メディアが書けない!?タバコ問題 巨大な利権が国民の生命を損なう
日本全国のコンビニエンスストアには、タバコ会社が作った加熱式タバコの広告看板が立ち並び、加熱式タバコのパンフレットであふれています。
これは、世界の中で、日本だけで起きていることだと知っているでしょうか?
日本は新型タバコの実験場になっている
2014年に日本とイタリアの一部の都市限定で加熱式タバコ・アイコスの販売が開始され、2016年に世界で初めて日本が全国的にアイコスを販売している国となりました。そして、2016年10月時点で日本がアイコスの世界シェアの96%を占めたのです。アイコスのほとんどすべてが日本で使われているのです。すなわち、日本が新型タバコの実験場になっているのです。
新型タバコに関する情報は、タバコ会社が提供するものしか出回っていません。そのため、多くの人はタバコ会社の言うことをそのままに受け止めてしまっているようです。
タバコ問題の本が出版されにくい理由
拙著「新型タバコの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学」が2019年3月12日に発売されたことについて、これは奇跡的な出来事だと受け止めています。
この本は、新型タバコ問題だけでなく、日本におけるタバコ問題の闇を話題にしています。私は本書において、「日本だけで広く普及してしまった加熱式タバコは、吸っている本人に対して、紙巻タバコとほとんど変わらない害があるだろう」と客観的で科学的なエビデンスに基づき予測しました。
日本では、一般人を対象としたタバコ問題を伝える本が出版されることはめったにありません。それは、なぜでしょうか?
その理由の一つは、日本には元国営企業のJT(日本たばこ産業株式会社)という会社があることです。現在もJTの筆頭株主は財務省(財務大臣)で、およそ3分の1の株式を保有しています。JTは毎年、テレビ局や新聞社、雑誌など主要メディアに多額の宣伝広告費を落としており、メディアにタバコ問題の取り上げ方に関して忖度するよう求めています。(1,2)
日本で初めてとなる受動喫煙防止条例を制定した元・神奈川県知事で現・参議院議員である松沢成文さんの著書『JT、財務省、たばこ利権 日本最後の巨大利権の闇』(2013年)には『本書の出版を大手出版社数社に打診したところ、「当社では雑誌も抱えており、JTさんには広告スポンサーとして大変お世話になっているので、たばこ規制強化を訴える本の出版は難しい」と断られた』と書かれています。
今回の私の出版企画についても、タバコ会社からの広告が多く掲載された雑誌を運営している大手出版社からは「反応が鈍かった」と聞きました。そんななかで、内外出版社が出版することにGOサインを出してくれました、その決断に心から感謝しています。せっかく出版することができましたので、少しでも多くの人に届けたいと思っています。
タバコ問題を理解してもらうプロジェクト開始!
タバコ対策における優先するべき政策として、「タバコ税増税を含むタバコ値上げ」および「屋内禁煙化」があります。(3) これを推進するためには、タバコ問題について広く国民に理解してもらわなければなりません。
日本人が死亡する原因のうち、最も多い原因がタバコだとわかっています。日本人の死亡に関連している変えることができる原因のうち、「タバコを吸うこと」と「高血圧」がダントツの1位と2位でした。(4) 人のいのちを大切にするために最も優先するべき対策の1つがタバコ対策なのです。
そのため、私が取り組むべきものは、「タバコ問題について広く国民に理解してもらうプロジェクト」だと考え、私の活動、研究、広報、連携等をデザインして展開してきました。これまで、私はタバコ問題に関する疫学研究を実施し、その成果についてメディアを通じて、社会の人に幅広く届けるということを実践してきました。この取り組みは「タバコ問題について広く国民に理解してもらうプロジェクト」の一環のものです。
日本ではこれまで、喫煙に関する研究として、喫煙の健康影響に関わる観察的な疫学研究が主体であり、国レベルでのタバコ政策を評価した研究はほとんどありませんでした。私は、主要なタバコ政策であるタバコ値上げや屋内禁煙化の政策に関して、政策の効果を評価する実証研究を実施し、論文としてまとめ発表してきました。(5-7)
それらの研究成果について多くの新聞で取り上げていただきました。おかげさまで、把握できているだけですが、2018年の1年間で新聞の記名記事として97紙(全国紙7件、地方紙90件:地方紙は主に共同通信社配信記事)に掲載していただきました。
タバコ対策の世界的権威であるサイモン・チャプマン氏は、住民からの理解を得てタバコ対策を推進していく上で「論文よりも新聞報道がありがたかった」と発言をしています。(8,9)新聞報道は、重要なタバコ政策である「脱タバコ・メディアキャンペーン」としても機能するのです。脱タバコ・メディアキャンペーンの詳細については、いわゆるタバコ白書(10)を参照してください。
しかし、新聞による情報の伝達にも限界があります。新聞を取っている人にしか情報を届けることができません。
日本全国の出版社や書店のネットワークで健康増進活動
そこで、今回の拙著の出版をキッカケとして、「タバコ問題について広く国民に理解してもらうプロジェクト」の一環として「各地の主要な書店に拙著『新型タバコの本当のリスク』を並べてもらうプロジェクト」を実施したいと思います。
日本全国の出版社や書店のネットワークを活用し、書籍を届けることによって、新聞とは異なるルートで国民にアプローチして、タバコ問題について理解してもらうプロジェクトです。新聞の場合には、既に多くの人がその新聞を購読していますので、記事にさえなれば一定程度の人には伝えることができるものと考えられます。しかし、書籍ではそうはいきません。人々が本書を手に取ってもらわなければ、知ってほしい情報を伝えることができません。なんとかして各地の主要な書店に本書が並ぶようにしたいと考えています。
私が個人的に書店を回ってみた経験では、書店員さんは懐が広く、いろんなことを知っていて、面白い人が多く、丁寧に話を聞いてくれるという印象でした。もちろん忙しそうなときには遠慮し、無理はしません。書店員さんと話をするだけでも楽しいというのが素直な感想です。
