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「野球とタバコ」の断ち切れない悩ましい関係 変革が必要だが旧態依然としたままだ

「野球とタバコ」の断ち切れない悩ましい関係 変革が必要だが旧態依然としたままだ

https://toyokeizai.net/articles/-/294280

2019/08/02 5:10

昭和に大人になった世代では珍しいと思うが、筆者は1度もタバコを吸ったことがない。固い信念があったわけではなく、いつの間にかそうなったのだ。しかし、昭和の日本では喫煙は当たり前の習慣だった。

大学生になれば、みんながタバコを吸った。筆者は京都の立命館大学に通った。

関西六大学野球(当時)の伝統の一戦、立同戦(同志社大学に言わせれば同立戦)では、試合途中に応援リーダーから「煙幕いくぞー!」と号令がかかると応援席の学生は、みんな胸いっぱいにタバコを吸い込み「いけー」の号令で一斉に煙を吐き出したものだ。

西京極球場(現わかさスタジアム京都)の客席は、春霞のような煙に包まれた。味方が煙たいだけで、相手にはなんのダメージも与えないが「煙幕攻撃」は、大学野球ならではの応援だった。全面禁煙の今の球場では考えられない。

タバコを吸うのが当たり前だった昭和時代

昭和の時代、世の中には「禁煙スペース」はあったが「喫煙スペース」はなかった。「禁煙」と書かれていない場所では、どこでもタバコOKだったのだ。

筆者は広告会社に入ったが、打ち合わせはもうもうたる煙の中でするのが常だった。副流煙もへったくれもなかった。筆者のようにタバコを吸わない社員も、ヘビースモーカーに付き合って薫製のようになりながら打ち合わせをした。帰宅すると親が「タバコ臭っ!」といったものだ。不思議なことに、そのころはタバコの煙を浴びても、苦しいとも不快とも思わなかった。そんなものだと思っていた。

昭和のプロ野球選手も当然のように愛煙家だった。殊勲打を打った選手は、試合後にロッカールームで記者団に囲まれて、うまそうにタバコを一服吸ってからインタビューに応えたものだ。それは「男の美学」を感じさせる光景だった。

ただ、世界的に見れば、この時代でもアスリートが喫煙するのは異常なことではあった。スポーツライターのマーティ・キーナートは1988年に出した『ニッポン野球、一刀両断―外人選手170人の証言』(石田パンリサーチ出版局)で、外国人選手の多くが、日本の野球選手がロッカールームで平気でタバコを吸っていることに驚いていると書いた。

平成になってから「禁煙」が社会の常識になるとともに日本人の「喫煙」に対する受容度、許容度は急速に小さくなっていく。

1989(平成元)年の全世代の喫煙率は、JT全国喫煙者率調査では男子61.1%、女子12.7%だったが、2018(平成30)年には男子27.8%、女子8.7%だ。

あれほどタバコの煙に燻されながら仕事をした筆者も、最近は、タバコの煙がふっとでも鼻をかすめると、そちらの方へ目が行くようになった。また、タバコの煙が鼻に入ると頭痛がするようになった。言い方を変えれば体が「タバコへの耐性」を喪失したと言えそうだ。

いまだにタバコを吸う野球選手たち

今では野球場も指定の喫煙場所を除いて全面禁煙になった。東京ドームでは建物の外側にビニールの幕で覆った喫煙所が設けられている。愛煙家はここで肩身が狭そうに、タバコを吸っている。スタンドで観戦していると敵の攻撃になると席を立って、しばらくすると香ばしい匂いをまとわりつかせて席に戻ってくるおじさんをたくさん見かける。

しかしながらスタジアム、とくにダッグアウトの上辺りにいると、ごくたまに頭痛がすることがある。またかすかに匂いが漂ってくることがある。これは、球場のベンチ裏にある「喫煙室」の煙が、どこかの隙間を通って漂っているのだ。

今年、巨人の監督に復帰した原辰徳は、就任会見で主砲の岡本和真に話が及ぶと「まず、タバコをやめるべきだろうね」といった。これは少なからぬ衝撃を与えた。世間には「まだ吸ってるのか!」と驚いた人がかなりいたはずだ。

