加熱式ではなく「水たばこ」がブームのヨルダン・アンマンの不思議
加熱式ではなく「水たばこ」がブームのヨルダン・アンマンの不思議
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2019/6/28 21:49
グローバルの最前線で世界と向き合うJICA(独立行政法人国際協力機構)関係者の協力のもと、日本ではあまり知られていない情報をお伝えする本企画。現地に滞在するからこそわかる目線で様々な面白情報をお伝えします。今回のテーマは、ヨルダンで多くの人に楽しまれている「水たばこ」です。
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イスラムの国の喫煙事情
今回は、ヨルダンの首都・アンマンでヨルダン・ハシミテ王国の専門家として活動をしている飯塚昌さんより寄せられたエピソード。アンマンでは、今流行りの加熱式たばこではなく、なぜか水たばこ(シーシャ)が流行っているそうで、その理由や現地の楽しみ方について聞いてみました。
ヨルダンの政治・経済の中心となっているアンマンは、近代的なビルが建ち並び、人口も200万人を超える中東でも有数の大都市。夏は中東らしく高温・乾燥の気候ですが、標高1000m以上の丘陵地なので、冬は最低気温が氷点下になることや雪が降ることも珍しくなく、ときには大雪になることもあるそうです。
宗教的には人口の9割ほどがイスラム教スンナ派なので、アルコールを飲まない人が多く、その意味でも嗜好品としてたばこを楽しむ人が多く、紙巻たばこを吸う人口も日本より多いそうです。分煙や禁煙も欧米や日本ほど進んでおらず、禁煙マークのある施設内でも堂々と吸っている人がいるとのこと。
若いころは愛煙家で今はやめている飯塚さんも「お役所へ挨拶に行った際など、甘い菓子にトルコ風コーヒーでもてなしてくれるのですが、その密室で数人が一斉にタバコを吸って苦しい思いをすることもあります」と言います。
日本ではかなり増えてきた加熱式たばこは、「オフィス街では利用している方も見かけます」(飯塚さん)という程度。そんな中で、たばこのバリエーションのひとつとして水たばこ(ヨルダンでは「シーシャ」と呼ばれる)の人気が高く、若い人の間でも流行しているそうです。
「水たばこ」とは
水たばこというと日本人には馴染みが薄いですが、イスラム圏では昔から広く普及している喫煙方法です。炭で葉たばこを炙って煙を起こし、水の中を通してから吸うというスタイル。紙巻きタバコで直接煙を吸引するよりも味が柔らかくなるそうです。
シーシャに使う水パイプ(ボトル)は、上のイラストのようにかなり大型で、準備にも手間がかかり、コスト的にも高くつくので、紙巻たばこほど気軽にどこでも吸えるわけではありません。とくに健康的というわけでもないようですが、なぜかヨルダンでは今も高い人気を得ています。
その理由のひとつに、フレーバー(香り)が豊富になってファッション性が増したことがあるようです。各種の果物フレーバーが存在し、中でもアップルの人気が高いとのこと。飯塚さんもレストランで会食したときの食事後に誘われてアップル・フレーバーを試し、「お洒落な味だなあ」と感じたそうです。ボトル自体もカラフルでファッショナブルになってきて、材質もガラスではなくプラスチックのものも増えて軽量化しています。
また、1回火をつけると長く喫煙できる(1時間前後)ことも特徴のひとつで、カフェなどの店先でお茶と一緒に雑談を楽しみながらゆっくりと味わえるのもシーシャの良いところだそうです。都会では店内でシーシャを楽しめる店が多く、飯塚さんの体験のように食後にシーシャを楽しむのも日常的な風景です。ホテルやカフェの一角で水たばこをくゆらせている人も目立ちます。
その場合、シーシャのセットは自前ではなく店から借りる形になり、フレーバーを指定して用意してもらいます。吸い口は交換式(使い捨て)なので使い回しはなくなり、昔のような感染症の不安もなくなっています。
ただし値段はけっこう高いです。紙巻たばこでも税率が100%ほどあって1箱300円以上になりますが、レストランなどでシーシャを用意してもらうと最低でも500円近くかかるそうです。シーシャは炭に火を起こすなど準備に手間がかかるし、その炭も煙が出るような粗悪なものではいけないからです。
高級レストランなどでは12ドル(約1300円)にもなるそうで「お酒を飲まないムスリムのお金持ちにとっては、甘いお菓子とシーシャが道楽なのかも」と飯塚さんは言います。飯塚さんのオフィスに勤める秘書嬢も「高いでしょう。だから私は紙巻タバコなのよ」と笑い飛ばしながら普段は紙巻たばこを吸っているそうです。若者の感覚からすると、日本人がインスタ映えする高級スイーツをときどき食べに行くのと似ている面があるのかも。
都市部以外でも、どこの田舎町に行っても販売店があり、セットを購入して自宅で楽しむ人が多いそうです。ピクニックにセットを持っていってアウトドアで楽しむ人もいたり、女性の愛好者が多かったりするのも特徴と言えます。
紛争地帯のイメージがある中東にあって、ヨルダンは比較的安全な「オアシス」的存在と言われています。だからこそ多くの老若男女がゆっくりとシーシャを堪能できるわけで、平和の象徴と言えるかもしれません。ただし、ラマダン(断食月)の時期には日中の飲食に加えてタバコも禁止されているので「愛煙家には辛いでしょうね」(飯塚さん)とのこと。お国柄によってやはり喫煙事情もかなり変わるものですね。
【協力してくれた人:飯塚 昌さん】
飯塚さんは、大学在学中に米国中西部の酪農実習を経験し、卒業後は養豚会社に入社してマレーシアに赴任しました。その後、JICAの実施するアセアン青年招聘事業のマレーシア語研修管理員を経て、1989年のフィリピンを皮切りにJICAの各種のプロジェクト調整員として東南アジア、南アジア、中央アジア、南部アフリカへの派遣を経験。現在は中東のヨルダンで農業系の「三角協力プロジェクト」の業務調整を担当しています。これはイスラエル、ヨルダン間の信頼醸成を目指して日本を仲介に三か国が共同するプロジェクトで、熱帯果樹とティラピア養殖の技術移転を目指しています。そんな中で、かつてのJICAのコピー「人づくり、国づくり、心のふれあい」を胸に、今も初心を大切にしながら活動を続けています。
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