調査に応じた子どもやその親のなかで、これら健康被害を理解していた人、あるいは安全措置について研修を受けていた人は少ない。インドネシア政府は、たばこ栽培で子どもたちが被る健康被害への意識を高めるために、大規模な教育キャンペーンを展開すべきであろう。

調査対象だった子どものほとんどは放課後や休みの日に働いていたが、たばこ農場での労働が学業の妨げになっているケースも一部みられた。中部ジャワ州マゲラン県出身の「サリ」(14歳)は、看護師になることを夢見ていたが、家族を支えるために6年生で学校に通うのをやめたと話した。

インドネシアで活動する大手たばこ会社には、3つのインドネシア製造企業PT Djarum、PT Gudang Garam Tbk、PT Nojorono Tobacco Internationalと、多国籍企業が所有する2社(British American Tobaccoが所有するPT Bentoel Internasional Investama、Philip Morris International が所有するPT Hanjaya Mandala Sampoerna Tbk)がある。このほかにも、インドネシアのたばこ生産者から買い付けを行っている多国籍企業やインドネシア企業もある。

本報告書の調査結果を13社に伝えたところ、10社から回答を得た。 インドネシア企業4社は、いずれも詳細あるいは包括的な回答をせず、最大手のDjarum社とGudang Garam社は、再度の求めにもかかわらず沈黙を守った。

2013年以来、ヒューマン・ライツ・ウォッチは児童労働に関する企業方針やその実施に関し、複数の多国籍たばこ製造会社と会い、やりとりをしてきた。そのなかで、米国内のたばこ農場における児童労働問題を調査・検証し、グローバルなサプライチェーンから有害な児童労働を根絶するための具体的な措置をとるよう、数々のたばこ会社に要請した。複数の企業は児童労働のための新たな保護策を採用したものの、サプライチェーン内のすべての子どもを確実に保護するのに十分な企業方針を持つ会社はまだない。

人権規範のもと、買い付けたたばこが有害な児童労働の産物でないことを保障する責任をたばこ会社は負っている。

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Indonesia's Tobacco Industry Supply Chain

インドネシアでは多くの場合、たばこは輸出業者や仲介業社を介してオープンマーケットで取引されている。インドネシア企業や多国籍企業が買い付ける前に、すでにかなり多くの手を通過しているのが現状だ。しかし、個々のたばこ会社と直接契約している農家もある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの問いかけに応えたのは、サプライチェーンにおいて、農家との直接契約を優先しているいくつかの多国籍企業だった。しかし、これら全ての会社はオープンマーケットでの取引も同時に行っており、たばこがどこで、どのような条件で生産されているのかを追跡している会社はなかった。

今回の調査では、インドネシアのたばこ会社がサプライチェーン上の児童労働を防止するための措置をとっているという証拠を確認することができなかった。また、これらのたばこ会社がヒューマン・ライツ・ウォッチの問いに詳しく答えたり、面会に同意することもなかった。

前出のワース調査員は、「買い付けたたばこがどこから来たのかさえ知らなければ、たばこ製造のために子どもたちが健康被害を受けないよう保障することなど、とうていできるはずがない」と指摘する。

インドネシア国内法は就労の最低年齢を15歳と定めており、13〜15歳は学校教育を妨げたり、健康と安全を損なわない程度の軽い労働のみが許されている。 18歳未満の子どもは、有害化学物質が存在する環境を含め、危険な労働が禁じられている。たばことの直接的な接触を伴うすべての労働は、ニコチン曝露のリスクから、この規定により禁じられるべきだ。

インドネシアは喫煙の危険から子どもを守るのに失敗し、国際社会の注目の的となっている。インドネシア国内法は子どもへのたばこ製品の販売を禁じているが、毎年10〜14歳の子どもおよそ400万人が喫煙者となっており、10歳以下の少なくとも23万9,000人が喫煙を始めている。15歳以下で受動喫煙にさらされている数は、4,000万人超だ。

インドネシアは「たばこの規制に関する世界保健機関枠組み条約」に署名も批准もしていない世界で数少ない国のひとつだ。この国際的な公衆衛生条約は、たばこ消費およびたばこの煙にさらされることへの影響から、人びとを保護することを目的としている。同国も速やかにこの条約に署名し、批准すべきである。

ワース調査員は、「たばこ消費の危険から子どもを守るために、インドネシア政府はもっと多くの行動を起こすべきだ」と指摘する。「そして消費のみならず、隠れた被害者であるたばこ農場で働く子どもたちも早急に保護する必要がある。」