http://www.wma.net/e/policy/h4.htm
第40回世界医師大会(オーストリア・ウイーン)で採択。1997年(ドイツ・ハンブルク)ならびに2007年(デンマーク・コペンハーゲン)世界医師会総会で一部修正。
はじめに
世界の大人の3人に1人以上(11億人以上)がタバコを吸い、その8割は中~低所得国に住んでいる。喫煙をはじめとしたタバコ使用は、すべての臓器を侵し、ガン・心臓病・脳卒中・慢性閉塞性肺疾患・胎児への傷害などの主要な原因となっている。現在の傾向が続くなら、2020年には毎年1000万人がタバコにより命を奪われ、その死亡の7割は発展途上国で発生するようになる。20世紀にタバコで命を奪われた者は1億人だったが、適切な対策が講じられなければ、21世紀には10億人がタバコによって命を落とすだろう。それだけでなく、4000種以上の化学物質、50種以上の発ガン物質などの有害物質を含むタバコ煙にさらされる非喫煙者は、肺ガンや心臓病などの病気で命を脅かされている。
全世界の公衆の健康を守る陣営は、世界保健機関(WHO)を通じて、タバコ使用とタバコ関連疾患の増加が止まらない状況に大きな憂慮を表明してきた。2007年9月20日現在、150カ国がタバコ規制枠組み条約(FCTC)を批准しているが、この条約は、締約国に、タバコ税増税、タバコの広告と販売促進活動の禁止、公衆の集まる場所と職場の完全禁煙、タバコのパッケージへの効果的な有害警告表示の徹底、禁煙治療を受けやすくする施策の実施、タバコ製品の成分と体内摂取量の公開と規制、タバコ製品密輸根絶などの強力なタバコ消費低減対策を実施する義務を課している。
家庭、職場、公衆の集まる場所で禁煙でない場所では常に受動喫煙が生じている。WHOによれば職場の受動喫煙によって毎年世界でおよそ20万人の労働者の命が奪われている。さらに、世界中のこどもの半数、7億人のこども達が、とりわけ家庭において受動喫煙にさらされている。最近の3件の包括的報告書(IARCモノグラフ第83集「タバコ煙と受動喫煙」、米国公衆衛生長官報告書「受動喫煙の健康影響」、カリフォルニア州環境保護局「環境タバコ煙を有害空気汚染物質と規定する提案」)を踏まえて、WHOは2007年5月29日に世界中のすべての職場と屋内施設の完全禁煙を呼びかけた。
タバコ産業は、タバコの健康影響に関する科学的真実を明らかにするために、内部での研究を行うだけでなく、タバコ産業の研究計画と共同する形で外部の研究に資金を出すなどの努力を真摯に行ってきたと主張している。しかし、タバコ産業は、つねに、タバコ喫煙の有害影響に関する情報を否定し、隠し、公表しないよう圧力をかけてきた。タバコ産業は、長年にわたり、タバコ喫煙がガンや心臓病を起こすかどうかについて確定的な証拠は出ていないと主張してきた。さらにニコチンに依存性はないと主張してきた。これらの言説は、世界中の医療界から繰り返し論破されてきた。このような理由で医学医療界は、タバコ産業の膨大な広告キャンペーンに断固として対峙してきたがために、医学医療団体自身がタバコに対抗するキャンペーンを行ううえで確固としたリーダーシップを発揮しなければならないことを強く確信するに至った。
タバコ産業とその関連団体は、長年にわたってタバコと健康に関するさまざまな観点の研究と報告書作成に資金を出してきた。そのようなタバコ産業の活動に参加した研究者個人あるいは研究機関は、タバコ産業が彼らの出した研究データを、タバコの売込みのために直接活用できないような場合においても、タバコ産業の見かけ上の社会的信頼性を高める役割を果たしてきた。また、このような活動に関与することは、健康増進という医学医療の目標と相容れない重大な利害相反をもたらしている。
勧 告
世界医師会は各国の医師会とすべての医師に、以下の行動を実行し、タバコ使用によってもたらされる健康被害を食い止めるよう要請する。
1. 喫煙をはじめとしたタバコ製品の使用を食い止める方針を確立し、その方針を社会に広く公表すること。
