「マリファナ」と呼ばれる植物の謎が、ついに明らかに?:WIRED GUIDE カンナビス編
「マリファナ」と呼ばれる植物の謎が、ついに明らかに?:WIRED GUIDE カンナビス編
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2019.05.25 SAT 11:00
米国での合法化が進み、これまで科学が触れられなかった「カンナビス」──またの名をマリファナという植物の謎が少しずつ明らかになっている。研究が進むにつれてカンナビスの情報が専門的なものになるなか、その「現在」と「問題点」を見失わないために、古代中国での活用法から高度なハイテク施設で実験が進められる現在まで、カンナビスの今昔、未来を『WIRED』US版が案内する。
人類はカンナビスをどう扱ったらいいのか、決めきれないでいる。
何千年ものあいだ、人類はカンナビス[編註:大麻、マリファナとも呼ぶ]を医薬として、また精神をトリップさせるものとして用いてきた。(19世紀に植民地のインドでカンナビスの使用を禁止した英国は例外だ)。そして20世紀に入ると、米国政府はカンナビスとの戦いを宣言し、世界の大半の国がそれに追随することとなった。
しかし今日の米国では、連邦政府がカンナビスをヘロインと同じ「スケジュールI(医療的メリットのない極めて危険な薬物)」の指定薬物としていることに対し、いくつもの州が異議を唱えるようになった。連邦議会でもエリザベス・ウォーレン上院議員らがカンナビス使用を合法化するべく活動している。
事実、カンナビスは多くの病気の治療に用いることができ、アルコールよりもはるかに安全であることを科学者が証明している。曲がりくねったカンナビスの旅もようやく核心的真実にたどり着いた。それは、人間を苦しめる病気を治す強力な薬になるということだ。
ひどく偏ったかたちで、黒人たちを主なターゲットとして行なわれてきた米国政府とカンナビスとの戦いだったが、政府はようやくその戦いが、バカげた勝ち目のないものであるという事実をようやく認めた。
カンナビスはいまだに謎の多い薬物だ。その根本理由は、アルコールのように比較的単純な薬物とは違い、カンナビスにはTHC(テトラヒドロカンナビノール)など数百種の化学物質が含有されていていること。そして、それらの相互作用を科学者は解読し始めたばかりだということにある。
とはいえ、カンナビスの利点はそこにこそ隠れているのだ。いまやカンナビスに関する知識は、専門的なものになりつつある。そこで、みなさんがこの知識の霧から抜け出せるよう、『WIRED』が案内しよう。
古代中国の三皇五帝も求めた「薬効」
カンナビスの原産地は中央アジアだと考えられており、人類が栽培した最初の植物のひとつだとも言われている。精神に作用する魅力に加えて、カンナビスの栽培者たちは栄養豊富な種子を食べ、その繊維を縄にした(現在では向精神作用のあるTHCをほとんど含まない種類の麻からロープがつくられており、麻の繊維は建材にも利用されている)。
わたしたちの祖先は、カンナビスのいくつかの薬理作用に気づいていた。古代中国における伝説の三皇五帝のひとりである神農は、病気の治療のために麻から酒をつくることを勧めたと伝えられている。カンナビスの豊かな歴史をもつインドでは、数千年ものあいだ、霊的な助けを与えてくれる道具として使われていた。
鉄と石により巨大国家が築かれるようになってからも、カンナビスは不可欠な作物だった。例えば古代ローマでは、麻を材料としたとても丈夫な帆やロープがなければ、帝国を支える海軍力をもてなかったはずだ。大英帝国やスペインも同じで、麻の索具装置を用いたことで世界に領土を広げることができた。かのジョージ・ワシントンも、カンナビスを栽培していたという。
そのあいだもずっと、人類はカンナビスがもつ精神をハイにする作用を忘れたことはなかった。メキシコは1900年代初めに、向精神性のある種を栽培する一大生産地となり、カンナビスは国境を越えて米国に運び込まれた。このため米国は1937年に「マリファナ課税法」を制定し、事実上カンナビスを非合法化した。そして70年には規制物質法で、カンナビスをスケジュールIの薬物に分類して、悪魔そのものとみなしたのだった。
政府の独占と研究者との闘い
禁酒法のときと同じで、カンナビスの使用を禁じたところで地下に追いやっただけだった。これに関しては、カンナビス栽培のメッカである北カリフォルニアが有名である。この数十年のあいだ、栽培者は荒野に身を潜めながら、米国で消費される国内産カンナビスの推定4分の3を生産してきた。栽培者たちはTHC含有率の高い株を選び、品種改良を続け、数十年前には花のTHC含有率が平均5パーセントだったものを25パーセントに引き上げ、さらには30パーセントにまで高めることに成功したのだ。
北カリフォルニアのカンナビス栽培者は栽培に長けているところを見せつけはしたが、カンナビスという植物はいまだに謎に満ちたままだ。その理由は、スケジュールⅠの薬物を研究することがとても難しいことにある。
