WHO「加熱式たばこは従来製品と同様に規制すべきだ」…世界のたばこ蔓延に関する報告書
WHO「加熱式たばこは従来製品と同様に規制すべきだ」…世界のたばこ蔓延に関する報告書
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190819-OYTET50009/
2019年8月21日
たばこ規制に六つの指標「MPOWER」
世界保健機関(WHO)は2019年7月、たばこの世界的な 蔓延 に関する報告書を発表した。たばこの健康被害を防ぐため各国が連携して規制に取り組むことをうたった「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」に基づく、対策の 進捗 状況をまとめたもので、報告書は2008年から原則2年ごとにまとめられ、今回で7回目となる。
WHOが効果的なたばこ対策を進めるうえでの指標として掲げているのが、英語の頭文字をとった「MPOWER(エムパワー)」と呼ばれる次の六つの柱だ。
M たばこの使用と予防策の監視P たばこの煙から人々を守る
O 禁煙支援の提供
W たばこの危険性の警告
E たばこ広告や販促、スポンサーの禁止
R たばこにかかる税金の引き上げ
これらの項目について各国の状況を4段階で評価し、取り組みを促している。
公共の場所の禁煙化 ランクアップも下から2番目
今回の報告書では「禁煙支援の提供」の取り組みについて詳しく解説され、国が禁煙支援の提供を行っていることなど4段階で最高評価だったのは23か国。日本は2番目のランクだった。
ちなみに日本は、4段階で最高ランクに評価されているのは「監視」の項目のみ。公共の場所を禁煙にするなどの「たばこの煙から人々を守る」対策は、2年前は最下位のレベルだったのが、今回の報告書では下から2番目にワンランクアップした。そのほかの「警告」は下から2番目、「広告などの禁止」は最低、「税金」は上から2番目のランクとされている。
加熱式たばこと電子たばこについて特記
今回の報告書で特徴的なのは、いわゆる新型たばこと呼ばれる「加熱式たばこ」と「電子たばこ」について、それぞれ独立した章を設け、解説を加えて注意を喚起したことだ。
このうち加熱式たばこは、世界40か国以上で使われている。特に日本では2016年頃から急速に広がった。
「新型タバコの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学」の著者で大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部の田淵貴大さんによると、インターネットの調査で今や日本人の成人の約10%が加熱式たばこを使っていると推定される。従来型の紙巻きたばこと併用しているケースが多いという。
WHO報告書が強く訴えるのは、現状では加熱式たばこの健康被害が従来型のたばこよりも少ないとは言えないこと、形態がどうであれ、たばこである以上はたばこ製品として規制されるべきであるとの考え方だ。以下、箇条書きにされた加熱式たばこについての基本情報と各国への推奨を列記する。
「必ずしも健康へのリスクが減ることを意味しない」「長期的な影響はまだ不明で証拠は不十分」
・加熱式たばこは、たばこを含んでおり、従来型のたばこ製品のように規制されるべきだ。
・加熱式たばこは有毒な排出物を生み出し、その多くは紙巻きたばこの煙で見つかる有毒物質に似ている。
・加熱式たばこの使用者は製品からの有毒な排出物にさらされ、また周囲の人もこれらの有毒な間接排出物にさらされ得る。
・加熱式たばこのいくつかの有毒物質は従来型のたばこよりもレベルが低いとは言え、他の有害物質のレベルはより高い。いくつかの有毒物質のレベルが低いことは、必ずしも健康リスクの減少を意味しない。
・加熱式たばこはニコチンを含む。ニコチンは高い依存性があり、特に子どもや妊婦、若者の健康への害につながる。
・加熱式たばこの使用及び排出物の長期における健康への影響は、まだわかっていない。相対的、絶対的なリスクについての独立した証拠は今のところ不十分で、使用者や周囲の人への健康リスクを測る独立した研究が必要だ。
境界があいまいな製品が増えたことの問題
加熱式たばこと並び、今回の報告書が問題にしたのが「電子たばこ(ENDS=電子ニコチン送達システム)」。日本ではニコチンは医薬品として薬機法で規制されるため認められていないが、世界では急速に広がっており、健康への影響などについて懸念を巻き起こしている。
また、電子たばこには、ニコチンを含まないもの(ENNDS)もある。ニコチン入りの電子たばこ(ENDS)が規制されている日本でも、溶液にニコチンを含まない製品は、法律的にはたばこ製品にも医薬品にも当たらず、販売されている。
新型たばこの問題をわかりにくく、ややこしくしているのは、これらの製品の中には見た目だけでは区別がつきにくいものもあることだ。田淵さんは「たとえば禁煙場所を指定して、たばこ製品の使用を禁止するのには、たばこを吸う行為そのものを認めないと伝える意義もあるのだが、電子たばこが許容されてしまうと、こういった意義が弱められてしまう。たばこの定義を分かりにくくするということは、実はこれまでもずっとたばこ会社が意図的に仕向けてきたこと。これからのたばこ対策を進めるうえでの大きな課題となってきた」と、指摘している。
世界で毎年800万人以上が死亡
最後に、WHOが報告書とともに公表している、世界のたばこ問題のカギとなる事実を列記して話を締めくくろう。
・たばこによって喫煙者の半分は命を失う。
・たばこによって毎年800万人以上が亡くなる。うち700万人以上は直接喫煙の結果で、約120万人は非喫煙者の受動喫煙によるものだ。
・世界で11億人いる喫煙者の約80%は、低中所得国に住んでいる。
(田村良彦 読売新聞専門委員)
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