日本のプロ野球選手の多くは、今も「愛煙家」だ。だから日本のプロ野球の本拠地球場のベンチ裏には「喫煙室」があるのだ。そしてほとんどの場合、喫煙習慣は、アマチュア野球の時代に身についたものだ。春先に前年高卒で入団した新人選手が「喫煙」で謹慎させられることがよくあるのは、それを物語っている。

筆者は高校野球の監督に話を聞くこともあるが、取材に赴くと監督が応接室の窓からグラウンドへ向かって「おい、タバコ」と叫ぶのをしばしば目にする。その声を聞いて、グラウンドで声を出している控え選手が慌てて部室に駆け込んで、灰皿とタバコ、ライターを持って応接室に持ってくるのだ。見慣れた風景だ。最近は「吸っていいかね」という人が増えたのが変化といえば変化か。

タバコと日本野球は、かくも親和性が高いのだ。もちろん、未成年者の喫煙は法律で禁止されており、今の高校野球部の選手は一切喫煙してはならない。それでも喫煙が発覚した球児たちが、学生野球協会の対外試合禁止や謹慎処分となるニュースも散見される。

昔の時代の指導者は「ばれないように吸え」ということもあった。SNS全盛の昨今では、どこで誰が見ているかもわからない。今は「絶対吸うな」と指導者たちは言っている。

指導者や親たちが喫煙者だったら

しかしながら、指導者のかなりが愛煙家なのだ。そして、ほとんどが選手の前でもタバコを吸う。日本の高校野球は長時間練習をするから、愛煙家の監督は我慢することができない。そういう指導者も「タバコを吸うな」とは言うが、切っ先が鈍るのは仕方がないところだ。

また、高校球児の親たちの喫煙率も決して低くはない。少年硬式野球では、練習グラウンドの整備を保護者がやることが多い。グラウンドをならしたり、ラインを引いたりした親は、子どもたちの練習が始まると球場裏で待機するが、集まって喫煙しているのをよく見かける。

父親だけでなく母親の喫煙率もかなり高い。冬場などは一斗缶でたき火をして、それを囲んでお父さん、お母さんが紫煙をくゆらせるのだ。こういう家では子どもたちに「タバコを吸うな」と言っているのかどうか。

そして、父母や指導者がタバコを吸いながら子どものサポートをする光景を目にするだけで「わが子に野球をやらせるのはやめよう」と思う親が少なからず存在する。

日本のプロサッカー界(Jリーグ)は、タバコを吸う選手は極めて少ない。「誰々が吸っている」という話もあるがレアなケースだろう。そして少年サッカーの現場では原則「禁煙」だ。

日本の野球界は残念ながらそうはなっていない。指導者や保護者の喫煙率は高いし、禁煙を励行しながらもそれを徹底している団体はほとんどない。少年野球団体が「全面的な禁煙」を通告したという話も聞かない。大会のときに「タバコは指定された場所で吸いましょう」というお達しが出る程度だ。

今、高校野球の「球数制限」が大きな話題になっているが「野球界の喫煙」問題も、これと密接な関係にある。医師は、保護者や指導者の喫煙が野球少年、とりわけ小学生に大きな影響を与えると警告している。受動喫煙による血流障害によって、野球肘の1つであるOCD(離断性骨軟骨炎)の発病リスクが上がるという指摘もある。

この部分でも悩ましい問題が存在する。筆者は、野球の普及活動や、新しい指導法を開発する指導者、関係者の会合によく出る。その後の宴席に出ることもあるが、会場の端っこのほうで喫煙する人が結構いるのだ。周囲は見て見ぬふりをするが、かなり気まずい空気だ。

野球の未来に向けて、いろいろな活動を行っている進歩的な人の中にも、少数ながら喫煙者がいるのだ。

喫煙そのものが悪いわけではない

もちろん、「禁煙」だけを踏み絵にして、喫煙者を排除することはよくない。喫煙そのものは違法ではないし、価格が高くなったとはいえ、タバコも買うことができる。

問題は喫煙する指導者の「自覚」だ。今、タバコを吸っていない多くの指導者は、自ら発心して禁煙に成功している。そのことを考えるべきだろう。

スポーツ指導者として禁煙へ向けた努力はあってもよいだろう。そのうえで、子どもの前では絶対に喫煙しないこと。どんなに長く接していても、子どもの前で吸わないことを徹底したい。

そして、わが子や教え子を「喫煙者」にしないこと。そうした努力の過程で、指導者としても進化するのではないだろうか。

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