例えば2016年まで、米麻薬取締局(DEA)は研究用カンナビスの公的供給を独占していた。ミシシッピ大学にある、ひとつの農園に許可を与えてカンナビスをつくらせていたが、それはもう質が悪く、市場に出回らない水準の代物だった(使用者が知るカンナビスとは見た目も匂いも異なる劣悪さだ)。
しかし、規制の壁は壊れつつあり、科学界はそれを歓迎している。
解くべきは化学物質の組み合わせが及ぼす作用
歴史を振り返ってみても、人類はきちんとした科学的研究によって効果を確認することなくカンナビスを薬として使ってきた。コンゴ川流域に住むアカ族は、腸内寄生虫を寄せつけないためにカンナビスを使っている。痛み止めの効果があるとも言われている。
合法化する州が増えるにつれ、研究者たちはカンナビスにアクセスしやすくなり、こういった効用を調べられるようになった。すでに緑内障や炎症などの治療薬となることはわかっている。それでも、カンナビスのさまざまな化学物質がどのように相互作用するのかは、まだよくわかっていないため、医学への利用は手探りで進められている状況だ。
マリノールという薬を例にとってみよう。THCの合成型であるこの薬は、吐き気と食欲不振の治療に使われる。しかし、これらの症状を確かに改善する一方で、妄想などのひどい副作用ももっている。THCとCBD(カンナビジオール)を混ぜたサティベックスという薬ならば、そのひどい副作用が出る可能性は低いようだ。
つまり、カンナビスから医薬品を開発する際には、どの化学物質に治療効果があるのかだけでなく、化学物質を組み合わせた場合にどんな作用があるのかを見極めなければならない。
依存症は防げるのか?
CBDは万能薬だという話をあなたは聞いたことがあるかもしれない。いまやCBDはスキンクリームにも入っているし、うつ病の治療薬として、もてはやされてもいる。とはいえ、カンナビスが禁止薬物であるため、それを裏づける研究はない。
もちろん、CBDが不安や炎症を抑える可能性を示した研究はあるものの、まだ十分とは言えず、確たる証拠にはほど遠い。効果的なCBDの分量もわかっていないし、吸入と経口のどちらがいいのかも、ほかのカンナビノイドから分離して単体で使うのがいいのかもわかっていない。
これらの重要な問題に科学が答えを出すことや、カンナビスを広く医療用に使おうという試みに、厳格な規制が手かせ足かせとなっている。その規制が生むのは、ほとんどコメディのようなものだ。政府が供給する研究用カンナビスの質があまりに悪いので、研究者はカンナビス使用者の家までクルマを走らせて、研究に使える良質な草を買っているのだ。
研究が増えれば、カンナビスの害についてもわかってくる。ほかの薬と同じように、マイナス面もある。そのなかでもいちばんの心配は、大麻使用障害(CUD)、つまり依存症だ。複数の研究が、使用者の9パーセントがCUDになると推算し、依存症になる人が増えていると示唆している。
それは、実際には9パーセントという数字よりもCUDになる確率が高いからかもしれないし、単純にカンナビスによる治療を受ける患者数が増えているからかもしれない。どのような人にリスクが最も高いのか、リスクを下げるにはどうすればいいのか、依存症患者をどう治療するのかベストなのか、さらなる研究が求められている。
複雑な化学構造
カンナビスは大きくわけてインディカ種とサティバ種があり、愛好家はその違いについて熱く語る(前者はリラックス効果が高く、後者は気分高揚効果にすぐれている)。両種はさらに細かく、パープルクッシュやラムズブレッドなど多くの種類にわかれていて、それぞれに特徴があるとされている。それらの違いはハイになる強度だけでなく、活力を与えるのか鎮静作用なのか、精神と体のどちらに効くかといった効果の組み合わせによる複雑な違いもあるという。
だが、カンナビスを種類分けすることは、ほとんど意味がないと科学は示している。18年のある研究で、研究者は薬局を回って、30種類ものカンナビスを集め、その遺伝子を調べた。その結果、ラベル通りの遺伝子をもつものはほとんどなかった。さらにそれらは、インディカ種とサティバ種のどちらにも当てはまらないものだった。
調剤師が「インディカはリラックス効果があり、サティバは気分を高揚させる」などと違いを主張したところで、サンプルが示すのは、そのどちらでもなく、新しい遺伝子グループ2つのうちの1つに適合するものだったのである。つまり、カンナビスの化学構造はあまりに複雑で、インディカとサティバをきれいに分けることなどできない、ということなのだ。
カンナビスに含まれる化学物質は数百種類にも及ぶが、それは科学者がこれまでに確認できた数にすぎない。わたしたちの知るカンナビノイド(カンナビスに含まれる化学成分の総称)には、THCの効果を弱める働きをしているであろうCBDや、カンナビスに独特の香りを与え、脳をハイにする一翼を担っているであろうテルペンがある。
単一ではなく複数のカンナビノイドの組み合わせで効果を得ることを「アントラージュ(もしくはアンサンブル)効果」と呼ぶ。THCは単体ではなく、カンナビス内のほかの化学物質と相互作用することで、精神をハイにしているのだ。
