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紙巻たばこ禁止を決めた銀座ルノアール 意思決定の裏側を分析

紙巻たばこ禁止を決めた銀座ルノアール 意思決定の裏側を分析

https://news.livedoor.com/article/detail/16599191/

2019年6月11日 6時0分

都心を中心に約100店舗を構える喫茶店チェーン「(株)銀座ルノアール」。同社が2020年4月から「紙巻きたばこの喫煙を禁止する」ことを決定したとの報道に、驚いた人も少なくない。ルノアールと言えば、ビジネスマンを中心とする愛煙家の憩いの場だったからだ。
ルノアール好きが高じて、電子書籍「喫茶室ルノアール“本”店 vol.1」まで出版した「ルノアールを愛する会 会長」の山内真太郎さんが、今回の決定の背景を、ルノアールの「売上」「従業員」「創業哲学」から多面的に分析する。

ルノアール、お前もか!

2019年5月30日。全国の愛煙家に激震が走りました。

「2020年4月1日より各店舗での「紙巻たばこ」喫煙禁止のお知らせ」というタイトルのリリースが、(株)銀座ルノアールから発表されたのです。

従業員の健康に配慮するため、喫煙室での喫煙は「加熱式たばこ」のみ可とし、「紙巻たばこ」の喫煙は禁止とさせていただきます。また、喫煙室にて、ご飲食をしながらゆっくりとおくつろぎいただくスペースを確保するため、現状、「紙巻たばこ」専用の喫煙ブース設置は予定しておりません。
(同社PRリリースより抜粋)

特に注目されたのが、「紙巻たばこ専用の喫煙ブースを設置しない」という部分。

Photo by iStock

あくまでもこのリリース発表時点では「予定」ではありますが、サラリーマンのオアシス、愛煙家のラストリゾートとして愛されてきた、東京都内を中心に100店舗以上を構える巨大喫茶店チェーンである(株)銀座ルノアールの、まさに青天の霹靂とも言える「グループ全店で紙巻たばこNG」という方針決定。

「これも時代の流れか」といった感傷的な意見だけでなく、「ルノアール、お前もか!」と感情的な意見も多く寄せられました。

 

ルノアールは近年、完全分煙化を推進し、喫煙者と禁煙者の共存を目指していました。にもかかわらず、なぜこの決断に踏み切ったのでしょうか。

この記事では、課題や論点を整理した上で、ルノアールの「紙巻たばこNG」という意思決定に至るまでを推察してみたいと思います。

ルノアールの選択肢は「4つ」のみ

ルノアールの意思決定の裏側を探る前に、まずはその背景を確認しましょう。

最も影響が大きいと思われるものは、2020年4月1日に全国で施行される「改正健康増進法」、いわゆる「受動喫煙防止法」と、2019年1月1日に施行がはじまり、いくつかの段階を経て2020年4月1日に完全施行される「東京都受動喫煙防止条例」です。

・改正健康増進法について(JTによる説明ページ)
・東京都受動喫煙防止条例(東京都福祉保健局)

細かい運用ルールや法令解釈の余地の有無は省きますが、法令遵守を前提にした上で、ルノアールが現在の喫煙ルール(禁煙席+紙巻たばこもOKの喫煙席)を2020年4月1日以降も継続するとしたら、

・現在約7.7億円ある資本金を5000万円以下にする
・店舗面積を100平米以下にする
・絶対に新規出店しない
・従業員を雇わず店長ワンオペ

などを断行することが条件になります。もはやこれでは「個人経営の小さな喫茶店」ですね。現実的ではありません。

 

つまり、これらの法令が施行されるにあたってルノアールに与えられた現実的な選択肢は、

A.完全禁煙
B.禁煙席+加熱式たばこ専用の喫煙室(飲食OK)
C.禁煙席+加熱式たばこ専用の喫煙室(飲食OK)+喫煙専用室(飲食不可)
D.禁煙席+喫煙専用室(飲食不可)

の4つのみ。これ以外の選択肢はありえないのです。

 

その結果、ルノアールは「CとDを選ばない(=喫煙専用室を設けない)」という決断をしました。

「売上」の側面から分析

実は(株)銀座ルノアールは、東証二部上場企業です。多数のステークホルダーが存在するわけですから、ビジネス的な判断なくして今回の意思決定はありえません。ということで、まずはこの側面から分析してみましょう。

ちなみにルノアールはレジカウンターでたばこやライターも販売もしていますので、そのことも考慮に入れます。なお、紙巻たばこを吸うことができる「喫煙専用室
」では飲食ができないルールですので、喫煙時には席を立って移動する必要があります。

 

A.「完全禁煙」の場合
良い点:たばこ臭がゼロになるので、非喫煙者の来客が増える。
悪い点:喫煙者の来店がゼロになり、たばこの売上もゼロに。
ポイント:喫煙者+たばこの売上を、非喫煙者の来店増でどこまでカバーできるか。

