか。私たちには不健康でいる自由があります。『愚行権』という言葉にもあるように、たとえ健康を害するとしても、たばこを吸う自由があるはずなんです。長生きしたい人は健康な生活を送って長生きできるようにすればいいけれど、大して長生きしたくないという人は怠惰な生活を送ってもいいじゃないですか」

 もちろん健康増進法には、疾病を防ぐために、生活習慣の改善を促すという意義がある。疾患の予防ができれば、医療費の抑制にもつながる。しかし、そうした事情があるにしても、個人の自由、それがたとえ「不健康になる自由」だとしても、国家や企業が干渉しても良いのかどうか。今一度考えてみる必要があるのではないだろうか。

<取材・文/中垣内麻衣子>

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