カンナビスの花冠をたばこにして吸うのと、電子たばこで蒸気を吸うのとで気分が異なる理由は、おそらくここにあるだろう。電子たばこの蒸留油にはTHCが多く含まれているはずだが、そこにCBDを加えると、ハイになる強度を抑えることができる(ちなみに、カンナビスを食べたときの効果はとりわけ強い。その理由は食べるとなるとCBDがない状態でTHCを摂取することになるということと、THCが体内の消化システムを通ると「11-ヒドロキシ-THC」という肺でTHCを摂取するときの5倍もの強度をもつ化学物質に変化するということにある)。
なぜCBDがTHCを抑制するのだろうか? それは、両者が似たような構造をもっているからだ。CBDとTHCを摂取すると、CB1という内因性カンナビノイドシステムの受容体と結合する。THCは受容体を活性化させるが、CBDは活性化させない。CBDがそこに居座ることで、THCが受容体に結合して、気分をハイにするのを抑えるのだ。
広がる新たなムーヴメント
科学は人体におけるカンナビノイドの相互作用を少しずつ解明しているが、それに加えて、室内でカンナビスを栽培する新しい世代が、これまでのオタクたちを上回る熱心さで実験を進めている。植物の遺伝子は、たくさんある環境因子のどれに作用させるかを決めているにすぎない。このため、高度にハイテク化された施設で栽培者たちは、照明や栄養、水などの生育条件を微調整して、同一の遺伝子をもつ木から異なる化学種を生み出そうとしている。
その試みは、カンナビスに含まれるテルペンやカンナビノイドの量を操作することも可能にする。この点は、ほかの植物となにも変わらない。あなたが裏庭でつくるトマトだって、水と日光と栄養が正しいレヴェルになっていなければ、丈夫に大きく育たないはずだ。
オレゴン州のポートランド州立大学の研究チームは、土地がワインの味を決めるように、カンナビスの特徴も土地によって決まるのだという考えを試している。同一の遺伝子をもつカンナビスの木を、同じ気候だが土壌の異なる農家に配って育ててもらったのだ。同じ木から、カンナビノイドとテルペンのレヴェルが異なる木に育つなら、土壌が重要な役目を果たしていることを意味し、すでに複雑な植物にさらなる複雑な要素が加わることになる(その研究結果はまもなく出る)。
微妙な違いを明らかにするこうした研究は、合法なカンナビス市場の変化を促すだろう。また、嗜好用のカンナビスが合法化されれば、資金の豊富な大企業も参入してくる。そうなれば、既存の市場は壊されることになるだろう。大企業が巨大な屋内施設で平凡な草を大量に生産する一方で、小規模の栽培者は腕によりをかけて職人技の光る草をつくって立場を確保しようとするはずだ。
例えば北カリフォルニアでは、メンドシーノ郡特有の土地や天気の特徴を活かして、世界にふたつとない特別なカンナビスをつくる「メンドシーノ原産地証明プロジェクト」が行なわれている。その「違い」の多くはいまのところ、裏づけの乏しい主張にすぎないが、ポートランド州立大学などが主張を裏づける研究データを提供しはじめている。
カンナビスに関する知識がこれから増えゆく一方だということは、嬉しい知らせだ。研究は盛んに行われ、合法のカンナビス産業は急発展している。そしてまもなく、世界で最も謎に満ちた植物のひとつであろうカンナビスの秘密が、明かされようとしているのだ。
カンナビス用語集
・Cannabinoids|カンナビノイド
カンナビスのもつ化学物質で、人体にある内因性カンナビノイドシステムにある受容体と結合するもの。向精神作用のあるTHCや、向精神作用のないCBDなどがあり、その種類の数はわかっているだけでも数百以上にのぼる。
・Chemotype|化学種
それぞれのカンナビスの木に固有の化学組成のことで、遺伝子と環境因子によって特徴づけられる。研究者たちはいま、特定の化学成分を出現/抑制させるために、光や土壌などの条件を微調整することを試している。
・Hemp|麻
THCをほとんど含まない種のカンナビス。その非常に強い繊維を活かしてロープなどがつくられている。
・Marinol|マリノール
吐き気や食欲不振などの治療薬として用いられるTHCの合成型。同系統の薬にサティベックスがあり、それにはTHCの向精神効果を抑えるためのCBDが含まれている。
・Terpenes|テルペン
カンナビス独特の香りを生む化学物質。ただし、テルペンはカンナビスだけでなく、シトラスなどほかの植物にも含まれている。揮発性物質であるテルペンを含む植物は、虫除けのためにこの物質を使っている。
・The Entourage Effect|アントラージュ効果
裏づけに乏しいものの(データは揃いつつあるが)、異なる化学物質を組み合わせることで、カンナビスの効果が高まるという理論。ある研究では、THC単体では妄想を引き起こすリスクがあるが、CBDと組み合わせることで精神への作用を弱められることがわかっている。
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