例えば、2月末には、八重洲の大型書店にアポなし訪問して、医学書担当の書店員さんに拙著について説明させてもらいました。本書には類書がないこと、新型タバコ問題やタバコ会社のマーケティングに関するノンフィクション本でもあること等を伝えたところ、書店員さんはとても熱心に話を聞いてくれました。さらに、本書をきっかけにしてタバコ問題の重要性に気付いてもらうキッカケとできると考えており、できるだけ多くの人に読んでほしい、本書を置いてもらうことは書店とともに進める健康増進活動なんだと考えていると伝えたところ、書店員さんは理解を示してくれて、例え配本がなかったとしても本書を書店に置くように手配すると約束してくれました。書店員さんには、急に訪れたよく分からない本の著者の長話に付き合い、理解を示していただき、本当にありがたいことです。
このプロジェクトは、日本全国の賛同してくださる皆さんとともに書店で営業活動を行い、タバコ問題について広く国民に理解してもらうプロジェクトです。
すでに、日本全国の多くの方が、このプロジェクトへの協力を表明してくださっています。本当にありがとうございます。とても励みになります。このプロジェクトは拙著についてのものとしていますが、今後、他の社会的意義の高い書籍等に対しても応用が可能だと考えています。
このプロジェクトについて皆さんから率直な意見や感想がいただけますと幸いです。適時改訂・修正して活動を続けていきたいと考えています。
残念ながら、日本社会はタバコに対して非常に寛容です。そんな中で、タバコ対策を進めるのは、ただでさえ大変です。だからといって、われわれはタバコ対策をあきらめるわけにはいきません。人のいのちを大切にするために、タバコ対策は優先順位の最も高い政策の1つだと分かっているのですから。
人を大切にするための第一歩として、まずはタバコのない社会の実現を目指して活動していきたいと考えています。皆さんと協働して励ましあって前に進んでいければと考えておりますので、引き続き、よろしくお願いいたします。
(※ここでの「タバコのない社会」とは十分に喫煙率が低いことを指しており、ゼロリスクを求めているのではありません。あしからず。)
(文=田淵貴大)
※参考文献(1~10)
1.田淵貴大. 東京を禁煙都市にする国民運動リレー情報9:社会はいかにタバコ産業に歪められているか 世論時報 49 (6): 14-19. 2016. https://www.dropbox.com/s/1nk0ovrv4k6hfk1/%E4%B8%96%E8%AB%96%E6%99%82%E5%A0%B16%E6%9C%88%E5%8F%B7%E2%91%A8%E7%94%B0%E6%B7%B5%E8%B2%B4%E5%A4%A7.pdf?dl=0 (accessed 27 February 2019).
2.JTと電通が露骨な「報道操作」 三万人のための総合情報誌『選択』 7月号. 2016. https://www.sentaku.co.jp/articles/view/16030 (accessed 27 February 2019).
3.Joossens L, Raw M. The Tobacco Control Scale: a new scale to measure country activity. Tob Control 2006; 15(3): 247-53.
4.Ikeda N, Inoue M, Iso H, et al. Adult mortality attributable to preventable risk factors for non-communicable diseases and injuries in Japan: a comparative risk assessment. PLoS Med 2012; 9(1): e1001160.
5.GBD 2017 Risk Factor Collaborators. Global, regional, and national comparative risk assessment of 84 behavioural, environmental and occupational, and metabolic risks or clusters of risks for 195 countries and territories, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017. Lancet 2018; 392(10159): 1923-94.
6.Tabuchi T, Fujiwara T, Shinozaki T. Tobacco price increase and smoking behaviour changes in various subgroups: a nationwide longitudinal 7-year follow-up study among a middle-aged Japanese population. Tob Control 2017; 26(1): 69-77.
7.Tabuchi T, Hoshino T, Nakayama T. Are Partial Workplace Smoking Bans as Effective as Complete Smoking Bans? A National Population-Based Study of Smoke-Free Policy Among Japanese Employees. Nicotine & tobacco research : official journal of the Society for Research on Nicotine and Tobacco 2016; 18(5): 1265-73.
8.Chapman S. Public Health Advocacy and Tobacco Control: Making Smoking History. Oxford, UK: Blackwell Publishing Ltd; 2007.
田淵貴大(たぶち・たかひろ)
大阪国際がんセンター
がん対策センター疫学統計部 副部長
医療ガバナンス学会発行「MRIC」2019年3月22日より抜粋転載
全文はhttp://medg.jp/mt/?p=8922
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