2. 世界医師会が自らの決定に従ってすべての会合で実践しているように、各国医師会の主催するすべての運営的、社会的、学術的、儀礼的会合での喫煙を禁止すること。
3. (依存の問題を含む)タバコ使用と受動喫煙の健康影響を医療専門家と一般市民に教育するためのプログラムを作成し、支援し、その実践に参加すること。紙巻タバコと無煙タバコの使用者がタバコ使用をやめるための動機付けと支援のプログラムと、紙巻タバコや無煙タバコ製品非使用者のタバコ使用回避プログラムは等しく重要である。
4. すべての医師が(タバコ製品を使わない)ロールモデルとなり、タバコ使用の悪影響とタバコ使用中止の利益を一般市民に伝えるキャンペーンの伝達者となるよう激励する。すべての医学校、生物医学研究施設、病院ならびにヘルスケア施設を完全禁煙とするよう要請すること。
5. 医学生と臨床医が、担当する患者のタバコ依存症の評価と治療ができるよう教育プログラムを作成し改良すること。
6. 禁煙外来、禁煙教室、電話による禁煙相談、インターネットによる禁煙サービスなど、カウンセリングと薬物療法を含む効果の証明されたタバコ依存症治療システムに多くの人が容易にアクセスできるよう支援活動を行うこと。
7. タバコ使用とタバコ依存症の治療に関する臨床診療ガイドラインを作成あるいは支持すること。
8. 世界医師会はWHOに対して有効性の確立したタバコ使用中止治療を「基本医療に関するWHOモデルリスト」に追加するよう要請しているが、この要請に協力しよう。
9. タバコ産業からいかなる資金も教育的物資ももらわないこと。そして医学校、研究施設、研究者個人に対しても、同様のことを要請する。これは、タバコ産業にいかなる社会的信頼性も与えないためである。
10. 公衆の健康を守るために、自国の政府に、タバコ規制枠組み条約の批准と完全な実施を要請すること。
11. タバコ売り込み活動の重点を先進国から発展途上国にシフトにする事に明確に反対すること。また、自国に政府も同様の立場をとるよう要請すること。
12. 以下の法律を制定し実施すること
a. 以下に示す条項を含むタバコ製品の製造・販売・流通・販売促進活動の包括的規制の実施。
b. すべてのタバコ製品のパッケージとその広告販売促進アイテムに文字・絵・写真による有害警告表示を義務付ける。表示はよく目立つものとし、タバコ使用を止めたい場合に利用できる支援サービスにアクセスできる電話番号、インターネットアドレスも載せること。
c. すべての屋内施設(ヘルスケア施設・教育機関など)、職場(レストラン・バー・ナイトクラブを含む)、公共交通機関での喫煙を禁止する事。精神保健施設と薬物依存症治療施設も完全禁煙とすべきである。刑務所での喫煙も許容すべきでない。
d. タバコ製品の宣伝と販売促進活動の完全禁止。
e. こどもや若者への紙巻タバコなどのタバコ製品の販売・配布の禁止。購入を容易にする設備・手段も禁止すること。
f. すべての国内線ならびに国際線の商業的航空便内での喫煙の禁止。空港などでの免税タバコ製品販売の禁止。
g. 葉タバコ農業およびタバコ製品に対する国の補助の禁止。
h. タバコ使用率とタバコ製品が国民の健康に及ぼす影響の調査の実施。
i. 現在使用されていない新たなタバコ製品の販売促進・流通・販売の禁止。
j. タバコ製品の税金を上げる事。増税による増収をタバコ使用予防プログラム、科学的根拠のあるタバコ製品使用中止プログラムやサービスならびにその他の保健対策にあてる事。
k. 非合法的タバコ製品取引および密輸タバコの販売の低減と根絶。
l. タバコ耕作農家の転作援助。
m. 政府に対し国際的貿易協定からタバコ製品の除外を要請する事。
以上
【原文】http://www.wma.net/e/policy/h4.htm
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