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医学博士の直言「加熱式タバコなら安全」なんてもう言わせない

医学博士の直言「加熱式タバコなら安全」なんてもう言わせない

https://ironna.jp/article/12533

2019/05/10

田淵貴大(医師・医学博士)
(内外出版社『新型タバコの本当のリスク』より)
 日本全国のコンビニエンスストアには、タバコ会社が作った加熱式タバコの広告看板が立ち並び、加熱式タバコのパンフレットがあふれている。
 ご存知だろうか、これが、世界の中で、日本だけで起きている現象だということを。2014年に日本とイタリアの一部の都市限定で加熱式タバコ、アイコス(IQOS)の販売が開始され、2016年に世界で初めて日本が全国的にアイコスを販売している国となった。
 そして、2016年10月時点で日本がアイコスの世界シェアの96%を占めた。ほとんど全てのアイコスは、ここ日本で使われている。すなわち、日本が新しいタバコ、新型タバコ、加熱式タバコの実験場になっているのだ。
 加熱式タバコに関する情報は、タバコ会社が提供するものしか出回っていない。そのため、多くの人はタバコ会社の言うことをそのままに受け止めてしまっている。実は、タバコ会社は意図的に、加熱式タバコには害がないと誤解させるようなプロモーション活動を行っている。
 それで、多くの人がまじめな顔で、「加熱式タバコにはほとんど害がないんですよね?」とか「加熱式タバコなら子どもの前で吸っても安全ですよね?」などと筆者に質問を寄せてくる。あまりにも多くの人が誤解させられている事態に筆者はショックを受けた。
 これまでの加熱式タバコに関する情報のほとんどは、タバコ産業が発表したものだ。「このタバコの新製品は、今までのタバコ製品と違ってクリーンで害が少ない」と。このタバコ会社からのメッセージは、決して目新しいものではない。タバコ会社は、これまでもずっとタバコを少し改変しては、同じメッセージを繰り返し発表してきた。過去には、タールの少ないタバコが発売された。人々はタールの少ないタバコのほうが安全だと信じたが、タールの少ないタバコも従来のタバコと害は変わらなかったのだ。
「glo」の記者説明会で発表するブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンのロベルタ・パラツェッティ社長=2017年5月30日午後、東京都千代田区
「glo」の記者説明会で発表するブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンのロベルタ・パラツェッティ社長=2017年5月30日午後、東京都千代田区
 現在のところ、アイコスやプルーム・テック(PloomTECH)といった加熱式タバコ製品が今までのタバコ製品よりも害が少ないという証拠はない。それどころか、加熱式タバコから出る有害物質など加熱式タバコの有害性に関して科学的に吟味された学術論文が次々に発表されてきているのだ。徐々に、加熱式タバコについて判断を下すための資料、科学的根拠、疫学データ等の情報が集まってきている。社会は成熟してきている。
 筆者の子ども時代や社会人になったばかりの頃の社会と比べて、現在の日本社会はルールや規範がより整い、成熟してきていると感じている。他人のタバコの煙を吸わされることによる健康被害の問題、すなわち受動喫煙の問題についても社会は一歩一歩改善してきている。
 子どもの頃に乗った新幹線の自由席は、タバコの煙が充満していて、煙たく、喉がイガイガして気持ち悪くなり、目も痛くなり、つらかった記憶がある。今でも一部、喫煙車両が運行されているが、禁煙の車両を選べば、タバコの煙に悩まされることは格段に少なくなった。まだまだ受動喫煙の対策は不十分だという声があちこちから聞こえてきそうだが、2018年には改正健康増進法が可決され、日本社会も受動喫煙を防止する社会へと確実に舵(かじ)をきっているのである。
 そんな中で、日本では新型タバコ問題が突如として現れた。タバコ問題に取り組んできていた我々が一切関知しない状態で、新型タバコである加熱式タバコのプルームおよびアイコスが日本で発売されたのである。単にタバコ会社は、新しいタバコの銘柄の発売を開始するのと同じように、いつも通りに財務省に加熱式タバコの発売を申請し、承認されただけなのだ。
 しかしその時点では、その加熱式タバコは世界中のどの国でもまだ発売されていない、紙巻タバコとはかなり違ったタイプのタバコであり、おそらく誰にもそれを簡単に許可すべきか否か判断はつかないはずのものであった。それでも日本では簡単に発売が開始されている。
 発売の承認にあたり、何らかの議論があったという話さえ聞こえてこなかった。おそらく今までにも販売されたことのある電子式のタバコ製品の一種ということで、簡単に認可されたのだろう。今までの電子式のタバコ製品と同様に、たいして売れない、と考えられたのかもしれない。
 ところが、今回の新型タバコはブレークした。これには財務省も驚いたことだろう。加熱式タバコではたばこ税の計算方法もうまくバランスがとられていなかった。売れるとなると税収の面で大きな違いが出てくる。すぐに税制は変更され、加熱式タバコという新しいカテゴリーが作られた。
 成熟してきていた日本社会にあって、突如として出てきた新型タバコ、タバコ会社も加熱式タバコがブレークするとは予想していなかったかもしれない。それは加熱式タバコのブレーク当初、しばらく品薄状態が続いたことからもわかる。
 新しい未知の問題に対して、我々はどのように取り組むべきなのか?誰も予想していなかった事態である。
 この日本での事態を受けて、加熱式タバコを禁止した国もある。しかし、日本は世界で初めて加熱式タバコの販売を許可した国であり、今更すぐに禁止とはできない。
加熱式タバコ(電子タバコ)。左からグロー(glo)、アイコス(IQOS)、プルーム・テック(Ploom TECH)=2018年6月8日、東京(早坂洋祐撮影)
加熱式タバコ(電子タバコ)。左からグロー(glo)、アイコス(IQOS)、プルーム・テック(Ploom TECH)=2018年6月8日、東京(早坂洋祐撮影)
 個人としても、社会としても、国としても、新型タバコと向き合わなければならない。もうすでに新型タバコは日本で社会に浸透しつつあるのだ。新型タバコにはメリットもデメリットもありそうだ。新型タバコ問題に限らず、世の中の問題のほとんどは、あるかないかのゼロイチではなく、程度の問題である。新型タバコに対してどのように対応するべきなのか、情報も経験も、議論も足りない。
 現在、世の中に出回っている新型タバコに関する情報は、タバコ会社の息がかかったものばかりだ。テレビ、新聞、雑誌、コンビニやタバコ店の看板、ありとあらゆるメディアで宣伝、広告、販売促進活動が積極的に展開されている。タバコ会社は、あたかも病気になるリスクが低いかのように伝わる広告メッセージを意図的に広めている。そのため、多くの人は、新型タバコにはほとんど害がないと誤解しているようだ。
 まずは、それは誤解だと伝えておきたい。

たぶち・たかひろ 医師・医学博士。大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長。昭和51年、岡山県生まれ。岡山大医学部卒。血液内科臨床医を経て、大阪大学大学院で医学博士取得。専門は公衆衛生学・疫学。平成29年、後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞受賞。現在、主にタバコ対策および健康格差の研究に従事。

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