愛煙家の聖地「スナック」に押し寄せる禁煙の波 禁煙化に踏み切ったスナックに聞いてみた
愛煙家の聖地「スナック」に押し寄せる禁煙の波 禁煙化に踏み切ったスナックに聞いてみた
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2019/08/01 5:10
日常の疲れを癒やし、楽しい会話とお酒を楽しめるスナックだが、中には誰の目を気にすることなく、思いっきりタバコを吸えるのがいいという人もいるだろう。日頃から肩身の狭い思いをしている愛煙家にとって、こうした場所は貴重である。
だが、そんなスナックにも「禁煙の波」が押し寄せようとしている。2018年7月に成立した改正健康増進法は、望まない受動喫煙の防止を目的としたものだ。すでに、2019年7月1日からは、学校・病院等が屋内全面禁煙になっている。
禁煙や分煙をうたうスナックはまだ少ない
さらに2020年4月1日からは、スナックやバーを含む飲食店・職場等でも、原則屋内禁煙が義務付けられる。東京オリンピック・パラリンピックに向けた配慮でもあるのだが、お酒とタバコを一緒に楽しめないのは、愛煙家にとってつらいことだろう。
当初は、一部の施設に限り“喫煙可”を継続する案も浮上していた。しかし、ふたを開けてみると、喫煙をサービスの主目的とする施設においても、「受動喫煙防止の基準に適合した場合に限り、喫煙目的室を設けることができる」といった内容に留まった。
この先、スナックを経営するママやマスターにとって、苦しい判断を迫られることになっていくであろう。
東京オリンピック・パラリンピックを1年後に控え、改めて、スナックとタバコの現状について調べてみた。すると、数あるスナックの中で、禁煙や分煙をうたうスナックは非常に少ないことがわかった。
いままでに筆者が訪れた多くのスナックでは、扉を開ければ室内には紫煙がただよい、どのテーブルにも灰皿が備え付けてあるのが見受けられた。酒に酔う愛煙家たちは、気持ちよさそうに歌い、当然のごとくタバコに火をつける。
あるママに「身体によくないんじゃないの?」と聞くと、「そうねえ。身体にはよくないし、若いスタッフはタバコが原因で辞めてしまうこともあるわね。でもお客様は、タバコが吸いたくてここに来るじゃない。楽しみを取り上げるみたいで、なかなか禁煙にはできないわ」とのこと。
スタッフやタバコを吸わない客にとっては劣悪な環境であるものの、今いる常連をむげにすることもできない。ママの苦悩がうかがえる一言である。禁煙への圧力と、売り上げや客足への影響。その狭間で、揺れている店舗は多いのではないだろうか。
ドアを開けてもあのにおいがしない!
こうした中、「禁煙」をうたう珍しいスナックがあると聞き、さっそくサラリーマンの聖地、新橋へ向かった。
駅から徒歩3分程の雑居ビル2階にその禁煙スナック「Natsu夏」はあった。
扉には禁煙マークのシールが貼られ、その横には、「飲み放題&歌い放題3時間(金曜2時間)3000円」と明記された料金ボードが。明朗会計、非常にリーズナブルなスナックである。扉を開けると、スナック特有の壁に染み付いたヤニ臭が一切しない、クリーンスナックだ。
菓子が入った瓶や、烏龍酎、コーヒー酎、むぎ酎などの珍しい酒瓶が並ぶカウンターに腰かけると、18時という早い時間にもかかわらず、先客が気持ちよく演歌を歌いはじめた。常連に愛されているのがわかる。
ママのちなつさんに、なぜ新橋という場で禁煙スナックをはじめたのか聞いてみた。
「禁煙スナックNatsu夏は、2011年1月にオープンし、今年で8年目。きっかけは、知人がオープンするワインバーの隣が開いていて、『隣同士でやらない?』と誘われたからなの。
OLを辞める決心をして、内装工の現場に立ち入ったとき、空気がこもっていている店内を見て『これはまずい!』と思ったわ。私が喘息だったこともあり、思い切って禁煙のお店にしてみたのよ」。
酔っ払ったサラリーマンの多い新橋。タバコを吸う人も多いだろう。はたして、禁煙スナックは成立するのだろうか。
「表の看板や、扉の前にも禁煙マークは出しているんだけど、やっぱりスナックはタバコが吸えて当然と思って来られるお客様も多いわよね。これまでも、無意識にタバコに火をつけるお客様がいたわ」とちなつママ。