B.「禁煙席+加熱式たばこ専用の喫煙室(飲食OK)」の場合
良い点:たばこ臭が減少し、非喫煙者の来店が増加。紙巻たばこを加熱式たばこに乗り換える時流が続けば、顧客流出の食い止めにつながる。販売するたばこも加熱式に切り替えることで売上減少を食い止める。
悪い点:紙巻たばこ喫煙者の来店がゼロに。
ポイント:紙巻たばこ喫煙者が、加熱式たばこや禁煙にどの程度流れるか。そしてたばこ臭の減少で非喫煙者がどれだけ増えるか、の読みが重要

C.「禁煙席+加熱式たばこ専用の喫煙室+喫煙専用室」の場合
良い点:現状の顧客層を維持できる。たばこ販売も現状維持。
悪い点:飲食提供ができない喫煙専用室の広さのぶんだけ売上減少。
ポイント:喫煙専用室の広さと売上高はトレードオフなので、バランスが重要。

D.「禁煙席+喫煙専用室」の場合
良い点:現状のターゲット顧客やたばこ販売を維持できる。
悪い点:喫煙専用室の広さのぶん売上減少。喫煙者と非喫煙者が禁煙席に混在し、たばこ臭のせいで非喫煙者が来店を敬遠する恐れ。
ポイント:衣服や呼気のたばこ臭が禁煙席に広がることは避けられず、非喫煙者の売上減は必至。

……ということで、短期的な売上から考えると、まずは「C」、次いで「B」あたりが良さそうな印象ですね。

「D」の場合も「結果的に喫煙者だけが集う店になる」という可能性があるものの、その人数を支えられるだけの広さを持った喫煙専用室を設けることは、売上確保の面から難しそうです。

「A」に関しては現在一部店舗では既に導入されていますが、全店で導入となるとスターバックス等の元々完全禁煙のチェーンが新たな競合となりますので、抜本的なブランドイメージの改革が必要になりそうです。

「従業員」の側面から分析

一方で、リリースに書かれている「従業員の健康に配慮するため」という点も見逃せません。

改正健康増進法では「未成年者を喫煙可能なエリアに立ち入らせてはいけない」という旨が明記されており、これが従業員にも適用されます。つまり、未成年の従業員は、喫煙可能なエリアでの接客や清掃ができなくなるのです。

アルバイト等の安定的な雇用を考えると、喫煙できる空間を持つこと自体が負のリスクなのです。この側面だけを考えると、「A.完全禁煙」という選択肢を完全に除外することは難しいと言えます。

 

ここまでの分析をいったんまとめると、

・短期売上を考慮すると「C.禁煙席+加熱式たばこ専用喫煙室+喫煙専用室」
・安定雇用を考慮すると「A.完全禁煙」

が選択肢として濃厚となります。

ちなみに、類似業態であるドトールは、店舗によって「A」「B」「C」の3パターンで対応する道を選びました。では、なぜルノアールは、今後も紙巻たばこ喫煙者の売上が見込める「C」を選ばなかったのでしょうか。そこには深い理由がある、と私は推察します。

「創業哲学」の側面から分析

以前書かせていただいた記事(なぜ喫茶室ルノアールには「ユニークな客」が集まるのか)にもあるように、ルノアールには創業以来の「空間提供業」という哲学があります。

「何かをしに来ているお客様のために、ゆったりとしたくつろぎの空間を提供すること」こそが、ルノアールの提供価値。

ですから、ルノアールの経営層は「たばこを吸うためにわざわざ席を立って喫煙専用室まで移動してもらう」という行動をお客様に強いることは自社の創業哲学に反する、と考えたのではないでしょうか。

もちろん、企業として利益を追求することは重要です。しかしそれ以上に「ルノアールが提供したい価値を充分に与えられない(=コーヒーとたばこを同時に楽しめない)紙巻きたばこ喫煙者をお客様にしてまで、利益を追求すること」が、ルノアールには耐えられなかったのではないでしょうか。だからこそ、「紙巻きたばこはNG」という、一見非情にも思える決断を下さざるを得なかったのでしょう。

間違ってほしくないのは、ルノアールが「自社の哲学を守るために紙巻たばこ喫煙者を排除した」のではない、ということです。

「法令により満足な喫煙環境を与えられなくなってしまった紙巻たばこ喫煙者に対して、自社の売上見込みを捨ててでも、より快適な喫煙環境を新たに探していただくことを選んだ」のです。

検討過程では、様々な議論があったことは容易に想像できます。感情的な反発も予測していたと思います。それらをすべて飲み込んだ上での、苦渋の決断だったと思います。

ルノアールの今回の決断は、「経営者の意思決定」を学ぶ上でも非常に重要なケースになるのではないかと思います。喫煙者、特に紙巻たばこ愛煙家の皆様にとっては寂しい気持ちでいっぱいかもしれませんが、2020年3月31日までの時間を、ルノアールの創業哲学に思いを馳せつつ快適に過ごしていただけることを願ってやみません。

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