「でも、『うちは禁煙なのでタバコは外の灰皿でお願いします』と言うと、みんな素直に応じてくれるわね。それ以降、初めて来られる方には、『うちは禁煙ですけどいいですか?』って声かけるようにしているの。禁煙と聞いて帰るお客様もたまにいるけど、最近は、禁煙を目当てに来られる方も増えています」
実際、この日たまたま訪れたという客もぜん息持ちで、タバコは苦手だという。タバコの煙がいっさい漂っていない「Natsu夏」をすっかり気に入ったらしく、お酒を飲みながら気持ちよさそうに持ち歌を披露していた。
「以前は、扉の前に灰皿を置いて、タバコを吸いたい人は扉の外で吸ってもらっていたわ。でも、吸った後の残り香や煙がどうしても店内に入ってきてしまう。それで、令和に改元したタイミングで、店外の灰皿も撤去したの。
年配のお客様の中には時折クレームをいう人もいるけど、今では、女性や若い団体客などの常連が増えたわね。1人で来る女性客も多いし、出張の度に顔を出してくれるお客様、歌が好きで集まる常連もいるわ」(ちなつママ)
3年前に禁煙スナックに切り替えた
一方、長年喫煙可だったのを禁煙に切り替えた店もある。それが、花街の風情が残る東京・湯島天神下、大通りに面したビルの地下にあるのは、今年で37年目となる老舗店「スナック もしも…」である。
扉を開けると、カウンターと半円型に設置されたテーブル席が広がり、昭和の雰囲気を感じさせる。フロアでは、白いエプロンを身にまとった女性スタッフがお客様の歌に合わせ手拍子をし、楽しく談笑している。まさに、アットホームな雰囲気だ。
ある理由をきっかけに3年前に全面禁煙へと移行。タバコを吸いたい人は、外に出て、階段横に設置された灰皿で吸ってもらっているそうだ。では、禁煙に踏み切った理由は何だったのだろうか。仁子ママに話を聞いた。
「以前は、お客様も心おきなくタバコを吸っていたの。でもここは地下でしょ。
時々、部屋の天井一面にタバコ雲ができるくらい煙が蔓延して、息苦しく感じられることもあって。そんなことが影響してか3年ほど前に、心筋梗塞で倒れてしまった。2度のカテーテル手術を経て退院できたんだけど、いろいろ考えて全面禁煙にしようと決意したの」
そうは言っても、もともとはタバコが吸えていたお店である。全面禁煙に踏み切ったことで、影響はなかったのだろうか。
「多くのお客様は、わたしが身体を壊したことを心配してくれて、『それなら仕方ない』と納得してくれた。ただ、酔ったお客様から『スナックでタバコ吸えないとはどういうことだ、冗談じゃねえ!』と言われたこともあったわ。それでも、『ごめんなさい。嫌だったら帰ってね。これはみなさんにお願いしていることだから』と言うと、大人しくなって結局、お店に居続けてくれるのよ」
タバコを吸うことが目的ではない
愛煙家にとってタバコを吸えないのはつらいことだが、優しい口調でお願いされると、文句は言えない。そして何より、この店に居続けたいという気持ちの強さが垣間見られた。
「ただね、寒い日に外でタバコを吸っている姿を見ると、申し訳なく思うこともある。マフラーをこちらで用意しておいて、少しでも身体を冷やさない配慮はしてるんだけどね。でも最近は、こちらからお願いしなくても外でタバコを吸ってくれるし、新しいお客様には常連さんが『タバコは外だよ』って教えてくれたりして、私の身体を気遣いつつみんなが協力してくれる」
今回取材した禁煙スナックを訪れる客は、必ずしも“タバコが吸えること”を求めるのではなく、ママやスタッフ、常連とのコミュニケーションや楽しいお酒、そして憩いの場としてのスナックを求めているのではないだろうか。
いま、顧客離れを懸念して、禁煙に踏み切れていないスナックも多い。しかし、常連から愛されている店であれば、たとえ全面禁煙に移行したとしても、売り上げや客足への影響は限定的のようだ。それがママの身体を考えてのことなら、なおさらである。
いま日本では、社会全体として、タバコとの向き合い方を変えようとしている。しかもそれは、日本だけでなく、世界的な潮流でもあるのだ。
スナックにおいても、多種多様なスナックが増えつつあり、今後、禁煙であることを求めてくる客も増えていくであろう。全面禁煙に踏み切ることで、ともに健康に配慮しながら楽しめる店が増えていくのではないだろうか。
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